第七話「体だけの関係の女」

その女性は、かなり横柄な態度をとっていた。ソファーにふんぞり返り、足を開いて貧乏ゆすりをしている。
彼女の名前は村上幸子。年齢は35歳。大柄な体で、シャツには虎を飼っている。標準語で話してはいるが、関西出身かも知れないと零美は思っていた。

「それでね、聞きたいのはこの人の事なのよ」

彼女は、広川健三の名前と生年月日を書いた。

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「あたしには旦那がいるんだけどさ、この人とは体だけの関係ってわけね。この人も奥さんいるから、まあW不倫ってやつかな。まあ、それはどうでもいいんだけど…。
それでさ、最近この人が携帯で話しているのを聞いてたらさ、なんかヤバい事になってるみたいなのよ。ヤクザみたいな人と付き合っている感じでさ。揉め事を抱えてるんじゃないかなって気になっているの。

それを問い詰めたら『なにも心配する事はない』っていうわけ。それが信じていいものかどうか、もしかしたらヤクザと付き合っててヤバい状況じゃないのかを知りたいの」

何とも早口でまくし立てられた零美は、いささかうんざりとした表情をして顔を引きつらせている。しかし、すぐに営業スマイルに戻した。

「では、タロットカードで占ってみましょう」

零美はそう言って、タロット占いを始めた。テーブルにカードを並べていく。そして一枚を選ぶとそれを表にした。

「うーん……、どうも危ない雰囲気が漂っています。この方とは別れた方が良いと思います」
「えっ? それってどういう事? この人やっぱりヤクザと付き合ってるの?」

「いや、そこまではわかりませんが…。この人には、何か良くない未来が近づいているようなので、この人と一緒にいたら村上さんにも影響があるかも知れませんから、別れた方が……」
「別れられるわけないじゃん! 何言ってんの? もういいよ、どうもねっ!」

彼女が荒々しく立ち上がると、テーブルが音を立てて揺れた。
そして、彼女は鑑定料を置いて帰っていった。

「どうもありがとうございました」

零美は彼女の背中に向かって、深々とお辞儀をした。

一部始終を見ていた和彦が零美の所に駆け寄った。

「大丈夫かい? ぶつからなかった?」
「私は大丈夫。ちょっとコーヒーがこぼれちゃったわね」

「なんかすごい人だったね」
「うん。迫力があった」

「彼女はどんな人だった?」
「そうねえ、なんかおどろおどろしい魂って感じね」

「不倫してますけど何かって感じで、全然悪びれてないね」
「そう。多分、あの人の旦那さんも不倫してるね、きっと。体中からそういう淫らな波動を発していたわ。もう気持ち悪いぐらいで…。早く帰ってってずっと思ってた」

零美は両手を胸のところで交差させて、身震いする素振りを見せた。そして、奥から塩を持ってきて、盛り塩にして店の前に置きドアの鍵を閉めた。

「W不倫ってどういう事だろうね。彼氏の奥さんは知っているのかな?」
「多分、彼氏の奥さんも不倫してるかもだよね。類は友を呼ぶって言うじゃない。きっとそうよ」

コーヒーがこぼれたテーブルを拭きながら零美は言った。

「いつかの人みたいに、その彼氏やさっきの人も事件に巻き込まれるかもね」
「そうだね。でも、君は『別れた方がいい』って忠告したわけだからね、今回は。それを無視して事件に巻き込まれたとしても、あの人の自己責任だ」

「本当、難しいわね。いい事だけ言ってその場は喜んでもらっても、後で大変な目に遭うかも知れないし、耳障りの悪い言葉を伝えて怒らせてしまっても、その人が危険な目に遭わないようにしてあげた方がいいのか、正解はどっちかわからないわ」
「うーん、本当に難しい。こういうのもさ、相性があるんじゃない!?お客さんと占い師の相性が。さっきの人と零美はどう見ても相性合わない感じだよ」

「そうよね。私も最初っから『この人、苦手だな』って思ってたの。横柄な態度だったしね。品がないって言うか」
「あのシャツの虎のプリントがすごいね。まさに肉食って言う…。大阪のおばちゃんってみんなあんな感じなのかな?」

「みんなそうってわけでもないと思うわ。私の知ってる大阪の女性は品があって素敵よ。マダムって感じで」
「やっぱりさ、先生に相談に来たんだから、もっと謙虚になってほしいよ。お金払うから私はお客様なのよ、お客様は神様なのよって思ってるかも知れないけど、こっちにもお客を選ぶ権利があるんだからさ」

「あなた珍しく怒ってるわね。あなたがこんなに怒るなんてそうそうないけど。あなたは言葉を大切にする人だから、言葉に品がない人は好きじゃないのよね」
「うん、僕は出来るだけ、耳障りの良い言葉を使いたいんだ。小説を書く時にもさ、言葉を吟味している。あーでもないこーでもないと、考えて考えて考えぬいて、ピタッとハマる言葉が浮かんだ時には最高の気分になるんだ」

「その気持ちわかるわ。私も、その人に一番ふさわしい言葉をいつも探している。その人の心に響く言葉を。相性の合うお客さんだったら、それが自然と出てくるのよね。でもさっきの人には、思うような言葉が浮かばなかった。もっと怒らせない言い方があったのかも知れないけど…。まだまだ修行が足りないわね」

優しく見つめる和彦に、零美は肩をすくめて笑った。

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