第21話「遺産を相続した女」

昼下がりの午後に零美の店にやってきたその女性は、厚化粧をして若作りしているが、どうみても中年の四十代に見える人で、店の奥から覗いていた和彦は、どんな訳ありの女性なのかと興味津々だった。

「あのう、昨日お電話した桜井千夏です」
「こんにちは、いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」

身長の割に横に大きな彼女は、顔も体も全体的にぽっちゃりとしているが、真ん丸メガネの奥の瞳が大きなぱっちり二重である事から、もう少しダイエットすれば綺麗になるだろうなと和彦は思った。

「桜井さんのお悩みとは、いったいどんな内容ですか?」
「はい、実は、二十歳近くも年下の男性から結婚を申し込まれたのですが、その人を信じていいものなのかどうかと思いまして……」

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零美は、プリントアウトした二人の命式をテーブルに並べた。
そして、感じたままの内容を彼女に伝える事にした。

「まずですね、この男性は頭の良い人で、無駄な事はしたくないという合理的な人です。そして自信家でもあります」
「確かに、そうだと思います」

千夏はうんうんとうなずいた。

「彼の行動原理は、どこまでも自分の利益を追求する事です。なので、桜井さんと結婚する事によって、彼は相当の利益を得るはずです」

千夏は、零美が言いたい事が何かを悟った。

「ああ、それは、私がお金持ちになったからですね……」

彼女のほのかな期待を裏切ってしまい、零美の心には複雑な思いが残った。

「昨年、父が亡くなって、私には一億近い遺産が入りました。私は、遺産が入ったからと言って派手な生活をするわけでもなく、以前と変わらない質素な暮らしをしていました。
彼は行きつけの美容院で働いている子で、誰かから遺産が入った話を聞いたのか、急に近づいてきたんです。

親子ほども年が離れていて、どうせお金目当てなんだろうと思ったのですが、若くてイケメンな彼にデートに誘われて、嫌な気持ちにはなりませんでした。この年まで独身で、男性には一生縁がないだろうと思ってきたので、たとえウソでも優しくしてくれるのが嬉しかったんです。

そんな生活を続けていくうちに、もしかしたら本当にお金目的ではないかも知れない、私の事を愛してくれているのかも知れないって、思うようになっちゃって……。
だから、もし先生が彼の本心を教えてくれて、お金があるない関係なしに私の事を想ってくれるのなら、結婚してもいいかなって思ったんです……」

零美は、下を向いたままの彼女を見ているのはつらかった。その重たい空気は店内を包み込み、どんよりとしていた。彼の事を信じたかった彼女の気持ちが、零美の胸に突き刺さって痛かった。

「桜井さん、あなたの彼を信じたい気持ちを知っていながら、こんな事は言いたくないのですが、あなたが思っている通り、彼にはあなたのお金しか頭にありません。
今までいろんな人を見てきましたが、大金を持った瞬間に寄ってくる人たちは間違いなくお金目当てです。そういう人たちは、お金がなくなった瞬間に離れていきます。

残念ながら彼も、そういう人たちと同類です。自分の事しか頭にありません。そんな人たちのために、あなたのお金を使うなんてもったいないです」

ハンカチを目に当てて涙を拭ぬぐう彼女に、零美は言葉を続けた。

「桜井さん、あなたはご自分の事がお好きですか?」
「……嫌いです」

「そうですよね。そういう感情がこちらにも伝わってきます。自分に自信を持てない事で、優しくされるとコロッと騙されてしまうんですよね。いや、騙されると言うより、信じたいというか、誰かに認めてもらいたいと言う心の叫びって言うのでしょうか。

人間って誰でも、子どもの頃は、出来るようになった事を褒ほめてもらえますが、大人になるにしたがって否定される事が多くなります。
否定されれば誰でも、自信がなくなっていきますよね。だからみんな、自分で自分を褒ほめるしかないって言うか……。

占いって、自分の良い所を見つけるためのものなんです。誰も褒ほめてくれないんだったら、自分で自分を褒ほめましょう。そのために自分が好きになれるところを探す、そんな風に占いを、自分で自分を愛せるようになるために使ってほしいんですよ。

占いが大好きな女性がいましてね、彼女は、どこに行っても『あなたは女性としては強すぎる』って言われるそうなんですよ。それで自分の事を不幸だと思い込んでいたんですね、その人は。自分で自分を洗脳してたんですよ、不幸になるように。

人は誰でも、常に選択を繰り返しながら生きているんですね。『〇〇をする』『〇〇をしない』という風に。今日あなたがここに来る事を決めたわけですが、ここに来ないと決める事も出来たんですよ。
自分は不幸だと思い込んでいる人って、自分で不幸になる道をわざわざ選んでいるんですよね。

よく漫画なんかであるじゃないですか。耳元で天使と悪魔が囁ささやいているのが。天使は、その人が幸せになる道を選ばせたいわけですが、悪魔は逆に、その人が不幸になる道を選ばせたいわけです。本当に天使や悪魔がいるかどうかは、私にはわかりませんけれど……。

占い師って、天使の役目を果たさないといけないと思うんですよね。だから、自分は不幸だと思わせちゃいけないと思うんです。
今までたくさんの人を見てきましたが、強い女性だとしても幸せな結婚生活を送っている人はたくさんいました。強い女性には弱い男性が合うんですね。自分と合う人と一緒になる事が幸せになる道なのです。だから、自分自身をよく知らないといけないわけですよ。

どうですか、桜井さんは自分の事をよく知っていますか?」

零美の話を聞きながら落ち着きを取り戻した彼女は、自分について考えてみた。

「うーん…。あんまりよくわからないです…。だからこそ知りたいっていうか……」
「私が桜井さんの一番良いと思う点は、真面目で正直だって所です。誠実とも言えますかね。たとえ大金が入っても、今までと変わらない生活をする。欲張らないというか、足るを知ると言いましょうか。
そして、人を信じる事が出来るって所です。この彼にしても、客観的に考えてお金目当てってすぐわかるじゃないですか。でも桜井さんは、彼の事を出来るだけ悪く思わないようにしています。本当は良い人なんじゃないかって思いたいんですよ。これはなかなか出来る事じゃないと思うんですね、普通の人には。
いわゆる、性善説を信じたいというか、すごく純粋な方だと思うんです」
「でも、それって、騙されやすいって事ですよね!?」

千夏はいたずらっ子のように笑った。

「はい。そうです。でも私は、騙す人より騙される人の方が好きです。世の中の多くの人が私と同じだと思います。だから、桜井さんは、本当は人に愛されやすい人なんです。それが桜井さんの一番のチャームポイントです。
今まで、自分で自分を誤解していたんです。過少評価し過ぎたんですね。
もっと自分の事が好きになれば、もっと素晴らしい男性との出会いがあるはずなんですよ。どうです、信じられますか?」
「あっ、はい…。信じます」

自信満々にそう断言する零美の言葉で、彼女の心は大きく変わり始めていた。
そして、前を向いていこうとする彼女を見て、零美はとても温かな気持ちになった。

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