第53話「別れさせ屋の女」

平日の昼下がり、一人の女性が店を訪れた。ドアを開け、「予約なしですが大丈夫ですか?」と顔だけ覗かせた。カウンターにいた零美は「どうぞ! 大丈夫ですよ!」と大きな声で答えた。

赤いドレスを着た彼女は、髪を腰まで伸ばしたスレンダー美人だ。大きな瞳は人懐っこさを感じさせる。「どうも」と笑うと、えくぼと八重歯が彼女の美しさを際立たせた。

ソファーに座った彼女に「コーヒーはいかが?」と尋ねると、「ブラックでお願いします」との事。コーヒー好きに悪い人はいない、と言うのが零美の持論だ。

「お客様のお名前と生年月日を書いていただけますか?」
「名前は貴理子です」

そう言って、彼女は生年月日を紙に書いた。それをパソコンに入力して命式を出した零美は、彼女の目の前に置いた。

「貴理子さんのお悩みは何ですか?」
「先生、私、別れさせ屋にスカウトされたんです」
「……」

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あまり聞きなれない言葉に戸惑ってしまった。

「別れさせ屋って……何ですか?」
「その名の通り、男女を別れさせるための工作員です」
「……」
「私、工作員としての資質はありますかね?」
「工作員って……。工作員って、具体的にどんな事をするんですか?」
「例えば、ある夫婦がいて、その奥さんが夫と別れたいとするじゃないですか。なかなか普通には別れてくれないとしたら、きっかけを作らないといけないですよね。そのために、その旦那さんを誘惑して、浮気の証拠を作って、慰謝料をもらうと……」
「……」

何ともすごい仕事である。夫から慰謝料をもらうために浮気相手を依頼する。その会社は、そういう工作員を多数抱えている、という事なのだろう。

「相手を夢中にさせないといけないわけですから、ある程度の魅力が求められるでしょうね。容姿やテクニックなど……。どんな人が工作員としてスカウトされるんですか?」
「私が知っているのは人妻が多いですね。まあ、ある程度の色気が必要なんでしょう。たまに若い子も見かけますよ。たぶん、ターゲットの好みによって、年齢とか容姿とか性格とかが千差万別なんでしょうね」
「なるほど。若い子が好きな人には、若い子を用意しないといけないから、そういう人もリクルートしておくわけですか」
「まあ、需要に合わせて供給するのが商売ですからね」
「貴理子さんは二十四歳ですが、彼氏はいらっしゃるんですか?」
「います」
「彼はこのお仕事の事をご存知なんですか?」
「いえ、知りません。でも彼は、体だけのお付き合いの人が何人かいるので、私の事は気にはしないでしょうね」
「貴理子さんもやはり何人かいらっしゃる?」
「今はいません」

今はいない、前はいた、と言う事か。

「なるほど。であれば、男心には詳しいわけですね」
「まあ、そうかも知れません」
「貴理子さんの命式を見ますと、割と男性的な方なんですね。受動的と言うより能動的と言うか、従順に従うと言うより、相手を従わせたいと思うのではないでしょうか」
「そうですね。女っぽくはないと思います。男に負けたくない、と言う思いは強いですね」
「すごく勉強熱心で頭の良い方だと思うので、今の仕事に活かせる事もいろいろと勉強していらっしゃるのでしょうね」
「私、実は女優を目指しているんです。なので、こういう仕事って演技の幅を広げるのに活かせるかなって思って……。将来はハリウッド映画にも出たいと思っているので、英語も勉強しているんですよ。知的な男性に合わせるためには英語を話せるのも有利かもですよね」
「なるほど。ハリウッドですか。未来の夢に向かって頑張っていらっしゃるんですね。でも、どうなんですか? やっぱり、ドロドロの肉体関係にまでいくんですか?」
「いえ。そこまで必要ないんですよ。ただホテルに一緒に入った証拠写真さえ撮れればいいんですから。後は話術でどうにでもなります。私、格闘技もやっているんで、男性に襲われても勝つ自信はありますよ」
「では、指一本触れさせないで任務完了、もあり得るわけですね」
「そうですね。それはもう、それぞれのやり方だと思います。男性との肉体的な関係を好む人もいれば、そうでない人もいると。要は、頭を使って浮気の証拠を作り上げればいいわけですから」
「いやー、すごい! ある面、女優としてのスキルアップにもつながるし、短時間での高収入バイトになるわけですね。貴理子さんはすごくこの仕事に向いていると思います」

そう言いながら、零美ははたと考えた。これは、ターゲットになる人にとってはあまり嬉しくない事ではないのかな……と。ターゲットが、浮気が絶えないなどの悪い人なら良いのだが、逆にまったくの善人で、依頼する妻の方が悪人の場合もあるのではないだろうか?

まあでも、ハニートラップにかかると言う事は、ターゲットにも下心があると言う事なのだから、そんなに真剣に考える事でもないかなと、一人で納得していた。

「自信がつきました。ありがとうございます」と言って、彼女は意気揚々と帰っていった。どちらかと言うと裏稼業の「別れさせ屋」の彼女が、危険な目に遭わないで夢を叶えられればいいなと、後姿を見送りながら零美は願っていた。

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