第64話「夢で殺される男」

零美は昨夜の電話が気になっていた。何かしら事件の香りがする。取り越し苦労なら良いのだが、念のためにと思い、和彦の友人である川崎刑事に連絡を取った。

「もしもし、川崎さんですか?」
「あー、どうも。零美さん、お久しぶりです。何かありましたか?」

「いえ、まだ何も。て言うか、これから起きそうな気がするんですが……」
「それは犯罪がですか?」

「まだよくわからないんですが。もしお時間があれば、私の店に来て頂けないでしょうか?」
「わかりました。すぐに伺います」

午後五時過ぎ、川崎刑事が到着した。「突然にすいません」と謝り、呼び出した理由を説明した。

「昨夜、ある男性から相談依頼の電話を受けたんです。その人が言うには、一週間近く続けて殺される夢を見たって言うんです。その時、何か犯罪が関わっていそうなインスピレーションがあって……」

川崎刑事は零美の直感を信じ、和彦の居る奥の部屋で待機する事にした。そして午後六時になろうかという時、問題の男性が現れた。

「こんばんは。昨日電話した棚橋慎太郎です」
「お待ちしていました、どうぞ」

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席に着いた彼にコーヒーを出し、対面の席に座った零美は、早速本題に入る事にした。

「殺される夢を見るとの事ですが……」
「はい。このところ一週間ぐらい続けて、自分が誰かに殺される夢なんです。これは何かの暗示なのか、正夢になるのかと心配で……」

「どんな殺され方なんですか?」
「いろいろです。ナイフで刺されたり、首を絞められたり、高い所から突き落とされたり、拳銃で撃たれたり……」

興奮しながら身振り手振りで説明した。時折目を見開いたり、声に抑揚をつけたりして、なかなかの表現力だった。見た感じは五十代のようである。その様子を、川崎は注意深く観察していた。何か大事な事を言うかも知れないと、ボイスレコーダーの録音も忘れなかった。

「犯人の顔は見えないんですか?」
「顔は見えないです。男か女かもわかりません」

「失礼ですが、棚橋さんは、誰かに恨まれるような心当たりはありませんか?」
「いやー、そうですねえ……」

そう言いながら、右ひじをテーブルについて顎を支え、左上を見上げながら考えた。しばらく時間が流れた後、「わかりませんねえ」と言って考えるのをやめた。

すると、零美は突然ペンを持ち、紙に文字を書きだした。

USO

HITOGOROSHI

何故かローマ字で書かれたその文字、よく見てみると「うそ」「ひとごろし」と書かれている。突然何者かの意思によって書かされたその言葉には、強い憎悪の念が込められていた。男性の嘘に対する被害者のメッセージだ。彼に見られないようにさりげなく手で隠した。

そして再び、強い力によって文字を書くように強制された。

KAWASAKI

TAMAGAWA

今度は「かわさき」「たまがわ」と読める。零美は彼から見えないように、写真に撮って和彦に送った。和彦のスマホに着信があり、零美が送った画像が届いた。

「USO、HITOGOROSHI、KAWASAKI、TAMAGAWA……? なんだろうこれ?」
和彦は川崎刑事にその画像を見せた。

「うそ、ひとごろし、かわさき、たまがわ……。わかった、これは、嘘、人殺し、川崎、多摩川だ。あいつは嘘をついていて、川崎の多摩川で起きた殺人事件の関係者だ」
川崎刑事は、一か月前に起きた殺人事件を思い出していた。

外国人女性が何者かに殺害され、多摩川の河川敷に遺棄されていた事件だ。手がかりが少なく、捜査が難航していた。

この男は何かを知っているのかも知れない。もしかしたらこの男が犯人で、被害女性が夢に出てきて復讐しようとしていたのだろうか。川崎刑事は、多摩川の事件の関係者かも知れないから慎重に話を聞いてくれと、零美にメールを送った。

零美のスマホに着信があった。急いでスマホを操作しようとした時、うっかり紙に書いた文字を男性に見られてしまった。

「うそ、ひとごろし、かわさき、たまがわ……」

見えた文字を読み上げた彼は、一瞬で血の気が引いたように青ざめた。そして、突然思いついたように立ち上がった。

「す、すいません。こ、この後、よ、用事があったのを忘れていました。し、失礼します」

そう言ったかと思うと、一目散に入り口に向かって走った。それに気づいた川崎刑事が「ちょっと待ちなさい」と声をかけて追いかけた。

男性は、川崎刑事が追いかけてきている事に気づき、必死になって走った。川崎刑事も見失わないように追いかけた。

しばらく進むと国道があり、彼は赤信号で立ち止まった。川崎刑事が彼の姿を見つけ、「そこで待ちなさい」と大声で叫んだ。

すると次の瞬間、彼の体が宙に舞い、数メートル先に飛んでいった。「きゃーーーーーー!」という女性の金切り声が宙を切り裂いた。

ようやく川崎刑事が追いつくと、彼は既に即死のようだった。どんどん人が集まってきて、誰かが電話で救急車を呼んでいた。

川崎刑事がそこにいた数人に話を聞くと、誰もが一様に「男性が突然、目に見えない誰かに押されたかのようにトラックに飛び込んだ」と証言した。救急車と交通課の警察官が来たのを見届けると、川崎刑事は零美の元に戻って話を聞いた。

「おそらく、被害者の女性が復讐を果たしたかったのでしょう。逮捕されるだけでは満足出来ず、自分と同じような目に遭わせてやろうと……。だから、私の元に来させたのだと思います」

零美の話を聞き、川崎刑事は思いついたように「零美さんは、亡くなった方と話が出来るんですか?」と尋ねた。零美は「ふふふ」と笑った後、彼の目を見つめて言った。

「話せる時と話せない時があります。私にも、それがどうしてなのかはわかりません。今回は、話をしたと言うよりも、被害者の力で私の手を動かして文字を書かせた、という感覚です。こういう事は初めての経験でした」

川崎刑事には、そう言った彼女の目がとても悲しそうだった事が印象的だった。

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