第58話「死にかけた男」

「先生、一日一悪って言葉、知ってます?」
神田恭一は、悪戯っぽい笑顔で話を切り出した。

「初めて聞きました。何ですか、それ?」
一日一善ならよく聞くが、一日一悪など聞いた事がない。若い人の間で流行っているのだろうかと零美は考えた。

「僕の友だちで一日一善を実行している奴がいるんですが、それに対抗して、一日に一つは人の嫌がる事をしたいと言うバカな奴がいるんです。今日は、その正反対な二人の四柱推命をしてもらいたいなと思って来たんですよ」

「了解しました」と言って、紙に二人の名前と生年月日を書くよう促す。彼はペンを持って、佐藤剛と新川英樹の名前と生年月日を書いた。零美は二人の命式を出し、テーブルの上に並べた。

「まずは一日一善の佐藤さん。この人の内面は女性的で、争いを好まず和を大切にします。自分の事はさておいて、人のために忙しい人です。人のために動く事が苦にならない人なんですね」
「そんな感じだと思います」

「一方の新川さんですが、人と同じ事をしたくないんですよ。いつも斜めから物事を見ているので、変わっていると思われますが、本人はそう見られるのが嬉しいんですよね。だからあえて一日一悪なんでしょう。根は悪い人じゃないんです」
「確かにいい奴なんですよ。本当、根はいい奴です」

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そして、彼は思い出したように「そうそう」と言って話を切り出した。

「そう言えば、こんな事があったんです。先月の事なんですけど、中学の同窓会があったんですよ。佐藤も新川も小学校からの同級生なので、あいつらも同窓会に来たんです。

その時に、新川がテーブルにあったワインを一本取って、グラスで飲まずにそのまま口につけて飲んだんですよ。そしたら急におかしくなって、口から泡を吹いて床に倒れ込んだんです。

もうみんなびっくりしちゃって、あわてて救急車を呼んだんです。それでしばらくして救急車が到着して、あいつは病院に行って、僕らは警察から事情を聞かれる事になったんです。

それで警察の話では、ワインの中に農薬が混入されていたと言うんですね。それで、捜査の結果、犯人は同級生の泉純子でした。泉は中学時代に、クラスの女子たちからいじめを受けていたんですよね。

それで、狙ったのはその女子たちだったんですけど、新川がその前に飲んじゃったっていう事なんですよ。まあ、あいつは体が丈夫なのか、死なずに今でもピンピンしてますけどね」

「ははは」と大きな口を開けて笑った。釣られて零美も笑う。

「それで先生、もしあいつが飲まなかったら、他の誰かが死んでたかも知れないと思うと、あいつがやった事は一日一悪じゃなくて、一日一善だったんじゃないかと思うんですよ。先生はどう思います?」

と聞かれ、「うーん」と少し考えた。

「難しい話ですね。ただ言えるのは、新川さんは強運の生まれです。死にそうな目に遭ってもなかなか死なない人だと言えます。そういう人だからこそ、本人も死ななかったし、周りの同級生たちも助かったと。

また、佐藤さんがずーっと一日一善を繰り返してきたので、彼の徳積みのお陰で新川さんも同級生たちも助かったのかも知れません。

結論を言うと、この体験を通して、新川さんは少し生き方が変わる気がします。人を困らせる生き方ではなく、人を喜ばせる生き方になるんじゃないかと……」

「それはどうですかね」と言って、神田はまた大きな口を開けて笑った。零美もまた釣られて笑うのだった。

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