第31話「彼にプロポーズされたい女」

店のドアが開くや否や、「こんにちは」と明るく高い声が聞こえてきた。入ってきたのは身長百五十センチくらいの、こぼれるような満面の笑みが印象的な可愛らしい女性だった。

「ご予約頂いた水森くるみさんですね」
「はい、今日はよろしくお願いします」

「水森さんのお悩みはどんな事ですか?」
「実はですね、彼がなかなかプロポーズしてくれないんです。私ずっと、彼からのプロポーズを待っているんですけど」

「なるほど。彼が今、どんな気持ちでいるかって事ですかね、知りたいのは」
「そうですね、本当に私と結婚してくれるのかどうか、はっきりしてもらいたいなって思います」

「ここに、彼とあなたの生年月日を書いていただけますか?」
「はい」

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零美は二人の命式をプリントアウトして、その紙をテーブルに置いた。彼の名前は、どこかで聞いた事のある名前に思えた。

「この方はかなりの強運の持ち主ですね。男性的な魅力に溢れていて、俺についてこいというリーダータイプ。けっこうモテるんじゃないですか?」
「そうなんです。それが心配なんですよね」

彼女はさも得意げにそう言った。彼がモテると言われて少し自慢気だった。

「あなたは頭の中でいろいろと考えるタイプだから、彼が浮気していないか心配でしょうね」
「はい。彼の行動は極力把握するようにしています。今日はどこにいるかとか何しているかとか、ツイッターでチェックしていますね」

「彼との付き合いは長いんですか?」
「そうですね、初めて会ってから五年経ちました。なかなか忙しい人なので、そんなに会う事も出来ないんですけど、声は毎週聞いています」

「どんな事を話すんですか?」
「私はもっぱら聞き役です。彼の話を聞いているだけで幸せなんです」

そう言って、両手を胸の前で組んで上を見上げる彼女。彼の事を想像しているのだろう。

「もし良かったら、彼氏さんの写真を見せてもらえませんか?」
「いいですよ」

彼女はバッグの中からスマホを取り出し、画像を出して零美に渡した。
「えっ……!?」

思わず驚いて声が出てしまい、続く言葉が見つからない零美。しばらく頭の中で状況を整理してみた。

「…あ、あの…、この人は超有名人ですよね、国民的アイドルグループの……」
「はい、北澤慎吾です」

やはりそうだ。CMでもドラマでもよく見る顔だ。こんなトップアイドルの恋愛相談に乗っていたのか。まだ浮いた噂は聞いた事がなかったが、週刊誌の記者は知っているのだろうか。芸能人の相談は初めてだった。もしかしたらこの女性も芸能人なのか。モデル? タレント? それにしてもテレビでは見た事がない。友人の紹介で出会ったのだろうか。零美は思い切って聞いてみる事にした。

「失礼な事を聞いてもいいですか?」
「はい」

「もしかしたら水森さんも、芸能界の方ですか?」
「いえ、私は一般人です」

見た事がないはずだ。彼女は一般人だった。

「どうやって知り合ったんですか? お友だちのお友だちとか?」
「いえ、ただのファンです」

「ただのファン…ですか?」
「はい。ずっと追っかけをしています」

「じゃあ、追っかけをしているうちに、彼の方から見染められたって感じですか?」
「うーん、そうなるんですかねえ」

「なかなかトップアイドルとのお付き合いは大変じゃないですか? そんなに会えないでしょうし」
「はい、会うのはコンサートの時ぐらいですね」

「その時にこっそり話をしたりするんですか?」
「いえ、話はしません。観ているだけです」

「じゃあ、電話で話をしたりするんですか?」
「いえ、電話もしません」

「でも、さっき毎週声を聞いているって言ってましたけど」
「はい、毎週金曜にラジオやっているんで、それを聞いています」

「えっ……!?」
それはただのファンとしか言いようがないじゃない、と言いたいのだが、その言葉は飲み込んで続きを聞いてみる。

「水森さんは最初に、なかなかプロポーズをしてくれないって言ってましたけど、彼はあなたと結婚を考えて付き合っているのでしょうか?」
「いえ、まだ付き合ってはいません」

「えっ!? それでは何故、結婚してくれると思ったのですか?」
「それはですね、ちょっと待ってくださいね」

彼女はそう言うと、バッグの中から一冊の雑誌を取り出してページをめくっていった。

「ほら、ここに書いてありますよね」
そこには、北澤慎吾の結婚したい女性のタイプが書かれていた。

北澤さんが結婚するならどんな女性がいいですかという質問に、“そうですねえ、身長は大きくなくて髪はロング、目はぱっちりと大きくてよく笑う人、性格は楽天的で悩まない人がいいですね“と答えていた。

「どうですか、全部私にぴったり当てはまるでしょ!? これって、彼が私の事を考えながら言ってくれたと思うんですよ。彼はどこかで私の事を調べてくれたんじゃないですか。それで、私の事が好きになったんだと思うんですよ。コンサートでもよく、私に向かって合図してくれるんですよ。待っててね、いつかプロポーズするからねって。だから私、それがいつなのかなって待っているんですけど、なかなかしてくれないんですよね。それで今日、先生に聞きに来たんです」

「ああ……そう、ですか…」と言いながら、零美は何と言ってあげれば彼女を傷つけないかと必死に考えていた。妄想の中で彼と付き合っている彼女を、あえて現実に引き戻す事が正しいのだろうか。彼女が納得するかどうかわからないが、とりあえずの答えを提示してあげようと思った。

「水森さん、私がこの画像から受けるメッセージとしては、彼はまだ結婚は考えていなくて、当面は仕事に打ち込みたいようです。あと、事務所との兼ね合いもありますからね」
「なるほど、そうですよね。アイドルにはなかなか結婚させませんからね。事務所のOKが出るまでは難しいですよね。わかりました、ありがとうございます」

彼女はにっこりと笑ってスマホをバッグに戻した。鑑定料を支払って帰っていく彼女は、零美の話に満足した様子だった。彼女が帰った後、しばらく考えてみたが、本当にあれで良かったのかどうかは、零美にはよくわからなかった。

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