第48話「母親との同居に悩む女」

平日の午後、一人の女性が店を訪れた。電話で予約していた加藤佳苗だ。「お待ちしていました。どうぞ」と誘導され、席に着いて店内をぐるりと見回し、「明るくていいお店ですね」と月並みなお世辞を言った。

「先生は、毒親って言う言葉をご存知ですか?」
佳苗はおもむろに話を切り出した。

「はい、最近よく耳にする言葉です。子どもに対する暴力的な虐待や育児放棄だけじゃなくて、精神的な虐待や過干渉をする事で、子どもの人生に悪影響を及ぼす親の事ですよね!?」
「そうです。最近、私の母は毒親だったのかなあと思うようになりまして、先生の意見を伺いに参りました」

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「そうなんですか。それでは、お母さんのお名前と生年月日を書いていただけますか?」
彼女は紙に、母親の名前と生年月日を書いて零美に手渡した。零美は生年月日から母親の命式を出し、プリントアウトして持ってきた。

「お母さんは、自分の価値観を周りに押しつけるところがありますね」
「そうなんです。自分が正しいと思っているので、人の言う事なんか聞いてくれません」

「お母さんは八十二歳なんですね。一緒に暮らしていらっしゃるんですか?」
「はい。父が亡くなってから、母は都内の実家で一人暮らしでした。もう古い家だったので、母が、お金を出すから広くて新しい家を買って一緒に住もうって言って……。

私たちは埼玉に住んでいたんですが、夫も娘も都内に職場があって通勤が大変だったのと、マンションのローンなどで家計が大変だったので、裕福な母に甘える事にしました。それで、都内のマンションで同居を始めたのが一年前なんです。

ところがですね、いざ同居してみたら、これは失敗したなあと思いましてね。すごく後悔しているんです。

私が料理していても、いちいちうるさいんですよ。味が濃いとか手際が悪いとか。それで急に怒りだしたりするもんですから、思わず涙ぐんだりするでしょ。そしたら今度は、ごめんって言って泣き出す。感情の起伏が激しいので、これはもう認知症かなとも思ったりするんです」

「それは大変ですね」
「もう、聞いててイライラする事ばかり言うんですよ。夫の稼ぎが悪いからダメなんだとか、娘に彼氏がいないのは女としての魅力がないからなんだとか、私の育て方が悪いからなんだって言うんです」

「うーん……。お母さんは、自分が一番正しいと信じている人ですからねえ。完璧主義で努力家なんでしょうけど、周りは大変ですよね」
「ちょっと部屋が散らかっているだけでも気に入らないんです。お風呂場なんかも、きっちり乾拭からぶきしない日には大変な剣幕で怒るんです」

「昔からそうだったんですか?」
「はい。テストで頑張って、いつもより成績が良かった時でも、全然誉めてくれません。もっと頑張んなきゃダメよって言うのが口癖くちぐせでした。

机の中にしまっておいた手紙や日記なんかも全部読むんです。やめてよって言っても、親なんだから見るのは当たり前でしょ、それとも見られちゃいけないものでもあるのって言って、人の嫌がる事をやっているって自覚が全くないんです」

「それは……いくら親子だからっていけませんよねえ」
「八十二歳でもすごく元気なんですよ。私が更年期のせいか、体が重たかったり頭が痛くて寝込んだりしていると、まだ若いのにだらしないねえって言うんです。自分が元気だから、体が辛い人の気持ちがわからないんですよね。

私は母から暴力を振るわれた事はないんです。世間の人からは立派なお母さんねって言われてきました。今まで経済的にも援助を受けてきましたし、今の家だって母のお金で買えたようなものです。

感謝しなきゃいけないんだって頭ではわかるんですけど、でも、心が苦しいんです……。どうしてかわからないんですけど、一緒にいるのが苦しいんですよね……」

下を向いて唇を震わせながら、そう彼女は言った。その絞り出すような悲痛な心の叫びは、残念ながら彼女の母親には届かない……。
どうしたものかと零美はいろいろと思案した後、これは一つの提案なのですが、と言って彼女にアドバイスをした。

「お母さんは、自分が正しいと常に思っている人なので、たとえ簡単な事でも、いちいち聞いたらいいかも知れませんね。これはどうやったらいいですか、とか言う感じで。

お母さんみたいなタイプの人は、自分に歯向かう人には手厳しいんですが、自分に従ってくる人や頼ってくる人には、すごく良くしてあげたいと思うんですよ。

言葉遣いを変えたらいいかも知れませんよ。教えてよじゃなくて、教えてくださいとか、お願いしますと言う風に。丁寧な言い方に変えて、他人行儀にするんです。

他人行儀にする事で、心理的な距離を置くんです。親子だと思うと腹が立つことも、親を一人の高齢者と見る事で、自分はヘルパーなんだと割り切ればやりやすくなります。

あと、言い方は悪いですが、お母さんを利用してやると言うぐらいの考えがいいかも知れません。お母さんはお金に余裕があるわけですから、うまく煽おだてたり喜ばせたりしながら、自分たちのためにお金を使ってもらえばどうですか?

ホステスがお客さんにお金を使ってもらうために努力するでしょ!? お母さんを顧客だと思えばいいんじゃないですかね」

彼女は「お客さんですか!?」と言って、「ハハハハ!」と思わず大笑いをした。それに釣られて零美も「フフフッ」と小さく笑った。

嫁と姑なら少しは遠慮があるが、母と娘の場合は遠慮がない。それだけに、母親と同居する娘の悩み相談は多いのだ。帰っていく後ろ姿を見送りながら、彼女が少しでも母親との関係を改善できればいいなと零美は願っていた。

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