第19話「二人の男性から告白された女」

会社帰りに零美の店にやってきた女性は、丸の内の大企業に勤めるOLだった。

「先生こんばんは。今日はよろしくお願いいたします」
「三井美奈子さんですね、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

ホットコーヒーのカップをテーブルに置くと、零美は彼女に聞いた。

「三井さんの気になる事は何ですか?」
「はい、実は最近、二人の男性から告白されまして、どちらが私に合っているかを知りたくて参りました」

彼女は、自分と男性二人の名前と生年月日を紙に書いて零美に手渡した。
零美はそれをパソコンに入力し、プリントアウトしてテーブルに並べた。

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「まず、あなたご自身の事をお話します。あなたは目に見えるものを大切にする方です。
今現在の人間関係が上手くいっているかどうか、周りの人が私の事をどう思っているかを常に気にしていらっしゃいます。
和を乱す事が嫌いですし、そういう人は許せないと思うタイプですね」
「はい。親の影響もあるかも知れないんですけど、世間体を気にする人間です。会社内での評価も気になります」

「三井さんはとても女性的な方なんです。外見も可愛らしいですが、内面も乙女チックな方で、男性としては守ってあげたくなると思いますね」
「よく人からぶりっ子してるって言われるんですけど、自分ではそんな事ないんですけどね…」

「確かに、計算してやっている人もいますからね。三井さんの場合は地でやっているわけですから、長く付き合っていくとわかってもらえると思いますね」
「はい、うまく自分の気持ちを表現できないっていうか、まあ、誤解されやすい人間です」

「では、今度は男性お二人についてです。西川光則さんと猪俣仁さんですね。
西川さんはかなりの自信家で、自分が正しいと常に思っています。基本的に運が強く、能力も高いです。
初めての事でも簡単に出来てしまうので、周りの人を見下してしまう傾向にあります。

猪俣さんは、感受性が強く傷つきやすい方です。芸術家肌というか、文学的で学者肌です。傷つきやすい分、傷ついている人に共感できる優しい人です。

リーダータイプで出世が見込めるのは西川さんです。ただ、人の意見を聞かなかったり強引である事から、敵を作りやすいタイプと言えるでしょう。

猪俣さんは、出世などには興味がありません。目に見える実績や地位などよりも、目に見えない精神的な喜びを求めたがるタイプですね。
タイプ的には全く違う二人だと言えますが、三井さんはどちらがお好きですか?」

零美に質問され、美奈子は少し戸惑った。

「あっ、えーっと…。顔で言えば西川さんがイケメンだし、女子の中ではダントツに人気が高いです。会社の同僚に西川さんに告白されたと言ったら、いいなあって羨ましがられました。
服のセンスもいいし、車もカッコイイ車に乗っています。
でも、モテそうな感じだし、浮気が心配だなって思ったりもします。

猪俣さんの方は、顔は普通って感じで、真面目で優しい人です。あまりおしゃべりではありませんが、一言一言に重みがあるというか、深みがあります。人の悪口は絶対に言いませんし、人が嫌がる事でも率先してやってくれるので尊敬しています。

でも、将来の出世や経済的な事を考えると、西川さんの方がいいって事ですよね?」

上目遣いに零美を見る美奈子。

「確かに、西川さんは自力で運を切り開く力があります。一方の猪俣さんは、どんな人が奥さんになるかで変わる人です。そして、三井さんが側にいる事で、猪俣さんの持っている才能を活かす事が出来ます。
三井さん自身が財運と社会運を持っているので、猪俣さんの足りない点を補い、長所を活かしてあげられます。パートナーとはそういう関係なのです。

また、三井さんが足りない点を猪俣さんが持っています。内面的には、女性の三井さんが男性的であり、男性の猪俣さんが女性的だと言えます。
でも、そういう組み合わせの夫婦は結構たくさんいます。西川さんと三井さんの組み合わせになると、両方が強いのでぶつかり合って反発するのです。

三井さんもそういう自覚があるのではありませんか?」

再び上目遣いに零美を見る美奈子。

「確かに、自分でも男っぽいなあと思っています。負けん気が強いっていうか…」
「そうですよね。だから、普通の男性は三井さんには告白しづらいんですよ」

「ふふふ。そう思います」

「『あんたなんかに言い寄られるほど、私は安い女じゃないよ』って感じですよね?」
「はい、そうです。そうなんです。私ってプライドが高いんですよね」

「はい。それで、このお二人があなたに告白した動機を考えてみますと……。
まず西川さんは、あなたの事を幸せにしたいというよりも、自分をカッコ良く見せる洋服や車のように、あなたを連れて歩けば自分が自慢出来ると思っているからなんです。
彼にとっては、あなたのように可愛い女の子を連れて歩くというのは、自分の自尊心を満足させるためのものなのです。

では、猪俣さんはどうでしょうか?
この人はすごく直感的な人なので、理由ってそんなにないんですよね。ただ、あなたには自分が必要であり、自分にはあなたが必要だと、そう感じたんだと思います。

あなたがすごく無理して生きているように、彼は感じているんだと思いますよ」
「はい……」

「三井さんはいつも、自分を押し殺して生きてますよね?」
「……」

「周りに合わせて、自分を主張しない。感情を押し殺している。笑顔の裏に隠されているあなたの心の叫びを、彼は敏感に感じているんですよ。
だから、あなたの事を『可哀想だな』って思ってる。その感情を吐き出せてあげたいなって思っているんです。
まあ、そう言う事が出来る人なんですね、彼は」
「……」

「三井さんは、お父さんとの関係はどうですか?」
「えっ、父との関係ですか? 父は怒りっぽくて口が悪いし、自己中心的で好きじゃありません。母はよく耐えているなって思います」

「なるほど……。それが男性を寄せ付けない理由ですね」

下を向いた美奈子の両目が少し潤んできた。

「三井さんは最近、泣いていますか?」
「えっ?」

驚いて零美の顔を見上げる美奈子。

「自分を出さないように、感情を出さないように、表面的には笑顔でニコニコしていますが、心の中では土砂降り状態ですよね!?」
「……」

「もう、つらくてつらくて仕方ないんじゃないですか?」

下を向いた美奈子の両頬に、涙がつつーっと流れてきた。

「私は、この猪俣さんという男性が、あなたに合っていると思いますよ。あなたの感情を吐き出せてくれるし、もっと自由に生きてもいいよって言ってくれると思います。
そしてあなたなら、彼の持っている才能を発揮させてあげられるはず。
きっとお似合いのカップルになると思いますよ」

美奈子はカバンからハンカチを取り出し、とめどなく流れる涙を押さえていた。
零美は彼女の横に座り、美奈子が落ち着くまで、ずっと肩を抱いてあげた。
静まり返った店内に、時計の音だけが響いていた。

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