第20話「不倫して妊娠した女」

つば広の帽子を目深にかぶり、大きなサングラスをかけたその女性は、名前は勘弁してほしいとのことで、仮名でA子さんと呼ぶ事にした。

「A子さんのお悩みはどんな事でしょうか?」

零美に相談内容を聞かれたA子は、深刻そうな顔をして、いかにも言いにくそうだった。

「あ、あの…、大変言いにくい事なんですが、実は私、夫がいる身でありながら不倫をしていまして…」
「あっ……はい…」

不倫と言われて、思わず言葉に詰まる零美。

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「それで、夫との間には子どもはいないんですが、その不倫相手との子どもを妊娠した事がわかりまして……」
「えっ?」
零美は、不倫のみならず、不倫相手との子どもを妊娠したと言われ、更に驚いてしまった。

「先生にこんな事を聞いていいのかどうかわからないのですが、子どもを産むべきか産まないべきかで悩んでいるのです……」

思いもかけないディープな相談に、零美はとりあえず、コーヒーを飲もうと思った。

「あの…、お飲み物は、コーヒー、紅茶、緑茶とありますが、何がよろしいですか?」
「それでしたら、ホットコーヒーで…」

「では、こちらにA子さんと旦那さん、それともう一人の方、とりあえずBさんということにして、皆さんの生年月日を書いていただけますか?」
「はい」

零美はコーヒーを二つ準備した後、三人の命式を出してテーブルに並べた。

「A子さんもご主人も、お二人とも真面目な方だと思うのですが、なぜ不倫になってしまったのか聞いてもよろしいですか?」

零美は率直に、どうしてなのか不思議に思ったのであり、また聞いていいものなのかどうなのか迷いながらも、その理由を聞く事にした。

「はい。主人はとても真面目でいい人です。私は主人には何の不満もないんです。ただ、その、出来心というか…。
彼とは中学の同窓会で久しぶりに会って、以前好きだった事もあって意気投合してしまい、最後までいってしまったんです…。

その、彼との関係はその一回だけなんですが、どういうわけか夫との子どもはなかなか授からないのに、その一回だけで妊娠してしまって…。
確実に彼との子だとは言えなくて、もしかしたら夫との子かも知れないのですが…。

もし、産んだ後に血液型があり得なかったり、DNA鑑定なんて事になった時に、夫の子ではないと判明したらどうしようかと思うと、すごく怖くて…。
誰にも言えなくて、先生の噂を聞いて来たのですが…。

先生もこんな相談されても迷惑だと思うのですが、どうしたらよろしいでしょうか?」

零美は、彼女の真剣な顔を見つめながら、どう答えるべきか悩んでいた。
自分の言葉で、彼女や彼女の夫の人生を変えてしまうかも知れない、しかし、せっかく授かった命に罪はない、何と言うべきなのか、零美の頭の中でいくつもの言葉が飛び回っていた。

「えーっと、まず、A子さんに申し上げたいのは、これから申し上げる事は、あくまでも私個人の意見ですから、それを参考にするなり全く無視するなり、どう決定されてもあなたの自由です。
ご自分の人生ですから、人に何と言われようと、ご自分が納得した道を選んでください。よろしいでしょうか?」
「はい。わかっています」

「私が今受けたインスピレーションでは、せっかくのご懐妊ですが、今回は産むのはよろしくないと思います」
「……」

A子は下を向いて、黙ってうなずいていた。

「あなたも、あなたのご主人も、とても真面目な方です。夫婦の相性も悪くありません。ご主人に対して、そんなに不満はないとおっしゃっていましたよね?」
「はい」

A子は顔を上げて、零美の顔を見ながらうなずいた。

「この同級生の男性とは、そんなに縁があるとは思えません。本当に出来心という感じだと思います。
ですから、ご主人と別れてまで彼と一緒になりたいとは、思っていないのではありませんか?」
「はい、私も当然思っていませんし、彼も奥さんがいるわけですから、その気はありません。本当にただの一回だけの関係だったんです」

「なるほど。あなたも、その相手の方も離婚は望んではいないわけですから、今のままでよろしいと思います。
問題は、お腹の子どもをどうするかという事ですよね?」
「はい、そうなんです。もしかしたら夫との子どもかも知れないという思いがあって…」

「でも、彼との子かも知れないという不安も拭ぬぐえないというわけですね」
「はい」

「どうも今、私の中では、悪いイメージが大きいんです。それは、ご主人とのお子さんではなく、もう一人の方との子どもの可能性が高いというか…、そんな感じがするんです」
「ああ…そうなんですか……」

零美は、彼女の落胆ぶりから、彼女が夫との子どもである事に一縷いちるの望みを抱いていたのだと感じとった。

「これはねえ…、生まれてみないと本当にわからない事なのですが、しかし生まれてしまっては遅いという事もありますから、何とも難しい話なのです。
もし万が一、ご主人との子どもではなかった場合に、それがわかった後のあなたとご主人の人生がどれほど大変になるか…。

お二人とも大変真面目な方たちなので、そのショックは計り知れないと思うのですよ」
「……」

「やっと授かった子どもという事で、産みたいという気持ちはよくわかります。しかし、もしもの事を考えると、生まれてきた子どもも、大変な重荷を背負う事になるかも知れません」
「う、うううっ……」

彼女は声を出して泣きだした。
零美の言葉で、自分の犯した罪の大きさを改めて思い知らされ、罪のないお腹の子どもに対する申し訳なさを堪こらえきれないようだった。

零美は立ち上がり、彼女の隣りに座った。やっと授かった子どもを失うのはつらい。零美にはその気持ちが痛いほどよくわかった。

「産みたい気持ちはよくわかります。赤ちゃんがあなたを選んでくれたんですものね…。
神様は、時には残酷な仕打ちもなさるのかも知れません。あなたが母親になりたい気持ちを知らないはずがないのにね…」

彼女の体をぎゅっと力強く抱きしめる零美。
零美には、彼女のお腹の子どもに向かって「ごめんね」と泣きながら謝る事しか出来なかった。

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