第25話「妻子ある課長を愛した女」

「あのう…、お電話した、野村ひとみです……」

夕方の遅い時間、走ってきたであろうその女性は、息を切らせてドアを開けた。

「お待ちしていました、野村さん。どうぞこちらへ」
「すいません、遅くなっちゃって。急な用事を頼まれてしまったもので…」

「いいんですよ。お飲み物は、コーヒーでよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます。コーヒー大好きなんです」

彼女は以前にも来た事があり、零美はよく覚えていた。

「ブラックでよろしかったですよね?」
「はい」

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零美は二人分のコーヒーカップを持ってきた。彼女は汗をかいたのか、しきりにハンカチで額をぬぐっていた。

「今日はどうなさったのですか?」
「今日は、以前の方ではなく、違う人との相性をみてもらいたくて…」

「じゃあ、あなたとその方のお名前、生年月日を書いてくださいね」
「あのう……、彼の名前は書きたくないんですが…」

「いいですよ、じゃあAさんという事にしましょう」

零美は二人の命式を出し、テーブルに並べた。

「この人はとても優しい人ですね。面倒見がいいって言うか、困っている人を見ると助けたくなるって感じですね」
「はい、本当に優しい人です。私がミスしても『いいよいいよ』って言って怒りませんし」

「会社の同僚ですか?」
「あっ……。あ、あの、私の上司の課長です…」

「あらっ? 課長さんはまだ独身?」
「……いえ。実は……、結婚してます。しかも子どもが二人…」

「あっ……。そうなんですね…」

一回り以上も離れていて、しかも妻子のいる男性を好きになったのかと、零美は彼女の悩みの深さを思い知らされた。

「……と言う事は、……不倫!?」

恐る恐る真相を聞いてみる。不倫と聞いて、以前の嫌な思い出が蘇ったが、聞かない訳にはいかなかった。

「いえ、私の片想いです」
「ああ、そうなんですね。不倫にはならないですね、それじゃあ」

少し安堵した零美。

「でも、そうしたらどうして相性を知りたいんですか?」
「あの……、もし課長と私の相性が良くて、課長が奥さんと別れる事になったら、私にもチャンスがあるのかなと思って…」

「あっ……なるほど…。でも、課長さんの奥さんの生年月日まではわからないですよね?」
「はい。でも、写真があるから、先生なら霊視出来るかなと思って……」

ひとみはスマホを取り出し、画像を選んで零美に見せた。

「これは……、運動会ですか?」
「はい。小学校の運動会です」

「小学校って…。その小学校に、知り合いの子どもさんがいらっしゃるんですか?」
「いいえ、いません…」

「じゃあ、課長さんの家族を見に……?」
「はい。可愛いんですよ、課長に似てて」

ひとみは違う画像も見せた。

「これは息子さんのサッカーの試合です。雄大(ゆうだい)君はこの日、ゴールを決めたんですよ。課長に似て、運動神経がいいんですよね」
「雄大君って言うんですか。よく知ってますね」

「妹は紗良(さら)ちゃんって言います。目元なんか、課長そっくりでしょ?」

彼女が見せたその画像には、ファミレスで食事している課長家族の中で、妹だけが大きくアップで撮影されていた。

「これはお店で撮ったんですよね? よく気づかれなかったですね」
「はい、毎回違う変装しますから」

「毎回……?」

零美は、テーブルを挟んでにっこりと笑う彼女との距離が、やけに気になった。しかし、それを悟られないように心を鎮めて、画像をじっと見つめた。
そして、しばらく考えた後、彼女にスマホを手渡し、落ち着いた口調で言葉を発した。

「この画像から伝わってくるのは、何の心配もない幸せな波動です。すごくしっかりとした絆で結ばれていて、壊れるような気配は感じられません」
「……」

「この課長さんの命式を見ても、真面目で人格者です。滅多な事では怒らない、度量のある人です。
あなたに優しくしてくれたのは、父親が娘を見るような、兄が妹を見るような、そういう関係性で、男性が女性を見るような目ではないと思います」
「……ああ、……やっぱりそうですか…」

彼女は、がっくりとした表情をした後、うつむいて肩を震わせていた。
そして、零美から手渡されたスマホを手にして、課長の家族写真をいくつもスライドさせていた。

「これって、ストーカーですよね……」
「……」

零美は何も言えなかった。

「もう一年近く、こんな事を繰り返していたんです。わざわざ課長と同じ駅の街に引っ越して、課長に知られないように、遠くから見つめていたんです。
本当は知ってたんです。課長がとても家族思いで、奥さんともとっても仲がいいってことも…。この奥さんもとってもいい人で、私、奥さんの事、嫌いじゃないんです。

だから、奥さんに私の存在を知られないように気をつけていました。私のせいでこの幸せな家庭を壊したくなかったんです」
「……」

零美は、彼女にかける言葉が思い浮ばなかった。

「私、もう少しで盗聴器を仕掛けるところでした……」
「えっ? 盗聴器?」

「でも、そんな事したら、それこそ犯罪ですよね。まあ、このストーカー行為も立派な犯罪ですが…」
「そうですね。それは削除した方がいいと思いますが……。削除できますか?」

零美に言われ、彼女はこくりとうなずいた。そして、しばらく考えた後、画像を一つ一つ消していった。
零美は彼女のその行為を、何も言わずに見守っていた。

「出来た…。先生、全部削除しました」
「そう…。それは良かったわ……」

そして彼女は料金を支払い、深々とお辞儀をして帰っていった。その後ろ姿を見送りながら零美は、今度また彼女が、笑顔で訪ねてきてくれる事を祈らずにはいられなかった。

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