第47話「結婚詐欺をする女」

「先生、実は私、結婚詐欺師なんです」
予約もなしに入ってきたこの女性は、零美に会うなりこう切り出した。彼女は、自らが犯罪者である事を隠そうともしない。なんとも堂々としている。少しも悪びれる様子もない。

年齢はおそらく三十代。スレンダーな美人で、モデルをしていてもおかしくない。艶っぽい唇は、セクシーなハリウッド女優を思わせる。なるほど、彼女に結婚を仄めかされたら、大抵の男性はお金を融通するだろう。

「えっ!? 結婚詐欺ですか?」
突然の自己申告に戸惑う。いきなり何? 何の目的で? いろんな人に出会ってきたが、会った早々に犯罪者である事を明かす人は初めてだった。

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「ええそうです。でも私、誰も殺してなんかいませんよ。よくいるでしょ!? 結婚をちらつかせてお金を貢がせて、お金がなくなったら殺しちゃう人。そういう人は最低ですよね。

結婚詐欺師は夢を売る商売なんですよ。この人と結婚したら幸せになれるかなって言う夢を売る……。まあ、クラブのホステスみたいなもんですよね。

ホステスって、お店に来たお客さんの相手をして、気分を良くさせてお金を払ってもらうでしょ。高いお金を払っても、誰も詐欺だなんて言わないじゃないですか。それと同じですよね。店舗を持たないフリーなホステスみたいなもんじゃないかなって、私は思っているんです」

なるほど。お互いが満足しているのであれば、それは合法的な商売である。それならば結婚詐欺師と言う表現は違う気がするが……。零美は腑に落ちないものを感じながらも、彼女の堂々とした話しっぷりに感心していた。

「ところであなたは、どうしてウチの店に来られたんですか?」
真っ当な質問である。ここは警察署ではないのだから、自首をしに来たわけではないだろう。ただ自慢をしに来てもらっても困る、営業妨害だから帰ってほしい、と零美は思った。

「あっ、ただの世間話に来たわけじゃありませんよ。零美先生のお噂は常々聞いておりました。是非、私を占ってほしくて来たんです。自分と言うものを知るって大切じゃないですか。自分の長所や短所を知る事で、今の仕事に役立てたいと思っているんです。

それに先生だって、私みたいな結婚詐欺師がどういう星を持っているかって気になるでしょ!? 少しでも先生のお役に立ちたいんですよ」

そう言って、得も言われぬ不気味な笑顔を見せた。決して目を逸らさない。余程の自信があるようだ。こういう客は非常に厄介である。

大抵の場合、何か解決したい問題を抱えて相談に来るものだ。占い師は、その問題に対する解決法をアドバイスするのが役目である。あるいは、悩みを聞いて共感するだけでも、悩みの半分は解決したようなものだ。

しかし、彼女には特に問題と言うものはない。この威風堂々とした佇まいがそれを物語っている。強いて言えば、先生のアドバイスを受ける生徒のようなつもりなのだろう。そういう人がいてもいいかなと零美は思った。

「わかりました。あなたのお名前と生年月日を紙に書いていただけますか?」
「名前はとりえず、リナって事でお願いします」

本名は言いたくないのだろう。こういった用心深さも、結婚詐欺師を生業とする彼女の処世術なのだ。勉強になる、と思いながらパソコンで命式を出し、印刷したものを彼女の前に置いた。

「リナさんの命式はこうなります。自我が強く、自信家で、自分が正しいと思っています。確かに頭も良く、よく吟味して行動するので失敗は少ないでしょう。

結婚詐欺師とおっしゃいましたが、あらかじめターゲットを品定めして、成功確率の高い人にアプローチしていらっしゃると思います。

感受性が鋭く、相手が何を望んでいるかを瞬時に見抜いてしまう能力があります。そこが一番のポイントでしょうね」

彼女は思わず「ブラボー!」と言って手を叩いた。

「先生、その通りです。相手が何を望んでいるのか、それがわかるかどうかなんですよ、勝負の分かれ目は。私が売るのはモノじゃないんです。精神的な満足感と言いますかね。

母親のような愛情を求めている人には母親になる。娘のような愛情を求めている人には娘になる。先生を慕う生徒や弟子を求めている人には生徒や弟子になる。人はみんな、対象から受ける愛情で満足を得ようとするわけです。

その人が埋めきれない心の隙間を埋めてあげる。その代価としてお金を頂戴するわけです。結婚相手と言うと語弊があるかも知れませんね。その人のパートナーと言った方が良いでしょう。

お金持ちの人は、いくらでもお金で女性を買えるわけです。でも、それで肉体的な欲求は満たされるかも知れませんが、精神的な欲求は満たされません。そして、社会的地位があればあるほど、公序良俗に反するお店には行けないでしょ。そこで、私みたいなビジネスが成立するというわけです。需要と供給でしょ」

確かに、そう言われると犯罪とは思えなくなる。自分は被害者だと訴える人がいなければ、これは立派なビジネスとして成立するのだろう。彼女の展開する論理にいたく感心していた零美に、悪戯っぽく笑いながらこう付け加えた。

「零美先生も、この仕事に合っていると思うんですよ。どうですか、やってみませんか?」
「……」
突然の申し出に固まってしまった零美を見て、「冗談ですよ」と笑いながら言った。

持論を展開して満足したのか、鑑定料を払って帰っていった。いったい彼女は何だったのか、狐につままれたような顔の零美だった。

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