第三話「娘が登校拒否で悩む母 」

夏の日の昼下がり、零美の鑑定を受けに一人の女性が店を訪れた。その女性は四十代だが、モデルか女優かと見紛うほどの美女である。
和彦は奥の部屋から、張り込み刑事がするようにこっそりと見つめていた。

「お電話頂いた澤田美登里さんですね?」
「はい、澤田です。今日はよろしくお願いします」
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「ご相談は娘さんの事でしたよね?」
「はい。今年中学三年生の娘なのですが、ずっと学校に通えない状態が続いています」

「それではこの紙に、澤田さんとご主人様、そして娘さんのお名前と生年月日、生まれ時刻がわかればそれも書いていただけますか? あと生まれた場所ですね」
「はい、わかりました」

澤田美登里は現在四十二歳、夫の克也は四十五歳、一人娘の美空(みく)は中学三年生の十五歳、三人とも東京出身である。高学歴高年収の克也は仕事に忙しく、子育てや家庭の事は全て美登里任せで、引きこもりの美空の事にも関わろうとはしなかった。
美登里は主婦業に専念、経済的な心配はなかったのだが、娘の事に関しては一人で悩みを抱えていた。

「書きました」
「どうもありがとうございます。それでは少々お待ちくださいませ」

零美はパソコンで三人の命式を出し、それを紙に印刷して美登里の前に置いた。

「まず、美登里さんですが、本来は感受性が豊かで芸術的センスがあります。ところが、感情を表現する事が苦手というか、感情を出さないように生きてこられた感じです」

美登里は下を向いたまま小さく頷いた。

「一方のご主人ですが、とても理論的で合理的な考え方が得意というか、Time is money(時は金なり)をモットーにされているような方で、常にメリットデメリットを計算しているようなところがあります。運が強い方なので、社会的成功も約束されていると思います」
「そうですね、まさにそういう考え方をする人です」

「お互いの考え方で理解できないところもあるでしょうが、澤田さんご夫婦は、お互いの不足な部分を補い合っている素敵な組み合わせだと思います。パートナーとしては理想的ですよね」
「なるほど」

「さて、美空さんですが、頭の中でとてもいろいろな事を考えていらっしゃいます。例えば、人の話を聞きながらも頭の中では違う事を考えていたりとか、常に頭をフル回転させているようです。どちらかと言うと、マイナス思考で自虐的な考え方をしがちで、自分に自信が持てないようです」
「そうですね。中学二年生の頃に友人関係で悩みだして、それから学校に行けなくなったというか、人と会うのが怖くなったようなんです」

零美は、美登里の顔をじっと見つめていた。零美の目は、美登里の体を通り越してもっと奥の方を見ているかのようだった。

「美空さんは愛情に関して敏感な方で、子どもの頃、なかなか思うような愛情を受け取る事ができなかったようです。それが自分を愛せない、自信を持てない要因になっています。でも、それを誰にも言わずに我慢してきました。それが、もう耐えきれなくなってペシャンコになってしまったようですね。

私が感じるに、美登里さんは、かなりご自分を押し殺して生きてこられましたね」
「……」

「ご自分のお母さんとの関係で、とても満足していらっしゃらないように感じるんです」
「……」

「お母さんからの愛情が、なかなか思う存分受けられなかったのかも知れませんね」
「うっ、ううう、うう……」

ポタポタと大粒の涙が、美登里の瞳からこぼれた。

「ごめんなさいね。つらいお気持ちにさせてしまったかも知れません」
「うっうっ…」

美登里は、バッグからハンカチを取り出して目に当てた。抑えていた感情が、零美の言葉で溢れ出てしまったのだ。零美はテーブルの端にあった麦茶をそっと美登里の前に置いた。
美登里は軽く頭を下げ、それを少し口にいれた。

少し落ち着きを取り戻した美登里は、ゆっくりと言葉を選んでいるようだったが、零美は焦ることなく、彼女が語り出すのを待っていた。

「あの…実は……、娘があんな状態になってしまったのは…私のせいなのではないかと思っていたんです…」

絞り出すような小さな声で話し出した美登里を、零美は優しい目でじっと見つめていた。

「私の両親は、どちらも教育に携わる仕事をしておりまして、とても厳格な人たちでした。小さな頃から厳しく育てられた私は、常に良い子を演じていなければなりませんでした」
「そうだったんですか…」

「私が親に愛されなかったから、娘にどうやって愛情を注いだらいいのかわからなくて…」

美登里はハンカチで口を押さえ、声が漏れないように嗚咽していた。泣く事さえも許されない家庭環境だったのかと思うと、怒りと悲しみで零美の鼓動は高鳴った。
憤りの思いを鎮めるように、傍にあった麦茶を飲んだ。
そして、穏やかにゆっくりと話を始めた。

「美登里さんは【抱っこ法】ってご存知ですか?」
「…だっこ、ほう?」

「はい。以前に、カウンセラーをしていらっしゃる方から聞いた事があるんですけどね。【赤ちゃん返り】という言葉がありますよね? それまで自分が一番愛されていたのに、下の子が生まれて親の関心が弟や妹の方にいくと、もっと自分を愛してって、ワガママになったり駄々をこねたりします。

赤ちゃんで手一杯なのに、上の子にそうされると親は困ってしまいますよね。これを上手に消化できる子は良いのですが、お母さんが大変だと思って我慢してしまう場合があるんです。

それが小学校高学年の思春期を迎える頃に、様々な問題となってしまうケースが多いのです。その問題に対する解決法として【抱っこ法】ってあるそうなんですよ。それはですね、お母さんが椅子に座って、その膝の上に子どもを座らせるんです。男の子は嫌がるかも知れませんが、それでも何とか座らせて、今までお母さんに言えなかった事を吐き出させるんです。ちょっとやってみますか?」

そう言うと、零美は目の前のテーブルを動かした。

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