第61話「コミュ障の女」

平日の昼過ぎ、その女性はふらりと現れた。前以ての予約はしていなかった。長い黒髪に切れ長の二重が印象的な美女だ。「予約してないですけど、よろしいでしょうか?」との謙虚な申し出に「よろしいですよ、どうぞどうぞ」と招き入れた。

「えーっと……お客様はお飲み物は……コーヒーでもよろしいですか?」
「はい、お砂糖とミルクもあると嬉しいです」

そう言って、ぎこちない笑顔を見せた。初めての相手に対しての緊張からか、落ち着かない様子だった。ホットコーヒーに砂糖とミルク、そして一口サイズのチョコレートを二つ添えて目の前に置くと、「このチョコ、大好きなんです」と言って白い歯を見せた。

「えーっと……お客様のお悩みは……」
「は、はい……これからの事について悩んでいるんですけど……」

「では、この紙にお名前と生年月日を書いてもらってよろしいですか?」
「はい」

彼女の名前は菅野奈緒、年齢は三十三歳。彼女の命式を出してプリントアウトし、テーブルの上に置いた。

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「菅野さんは今、お仕事は……」
「無職です」

「では、ご実家でご両親と一緒ですか?」
「いえ、父の名義のワンルームマンションで一人暮らしです」

「ご両親はお元気なんですか?」
「母は私が六歳の時に亡くなりました。自殺だったようです。父は会社経営で忙しく、家に何日も帰らないことがあって、私はいつも一人ぼっち。近所の人がご飯を食べさせてくれたりしました。

お金に余裕が出来てからは、家政婦さんを雇ってくれました。食事には困らなくなりましたが、基本的にいつも一人、ラップがかかったお皿を見るのは今でも嫌です。

小学生になる前からいつも一人で過ごし、父とは口を利く事もなかったわけですから、こんなコミュ障になってしまいました」

彼女は零美に、訴えるような目で言った。口調は淡々としていたが、その目は紛れもなく、助けてほしいと訴える目だった。心で思っている事をうまく表現できないもどかしさが伝わってくる。

「コミュ障ですか……。私もコミュ障ですから、よくわかります」
「えっ!? 先生もそうなんですか?」

「私は人一番敏感な人間なので、人の気持ちが胸に突き刺さってくるんです。特に、悪意が強い人と一緒にいるのが耐えられないと言いますか……」
「でも、この仕事はいろんな人が来られるのでは?」

「長く続けているうちに、少しずつ要領がわかってきました。でも、出来ればあまり人とは関わりたくないのが本音です」
「私もです」

人とは関わりたくないと言うのには例外がある。自分の事を理解してくれる人とは関わりたいのだ。自分の生きづらさに共感してくれる人を探して、彼女はここまでやってきたのである。そしてまた、零美も同じように探していた。同じタイプの人間を……。

「私を必要としてくれる人がいる限りは、頑張って続けていくつもりです」
「先生は強いんですね。私は弱い人間です。学生時代はいじめのターゲットにされていました。社会人になっても人間関係でうまくいかず、仕事を転々としてきました。今は父に養われていますが、父が亡くなったら生活保護を受けるしかないかもです」

下を向いてぼそぼそと話す彼女には、未来に対する希望が少しも感じられなかった。心を病んでいる、と言う表現しか出来ない。

「お父さんは、結構な財産家なんですか?」
「そうなんですけど……。私が二十一の時に再婚しまして、相手は二十歳以上も年下の女なんです。明らかに財産目当てです。彼女のお陰で実家を追い出された形ですね。父はあの人の言い成りですから、私には財産を遺してくれないかも知れないのが心配なんです」

そう言う彼女の目は、つり上がっていて怖かった。かなりの憎悪を感じる。

「ご結婚は……」
「一年前に離婚しました。私なりに努力したんですけどね。どうしても彼のお母さんとうまくやっていけなくて……。結局彼は、私ではなくて母親を選んだんです」

「再婚は考えないんですか? せっかくお綺麗な方でいらっしゃるのに……」
「こんな暗い私でもいいよって言ってくれる人がいればいいんですが……」

「いますよ、きっと。結婚相談所とかに登録なさったらいかがですか? ああいうのって、真剣に結婚を考えている人が登録するはずですから」
「……」

「あなたの武器は、そのお綺麗な顔です。写真を見て会いたいって人は多いはずですよ」
「そうですね……」

「実は面食いだとか、年収がいくら以上じゃないとだめだとか、基準があったりするんですか?」
「いえ、こんな私でも良ければ、ある程度の事は我慢しようと思っています」

意外にも殊勝な心掛けだなと思った。プライドだけは高いとなると、もう何も言えなくなってしまう。

「じゃあとりあえず、婚活ですね、あなたのこれからの仕事は。気になる方が見つかったら、その人との相性などを占ってみましょう。相手のタイプがわかれば、どうやって攻略すれば良いか考えられますから。一緒に婚活、頑張りましょう」

零美の言葉に思わず「ふふふ」と笑った。少しだけだが、未来に進む事が出来そうだ。「頑張って」と背中に手を当てて彼女を送り出した。また来てくれるといいな、と思いながら。

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