第24話「子連れの女」

その少女は、白く大きな帽子をかぶり、真ん丸な目をぱちくりとさせながら、母親の手をしっかりと握って店内に入ってきた。クマのぬいぐるみを大事そうに抱えている。
昼下がりの外は暑かったのだろうか、少女は額に汗をにじませていた。

「こんにちは、お電話くださった山村結子さんですね?」
「はい、山村です。こんにちは。今日はよろしくお願いします」

「可愛いお嬢ちゃんはいくつかな?」

少女は黙って指を二本立てた。

「二歳? 可愛いわね。よろしくね。じゃあ、こちらへどうぞ」

零美は、母親と少女をソファーに座らせた。

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「お飲み物はいかがですか? コーヒーとか紅茶、緑茶などですが」
「では、ホットコーヒーでお願いします」

「お嬢さんは何か飲みますか?」
「いえ、お茶を持ってきていますので」

結子はバッグから、お茶の入った子ども用の水筒を取り出した。少女は美味しそうにごくごくと飲み始めた。

「山村さんのお悩みはどんな事ですか?」
「はい、実は私、この子の父親とは離婚していまして、今は実家で両親と暮らしながら育てているのですが、再婚を考えている人がいまして……」

「そうなんですね。それではこちらに、山村さんとお嬢さん、その気になる男性のお名前と生年月日をお願いします」
「はい、わかりました」

零美は、彼女が書いている間にコーヒーを準備し、その後パソコンに入力して命式をプリントアウトし、テーブルに並べた。

「こちらの門倉光男さんですが、非常に男らしい、男気のある方だと思います。お仕事は何をされているのでしょうか?」
「建築関係で自営業です」

「この方はお友だちも多いでしょうね。お友だちの紹介ですか?」
「いえ、私はパチンコ屋でバイトしてまして、お客さんとして来られた彼に声をかけられて、付き合うようになりました。彼もバツイチで、子どもは相手の方が連れていったそうです」

「この方は、どうして離婚されたのでしょうか?」
「奥さんに好きな人が出来たみたいで、今はその男性と暮らしているそうです」

「そうなんですか。失礼ですが、山村さんはどうして離婚されたんですか?」
「夫の浮気が原因で……」

「旦那さんは、その女性と一緒になったんですか?」
「いえ、一緒にはなっていません」

「なるほど。では、山村さんも彼も、同じような経験をされているわけですね」
「はい。それで気が合ったというか…。彼は子どもが好きで、この子の事も可愛がってくれます」

「なるみちゃんですね。なるみちゃんとこちらの門倉さんは、相性がいいですね。山村さんと門倉さんの関係では、山村さんが優位な立場に立っていますが、このなるみちゃんが間に入る事で、山村さんと門倉さんのつなぎ役になってくれます」
「そうなんですか。確かに、側で見てても本当のお父さんみたいに見える時があるので、やっぱり相性がいいんですね」

「門倉さんは正義感が強くて、道理に合わない事は許せない感じなので、浮気とかは心配いらないと思います」
「確かに、見た目はちょっと怖い感じもするんですが、根は真面目というか、お友だちの評判もいいですね」

「お写真とかあったら見せてもらっていいですか?」
「はい、ちょっと待ってください」

彼女がスマホの画像を零美に見せた。

「あら、いかにもガテン系って感じですね。お体も大きくて、なかなか男らしいですね」
「百八十三センチだそうです。横にも大きいんですけどね」

「スポーツされてたんですかね?」
「野球をやってました」

「この方は、お金は入ってきますが、使う方も気前がいいと思います。結構、人におごっちゃう感じじゃないですかね」
「そうかも知れないです」

「まあ、そうやってお金は回るわけで、循環させればまた自分の所に戻ってくるわけですから、お金には困らない人じゃないですかね」
「なるほど」

「この方はこだわりが強い所があるので、その辺の理解が必要ですね。山村さんは相手に合わせるタイプなので、我慢し過ぎてストレスにならないように、相互の理解が必要だと思います」
「はい」

「…ちょっと待ってくださいね」

零美は思い出したように立ち上がって、奥に引っ込んだ。そして、何かを手にして戻ってきた。

「これ、もらったお菓子なんですけど、なるみちゃん食べれます?」
「ありがとうございます」

零美から手渡されたお菓子を、少女は嬉しそうに食べた。

「この方は人間的にすごくいい人だと思うので、再婚されてよろしいんじゃないでしょうか。ご両親は会った事はあるんですか?」
「はい、一度家に来て会ってもらいまして、両親も気にいってくれました」

「やっぱり、なるみちゃんを大切にしてくれるかどうかが一番ですよね」
「はい。それが一番大きいと思います。子どもが嫌がったら絶対ダメですし…。この子が小さいうちがいいかなと思いまして…」

「なるみは、このおじさんの事、好き?」

母親にスマホの画像を見せられて、こくりとうなずく少女。
零美は少女を見ながら、五歳で亡くなった和美の事を思い出していた。生まれてから五年間の、和美のいろいろな表情が思い出された。
愛おしい娘の事を思い出し、涙が出そうになるのをぐっとこらえた零美は、わざととびきりの笑顔を作った。

「それでは、お幸せになられますようお祈りしております」
「ありがとうございます」

鑑定料を支払い、母娘は手をつないで帰っていった。
彼女たちを見送った後、しばらく零美はソファーに座り、堪えていた涙を流して大声で泣いた。零美しかいない店内で、誰にも遠慮する必要はなかった。

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