第40話「浮気相手を選ぶ女」

「どうも、三橋美智代です」
「お待ちしておりました。三橋さん、どうぞこちらへ」

上唇がふっくらと厚いその女性は、Tシャツにミニスカートという露出の多い大胆な服装で現れた。和彦の好みとは遠くかけ離れてはいるが、男性としての性か、つい店の奥から観察してしまう。もう三十路はとうに越えているだろうに、誰にアピールするのだろうか。

和彦が時折、相談者の事を観察するのは、小説のキャラクター探しのためである。零美の所にはいろいろな相談者がやってくる。それぞれが個性豊かで、様々なエピソードを保有している。それがまた魅力的なのだ。

「お飲みものはいかがですか?」
「ホットコーヒーください」
喫茶店と間違えているかのようなその物言いに、零美の表情は少し強張っている。敏感な零美は、すぐにその人の本質を見抜いてしまう。どろどろの情念を持つ彼女は苦手なタイプなのだ。
しかし気持ちを切り替えて、カップにコーヒーを注いでテーブルに置いた。

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「三橋さんのお悩みは何ですか?」
「悩みって言うか、気になる男が二人いるんだけど、どっちを選べばいいのかなって教えてもらおうと思って」

「では、三橋さんと男性お二人の生年月日を書いてください。男性のお名前はAさんBさんで結構です」
詳しく名前まで聞いて、余計な個人情報を知りたくなかった。彼女は意外に几帳面な文字だった。その内容をパソコンに入力、命式を出してテーブルの上に並べた。

「三橋さんは強気で自己主張が強く、積極的で能動的なので、相性の良い男性のタイプとしてはその逆の、自己主張しない消極的で受動的な人が良いと思われます。男性も同じく強い人だと、ぶつかり合ってケンカになるからです」
「なるほどねえ。先生の言う通りだね。私ってさ、何でも思い通りにならないと気が済まないのよね。当たってる。で、どっちがいいの?」

「Aさんはどちらかと言うと、俺が俺がと言うタイプです。自分が一番上じゃないと嫌って感じです。それだけ能力があるって事ですけどね」
「あー、わかる。そうそう。あの人はそんな感じ。まさにそれ。じゃあ、Bさんは?」
言い回しが鼻につく。零美は冷静になろうと大きく息を吸った。

「Bさんは女性的で優しい人です。言葉に敏感で、人の嫌がる言い方は極力しないように気をつけていると思います」
「確かにそうよね。で、運が強いのはどっちなの?」

「運ですか? 運が強いのはAさんで、かなりの強運の持ち主です」
「あっ、そうなんだ。じゃあ、Aさんがいいかもね」

「えっ!? 三橋さんとAさんはタイプが似ているから、意見がぶつかってしまいますよ。どちらかと言えばBさんとの相性がいいと思うんですが……」
分かるように説明したつもりだったのに、伝わらなかったのかなと思った。と言うよりも、人の話を聞いているのか、という憤りさえあった。

「相性なんていいの。結婚するわけじゃないんだから」
彼女の言葉の意味がよく理解できなかった。では何のために今まで説明したのだろう。時間と労力を返してくれと言いたかった。

「私が知りたいのは、どちらがより優秀かってことなの。あなたの説明では、Bさんはどちらかって言うと女っぽいって事でしょ?」
「まあ、女っぽいと言うよりも、より繊細で芸術性があると言う事なんですけど……」

「男はやっぱりリーダーシップでしょ。うちの夫は頼りないんだもん」
「えっ!? 三橋さんは結婚してたんですか?」

「そうよ。結婚してて悪い?」
「いえ……。ではどうして、この二人の男性を調べようとされたんですか?」

「どっちが優秀な遺伝子を持っているかと思ってね。どうせなら、より優秀な男の遺伝子をもらいたいでしょ。そう思わない?」
何を言いたいのか、よく意味がわからなかった。言葉も出せずに止まっている零美に、彼女はその意味を説明し出した。

「私はね、夫にあまり期待してないの。夫と結婚したのは、実家がお金持ちだから。それだけなのよ。性格はいいけどね、顔も頭も運動神経も残念って感じなの。だからさ、夫の子どもには期待できないわけ。だったらさ、優秀な遺伝子を他からもらうしかないじゃない。夫の実家を守るのは、嫁としての務めなわけよ。
それでさ、夫と同じ血液型の男性で、優秀な遺伝子を持っている人から子種をいただいちゃおうって事なのね。そして妊娠したら、あなたの子よって言えば喜ぶじゃない? 夫も喜び両親も喜び私も喜ぶ、いいと思わない?」

驚いて声も出ない零美を見て、彼女は大きな声で笑った。

「あなたね、これが初めてじゃないのよ。長男の時は東大出身のエリート弁護士で、次男の時は一流のプロ野球選手だったわ。今度は、夫の実家の会社を継いでもっと大きくできる強運の遺伝子が欲しいのよ。それでAさんって事なの。AさんもBさんも父親は会社社長なんだけどね。どっちがいいかなあって先生に聞きたかったってわけ。どうもありがとうね」

満面の笑みを浮かべ、彼女は料金を払って帰っていった。
残された零美は釈然としないまま、その背中をぼーっと眺めていた。

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