第42話「縁談に悩む女」

いかにも大人しそうで、育ちの良さを感じさせるその女性は、今にも倒れそうなくらいに深刻な顔をしてやってきた。その表情から、彼女の悩みの深さが滲み出ていた。

「こんにちは、ご予約の久保田千尋さんですね?」
「はい、そうです……」消え入りそうな声だ。

零美に促されてソファーへと座る。緊張感が伝わってくる。敏感で感受性が強いのだろう。ここが安全な場所かどうかをまず探っているのだ。おそらく彼女は、父親に対して強い苦手意識があるに違いない。本来は、子どもの頃に甘えられるべき存在だった父親から、甘える事を否定されてきたのだろう。守られるべき存在から守られない事ほど辛いものはない。そんな感情が、まるで薔薇の棘のように突き刺さって痛かった。

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まずは彼女から信頼され、緊張をほどいてあげなければ。こういう人は鏡のような存在だ。こちらが心を開いて接すれば、それ以上に心をオープンにする。まずは笑顔だ。零美は顔がとろけるぐらいの笑顔で言った。

「今日は本当にようこそ来てくださいました。久保田さんはどんな人かなあって想像していたんですけど、イメージ通りのお上品な方でした」
「あっ、いえ……お上品だなんて……」少し笑みがこぼれた。

「お飲み物はいかがですか? コーヒー、紅茶、緑茶などなど」
「あっ……それではコーヒーをお願いします」
「かしこまりました」と言ってカウンターに入る。そして二人分のコーヒーカップを手に戻ってきた。

「どうぞ」
「ありがとうございます」
まずは自分が飲み、彼女にも勧めた。カップを両手で包んで飲む。やさしくしてほしいと言う心の現れのように見える。

「今日はどうしましたか?」と優しく声を掛けた。
しばらく間を置いて「実は」と話を始めた。

「私には好きな人がいまして……。その人はとても優しくて、心の広い人なんです」
「付き合っているんですか?」

「いえ、私の片思いなんです。なかなか自分から告白する勇気がなくて……。ところが、最近父から縁談話を持ち掛けられまして、その相手に会ってみないかと言われているんです。好きな人がいるのにどうしようかと悩んでいるんです……」

「久保田さんは、お父さんには逆らえないんですか?」
「……はい。昔から、父の言う事は黙って従ってきました」

「そうなんですね。その片想いの彼と縁談相手の方の生年月日はわかりますか?」
「はい」と答え、彼女は紙に自分と二人の男性の名前と生年月日を書いた。零美はそれを入力し、命式をプリントアウトしてテーブルに広げた。

「久保田さんは、とても感受性が強くて傷つきやすい方なんです。そして環境に左右されやすい。相手がどんな人かで表情がどんどん変わります。できるだけあなたの事を理解して包み込んでくれる男性が理想ですね」
「はい」

「片想いの彼、秋山さんは、あなたと同じく繊細な心の持ち主で、人の嫌がる事はしません。自分の考えを押しつける事もなく、あなたの考えを尊重してくれます。頭の中でいろいろと考えるタイプなので、人間関係は得意じゃないかも知れませんね」
「ああ、そうですね。確かに。ナイーブな人です。涙もろいし。友だちは少ないかも知れません。引っ込み思案で、自分から友だちを作る人じゃないですけど、数少ない友人を大事にするタイプです」

「で、こちらの縁談の相手、神田さんですが。この人は人間関係を大切する人で、お友だちも多いと思います。体を動かすのが好きなアウトドア派で、休日も忙しく出かけるんじゃないでしょうか。割と自己主張が強いので、男性的な魅力はあると思いますね」
「そうなんですか。会った事はありませんが、父の会社の有望な営業マンのようです」

「お父さんは会社を経営していらっしゃるんですね?」
「はい。それで、出来れば私に会社を任せられる人と結婚させたいと思っているんです」

「久保田さんは一人っ子なんですか?」
「いえ、女ばかり三人姉妹の長女です」

「なるほど。男の子がいなかったんですね。それで久保田さんは、お父さんの大きな期待を背負っているわけですか」
「はい」

「まあ、精神的結びつきを考えると、こちらの秋山さんがよろしいですよね。あなたと似ているので共感し合えると言うか、一緒にいて楽だと思います。こちらの神田さんは、一緒にいるとおそらくストレスになってしまうと言うかですね、気が抜けないですよね。

でも、将来性を考えると、神田さんはおそらく社長後継者になりますから、経済的な心配はありません。子どもが出来た後の事を考えると、お金と言うのは大事ですから。十分な教育を受けさせるためには、ある程度の財力が必要ですよね。

こちらの秋山さんは、どちらかと言うと芸術家肌なので、経済的な事はあまり期待できないと思います。逆にお金の事で苦労しそうな感じです。でも、久保田さんに財運がありますから、パートナーとして助けてあげられる可能性はあります。本人の努力次第ですが。

これは命式から感じたことなので、百パーセント信じる必要はありません。命式は、生まれ持っての性質です。ご本人がどのような生き方をしてきたかによって、運命というものはどんどん変わっているのです。ですから、私が言った事は参考程度に考えられたらよろしいですよ。

まずは、縁談の相手とも会ってみられてはいかがでしょうか? 久保田さんは感受性が鋭いですから、直接会って話をする事でフィーリングが合うかどうかを感じるはずです。それで無理だなと思ったら断ったら良いと思いますよ。お父さんが結婚するわけではないのですからね」

「わかりました。ご丁寧にどうもありがとうございました。先生がおっしゃる通り、まずは一回、会ってから決めたいと思います」
彼女は何度もお礼を言って、お金を払って清々しい顔で帰っていった。父親に遠慮する事なく、自分の人生を自分で切り開いてほしい、零美はそう願った。

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