第八話「犯人の独白」

百合は立ち上がり、カバンの中から白い封筒を取り出した。そして手紙を取り出すと、中の一文を読み始めた。

「あなたを見ていると、綺麗な夕日が穏やかな波に映えて僕の汚れた心を洗い流す母なる海が見えるかのようです。あなたの美しい瞳が、僕の頭に焼き付いて離れません」

それは、高瀬君が百合に送ったラブレターの一文だった。

「これ書いたの、慎吾君なんでしょ?」
「えっ?」

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「だってこれは慎吾君の字だし、高校の時も本田君のラブレターを書いてたじゃん」
「えっ? あの本田の手紙、僕の代筆だってわかったの?」

「久美子に聞いたのよ。慎吾君が書いているところ見てたんだって」
「そうだったのか…」

「慎吾君がラブレターの代筆してたの、女子はみんな知ってるよ」
「そうなのか…」

「それにさ、あんなポエムみたいな文章書けるのは慎吾君しかいないじゃん」
「それは褒めてるのか、それとも悪口なのか?」

確かに、高校時代バレー部で一緒だった本田が百合に告白したいって言うから、頼まれて僕が書いた。他にも、いろんな人のラブレターを代わりに書いて、代筆屋みたいな事をしていた。僕は手紙を書くのが好きだったし、文章を考えるのが好きだった。成功率は3割を超えてたから、野球で言えば結構な打率だと言えると思う。本田の場合は百合に断られてしまったけれど。

「慎吾君ってさ、人の応援はするけど、どうして自分の気持ちを素直に言ってくれないのかな? 私さ、慎吾君に好きって言ってもらいたかった」
「えっ? そ、そ、そうなの?」

「慎吾君ってさ、いつも計算してるよね」
「計算?」

「こうしたらこうなるから、次はこうやってって、いつも計算して動いているでしょ?」
「……」

なんか怪しい雲行きになってきた。百合はどこまで見抜いているのだろう? 確かに僕は計算高い。自分が損する事はあまりやりたくない。メリットとデメリットを計算して、少しでもメリットがあれば、苦労を厭わないところがある。
ラブレターの代筆も、どうすれば女性の心が動くのかを研究するためだ。本田の場合は、百合のタイプではない事はわかっていたが、百合がOKしないように、彼女が好まないであろう言い回しを加えてあげた。

「人の心を思い通りに操ろうと実験しているんでしょ? 高瀬君のラブレターもそうなんでしょ?」
「いや、違うよ! あれは違うよ。あれはそういう意味じゃないんだよ……」

僕は自分が恥ずかしくなった。本当に恥ずかしくなった。穴があったら入りたいぐらいだ。彼女に自分の本質を突かれて、もう立ち直れないぐらいだ。
こんな僕を百合は軽蔑しているだろう。人の心を弄ぶ最低な男だと思っているだろう。確かにそうだ。僕は意図的にあのラブレターを書いた。百合が傷つくであろうと計算して書いた。

彼女はきっと怒っている。話し方は落ち着いていて、顔はいつもの感情を表わさない顔だから、怒っているのか怒っていないのかわからないが、それでもきっと怒っているに違いない。
もう僕は終わりだ。これからどう言い訳したって修復できない。僕と同じで感受性が強く、人の心を見抜くところがあるから、僕の下手な小細工なんて彼女には通用しなかったんだ。

あまりに自信過剰になりすぎた。普通の女の子を想定して計算したのだが、彼女は普通の女の子ではなかった。漫画でも小説でも、彼女は僕と同じで推理物を好む。よく一緒に、推理小説の犯人は誰かなどを考えたりしたものだ。

崖まで追い詰められた犯人は、一部始終を独白しなければならない。それがミステリーの定番ではないか。僕は思い切って、百合に罪状を告白しようと思う。
そのあと僕をどう判断するかは、彼女に委ねる事にしよう。

「本当にごめん。僕は君に謝るよ。君の事を騙していたんだ。実は高瀬君は、僕のために君と付き合ってくれたんだ。僕が君の事を好きだって知ってたから、僕のためにお芝居をしてくれたんだ。君が彼の事を好きになって、最高の幸せに到達したら、今度は別れを切り出して不幸のどん底に突き落とす。そして悲しみに暮れる君を僕が慰めてあげれば、君が僕の事を好きになってくれるだろうと計画を立てたんだ。だけど彼は悪い人じゃない。本当にいい奴なんだ。僕がみんな悪いんだ。君を悲しみのどん底に突き落とした。自分の方に振り向いてもらうために。君をこんなに傷つけた。君の心を弄んだ。ひどい男だ。君に軽蔑されて当然だ。何の言い訳も出来ない。

だけど、あのラブレターに書いた事は僕の本音なんだ。本当に君を見ていると、綺麗な夕日が穏やかな波に映えて僕の汚れた心を洗い流す母なる海が見える。昔一緒に見た、日本海に沈む赤い夕陽が見える。僕の頭にはいつも、君の美しい瞳が焼き付いて離れない。寝ても覚めても君の事を考えている。子どもの頃から君の事が好きだった。

だけど、自分に自信がないから面と向かって好きだなんて言えない。君の好みは、バスケ部の工藤先輩のようにアウトドア派でリーダータイプの男性だ。君が工藤先輩を遠くから見ていた姿を、その後ろ姿を僕は遠くから見つめていた。だから高瀬君なら君はOKしてくれるだろうと思ったんだ。

高瀬君にはもう彼女がいるんだ。その彼女にも彼から説明してもらって、OKをしてもらった。だから、高瀬君は悪くない。僕のために演技してくれたんだ。君に会うたびに事細かく報告してくれて、君を騙している事に罪悪感を感じていた。本当に優しい奴なんだ。だから、責めるなら僕だけだ。君を騙して悲しませた張本人は僕なんだ!」

途中から涙が溢れてきた。百合を騙した事、百合を傷つけた事、そして、百合とはもう永遠に一緒になれないという事がわかってしまって、感情が抑えられなくなった。
僕は下を向いたまま、彼女の顔を見る事が出来なかった。

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