第33話「私って運が悪いと言う女」

その女性は、口癖のようにこう言った。
「私って運が悪いんですよね」
もう何度その言葉を聞いた事か、零美の頭の中でこの言葉がぐるぐると回っていた。

零美が立花美鈴の命式をテーブルに置くや否や、彼女はこう言った。
「先生、どうですか、私って運が悪いと思いませんか?」

「いや、まだ出したばっかりで…。ちょ、ちょっと待っていただけませんか?」
「あっ、すいません。私ってせっかちでしょ。ごめんなさいね」

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頭に手をやってペロッと舌を出した美鈴。男性には効果のある仕草なのだろうが、同性には嫌悪されそうだ。また、舌足らずな話し方も同性の反発を食らうだろうと、彼女と同性の零美は冷静に分析していた。

「私が感じますにですね。立花さんは、そんなに運が悪いようには思えないんですが。どんな時に運が悪いって思うんですか?」
零美の判断では、彼女は恵まれた生まれである。どうして運が悪いと思うのかが率直に不思議だった。

「それはですね、たとえば……。あっ、そうそう、こんな事です。私って石川県から上京してきて女子大に通っているんですけど、渋谷歩いてればカッコイイ男の子にナンパされるかと思ってたら、ぶっ細工な男子しか声かけてこないんですよ。これって運悪くないですか?」
「えっ……」

口が半開きのまま固まってしまった零美。今どきの女の子は、こういう事で運が悪いと言うのか、なるほど、勉強になった、と小さくうなずいていた。

「それからですね、東京はとにかくお金がかかるんです。家にいた時はママが全部やってくれたでしょ。ご飯とか、洗濯とか、掃除とか。でも、一人暮らしって全部自分でやんなきゃいけないんですよ。ママが来てくれる時はいいんですけどね。だから、外でご飯食べたりするでしょ。お友だちが高級なお店にしか連れてってくれないんですよ。みんなと合わせるのってお金かかるんですよね。これって運が悪いと思いませんか?」
「それは、お友だちがみんなお金持ちだから?」

「そう、そうなんです。みんなすごいお金持ちなんですよ。大きな会社の社長さんの娘とか、大きな病院のお医者さんの娘とかだから、家も大きな家に住んでいるし、運転手つきの高級車に乗ってるんですよ。私の実家なんか、石川県内じゃ大きな会社なんだけど、お友だちのパパに比べたらね、全然ランクが違うんですよ。これって運が悪いと思いませんか?」

それは運が悪い事なのか? 実家が会社経営で、県内でも大きな会社なら十分運が良いと言えると思うのだが、と零美は内心思っていた。

「それにですね、みんな長期の休みには海外旅行に行くんですよ、家族で。私なんか、行っても北海道とか沖縄ですよ。車もうちのパパは国産大好きですからね。たまにはベンツやボルボに乗ってみたいですよ。さくらちゃんのパパなんて、大きなクルーザー持っているんですよ。専用の船長さんがいるとかで。ひどくないですか。私って運が悪いですよね。そう思いませんか、先生」

「うーん、そうですねえ……」
彼女のペースに乗せられて、確かに運が悪いのかもと思ったりもした零美だった。

「でも、そういうお友だちは特殊な世界の方々ですよね。普通に一般的な家庭で育った人は、高級外車にも乗らないし、海外旅行になんか滅多に行きませんし、もちろんクルーザーなんて持っていません。だからと言って、みんなが自分は運が悪いと思っているわけではありませんよ」
「へー、そうなんですか」

「そうです。大体、立花さんは毎月、いくらぐらい仕送りしてもらっているんですか?」
「仕送りですか。私の口座には、いつも五十万が必ず入っているんですけど、その五十万切ったらすぐに補充してくれてます」

「それじゃあ、毎月いくら使っているかわからないんじゃないですか?」
「そうですねえ。あんまり気にしてないかも」

「でしょ。それだけ立花さんは余裕があるんですよ。普通の女子大生は、親からあんまり仕送りしてもらえなくて、自分でアルバイトして生活していますよ。立花さんはアルバイトの経験はあるんですか?」
「アルバイトですか? 絶対ないです。出来ないですよ、アルバイトなんて」

「ね、そうでしょ。アルバイトしなくても生きていけるだけで、十分運がいいと思いますよ」
「そうなんですかね?」

「はい。あなたは確実に運がいい部類に入っています。世の中には、生まれた時から貧乏な家庭で、そこからずっと貧乏って人も多いんです。でも、生まれた時に貧乏でも、努力次第で会社を興したりしてお金持ちになる人もいます。そういう風に、生まれた環境に左右されないで自分の力で逆転出来る人は、運がいい人って言えるんじゃないでしょうか」
「私もそう思います」

「そして、立花さんも、環境に関係なく自力で運を切り開く事が出来る人です。つまり、あなたも運がいい人なんですよ」
「えー!? そうなんですかあ?」

一際甲高い声が店内に響いた。本当に彼女は、自分が運が悪い人間だと信じていたらしい。この反応は、思ったまま、感じたままの表現であり、まさに命式の通りだと零美は思った。

「あなたには、徳積みをした先祖から愛されている星があります。そういう人は、家系の中でも特別な使命があるんですよ。子孫に徳を残してあげないといけないんですよね」
「それって、具体的にはどうしたらいいんですか?」

「まずは、お金を社会に流通させるために、今まで通りに消費に使う事がいいです。そして、出来れば人に喜ばれる使い方がいいですよ」
「それは、例えばどんな風にですか?」

「よくコンビニなんかであるじゃないですか、募金箱みたいなのが。あれに小銭を入れたりとか」
「あー、そういうのよくやりますよ、普通に」

「すごいですね、それは。偉いですよ」
「いやいやいや、そんなに褒められると恥ずかしいです」

「困っている人を助けるためにお金を使えば、巡り巡って自分の所に戻ってきます。それがお金としてじゃなくて、何かの幸せの形になるかも知れませんが」
「へー、そういうのっていいですね、なんか」

「そういう生活を続けていけば、今よりさらに運がいい人になりますよ」
「そうなんですか。わかりました、早速やってみます。ありがとうございます」

そう言って、彼女はニコニコ顔で帰っていった。良くも悪くも、彼女はとても素直な人だ。そういう所が先祖に愛される点なのかな、と零美は思った。

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