第27話「生徒を愛してしまった女性教師」

その女性は、大きなサングラスに大きなマスク、大きなつば広の帽子を目深にかぶって店内に入ってきた。芸能人がお忍びで来たのかと思わせるような恰好だった。

「よろしいでしょうか……。予約しておりませんが…」

消え入りそうな声に、彼女の悩みの深さが感じられる。

「ど、どうぞ。ご遠慮なく」

予想していなかった突然の来訪者に驚きながらも、零美は快く迎え入れた。

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「先生のお噂を人づてに聞いて参りました。人にはあまり知られたくない内容なので、このようなおかしな恰好で失礼します」
「あ、そうなんですね。大丈夫です、秘密厳守ですから。それに、忘れっぽくてすぐ忘れてしまいますから」

忘れっぽいのは本当だが、それが良い事なのか悪い事なのか、少し複雑な思いの零美だった。

「先生は霊視をしてくださるとのこと、名前や生年月日などを明かしたくないものですから、写真を見ていただきたいのです」

彼女は二枚の写真を出した。一枚はおそらく自分の写真だろう、癒し系の美人である。
もう一枚は学生服を着ている男子だった。

「この子は?」
「私が勤める学校の生徒で、高校三年生です」

零美は、彼女が高校教師である事を理解した。

「ご相談と言いますと?」

彼女と彼が、ただの教師と生徒の関係ではない事は察しがついたが、具体的な関係を聞かないではいられなかった。

「彼は吹奏楽部に所属していて、私は顧問をしています。先日彼から好きだと告白されまして、十歳も離れているのに心がときめいてしまって……」

頬に手を当てて恥ずかしそうな仕草をするが、サングラスとマスクに隠れて表情はよくわからない。

「という事は、あなたも彼の事を好きだと言う事ですか?」
「……はい。実は私、父から暴力を受けて育ってきたので、男性に対しての恐怖心があるのですが、彼は優しくて、先生先生ってすごく慕ってくれるんです」

零美は彼の写真をじっと見た。アイドルグループの一員にでもいそうな可愛らしい男の子である。

「実はこの子も、家庭環境が複雑で…。父親の暴力が原因で母親が離婚して、今は母子家庭なんです。それで、すごく母親想いっていうか、優しい子なんです」
「なるほど…。確かに、この写真からもその優しさが伝わってきます。そして、寂しいという感情も伝わってきます」

その写真の彼は笑っていたが、零美には無理しているように感じられた。

「きっと、あなたと一緒にいると心が休まるのでしょうね」
「はい、彼もそういう事を言ってくれます」

零美は、聞きづらい事を聞かないではいられなかった。

「あの…、大変立ち入った事を聞くのも申し訳ないのですが、彼とはどこまでの関係なのでしょうか?」
「あっ、あの、それは体の関係ですか?」

「はい」

零美は真剣な表情で答えた。

「それはさすがに、生徒と先生の関係ですので、そこまではありません」
「と言うと、キスも?」

「はい。彼は真面目で頭も良く、将来は一流企業に入って母親を楽にさせたいと思っていますので、問題を起こさせるわけにはいきません」
「高校生と言うと、そういう欲求も強いのではありませんか?」

彼女の言う事を信じたかったが、本当の事を聞かないといけないと零美は思っていた。

「確かに中高生の男子はそういう子が多いですが、彼は自分の将来と私の立場を守るために我慢してくれています」
「なるほど。素晴らしい人ですね、彼は。それで、あなたとしては彼とどうなりたいのですか?」

「それが悩みなんです。彼とは年齢差がありすぎますし、彼が大学生になれば、同世代の女の子と知り合う機会も増えます。もうすぐ三十になろうというおばさんなんかより、若くて綺麗な子に巡り合うチャンスだってあるでしょう。
だから、私なんかと付き合って、そのチャンスを逃してほしくないっていうか…」
「でも、あなたの本音としては、優しい彼を逃したくないのではありませんか?」

痛い所を突いてしまったが、彼女に自分の本音を出してほしいと零美は思っていた。

「……はい。そうなんです。こんな私に、彼のような男性が今後現れる保障がないので、つなぎとめておきたいって言うのが本音なんです……」

ハンカチをバッグから取り出し、流れる涙を拭う彼女。零美には彼女の真剣な心の叫びが痛いほど伝わっていた。自分の立場と彼の将来、頭ではわかっていても、心では彼を放したくない女の性だった。

「ありがとうございます。あなたが本音で話してくださったので、私も真剣に思いを伝えたいと思います。
あなたと彼の関係性はとても良くて、パートナーとしてはうまくいく事になるでしょう。心と心の結びつきが深いです。

しかし、それだけに、深入りすると抜け出せなくなります。深く結びついてしまうと、離れたくても離れられなくなるからです」

零美は心を落ち着けるように、目の前のコーヒーを口にした。

「残念ながら、お二人の関係性がどれだけ良くても、周りの人が祝福してくれなければ幸せにはなれません。あなたのご両親や彼のお母さん、または親族の方々が理解してくれるでしょうか?

あなたも彼もとてもナイーブです。深く結びついてから引き裂かれるような事になってしまっては、きっと傷つくようになります。彼のためにも、またあなた自身のためにも、深い関係になる前に距離をとってはいかがでしょうか?

彼は受験生ですし、もし志望の大学に入れなかったら、あなたが自分のせいだとご自身を責めてしまうはずです」
「はい、私もそれが一番心配です。私のせいで彼の未来を壊したくありません」

「人の人生に、環境というものは大きく関わってくるものです。どんなに相性の良い二人でも、環境のせいで一緒になれなかった人たちは大勢います」

彼女は彼と別れる決心をして、零美に礼を言って帰っていった。彼女を見送った後、零美は自分の回答を振り返っていた。果たしてあの答えは正解だったのか?もっと違う導き方はなかったのか?愛だけでは生きていけない、人の世の不条理さを感じていた。

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