第74話「モテたい男」

「こんばんは」
ナイキのロゴが入った黒いキャップ帽を被り、白いTシャツにジーパンを履いて現れたのは、昨晩に予約の電話を入れた男性だった。ビートルズのジョン・レノンを思わせる丸いメガネのレンズには、薄い茶色が入っていた。

「こんばんは。田中和則さんですね。中へどうぞ」
「おじゃまします」

軽く頭を下げて中に入ると、店内を見回しながら席に着いた。「コーヒーでも飲みませんか?」との問いかけに「いただきます」と笑顔で応じると、帽子を被ったままだった事に気づいて慌てて脱いだ。

カウンターの零美に「素敵なお店ですね」と言って笑いかけた。「ありがとうございます」と答えた零美は、褒めてもらったお礼にとチョコレートを余分に添えた。

「どうぞ」とコーヒーを出され「ありがとうございます」と軽く会釈をした。ぎこちない笑顔には緊張の色が見えた。

「何か良い事でもあったんですか?」
「いえ、何もありません。どうしてですか?」

「ニコニコしてらっしゃるから」
「いつもこんな顔ですよ。良い事と言ったら、先生が美人だった事ですかね」

「褒めても何も出ませんよ」
「いや、僕は嘘がつけない人間ですから」

「そうなんですか。ところで、田中さんの悩み事というのは何ですか?」
「実は僕、彼女いない歴二十七年なんです。どうしたらモテますか?」

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身を乗り出す彼に「近い近い」と思いながら「そうですか、モテないようには見えませんけどねえ」と答えた。背は高くスマートで、目は細いが知的な感じが見受けられるのに、こういう女心に無頓着な所が原因なのかなと感じられた。

「それではこの紙に、名前と生年月日を書いていただけますか?」
「はい」と答えてペンを持ち、かなり崩した文字で一気に書き上げた。ちょっと読みづらいとは思ったが、黙って命式を出して彼の前に置いた。

「田中さんは、かなりのプラス思考ですね」
「そうですね。あまり悩まないです」

「じゃあ、お友だちも多いんじゃないですか?」
「浅く広くって感じです」

「なるほど」
「でも、男ばっかりですよ。女の人と話すのは苦手で……」

「女性に対する苦手意識があると……。という事は、女の兄弟が多いですか?」
「上に姉が三人いて、僕は四番目の末っ子です」

「お姉さんたちにいじめられたとか?」
「そうですね、それで女は怖いというイメージが定着したのかもですね」

「今はどんなお仕事をしていらっしゃるんですか?」
「コンビニでアルバイトしています」

「アルバイトという事は、定職には就かないんですか?」
「自分に合う仕事ってのがなかなかなくて……。今はアルバイトをしながら求職中です」

「田中さんは、命令されるのが好きではないので、人に使われるってタイプではないですね。人を使う立場になるか、出来るだけ自由にやらせてくれる環境とか、自分一人で出来る仕事を探すしかないと思います」
「そうですねえ。確かに、命令されるのは好きじゃないです」

「やりたい事とかあるんですか?」
「いや、特にないですね。必要とされるならお役に立ちたいなとは思っています」

「女性はやっぱり安定を求めるから、まずは定職に就くのがモテる早道じゃないですか?」
「確かに、それは思います」

「でもやっぱり、自由に生きたいわけですよね」
「はい、指図されるのは嫌いなので」

「コンビニのアルバイトでも指図されるんじゃないですか?」
「結構長くやっているので、僕が仕切っている感はあります」

「なるほど、じゃあ、若い子たちに指示したり」
「僕より年配の方もいらっしゃいますけどね。でも店では僕が先輩だから、相手も敬語で話してくれます」

「仕事はまあ良いとして、後は女性に対する気配りですかね」
「気配りですか?」

「まずは服装も重要ですよ。人は第一印象で判断しますから」
「あまり気にしませんね、外見は」

「確かに田中さんは、人からどう思われるかとか気にしない方ですよね」
「はい」

「でも、基本的に女性は外見を気にしますから、モテる確率は低くなってしまいますよ」
「それは困りますね」

「だからと言って、自分のスタンスを変える気はありませんよね?」
「はい」

「わからない人には理解してもらわなくて結構、という感じですもんね」
「はい、その通りです」

彼は自分の主義を変える気はない。端から人の忠告を聞くタイプではないのだ。こういう人を相手にするのは非常に疲れる、零美はほとほと困惑していた。

「でもまあ、日本中を探せば、田中さんのような人が好きだって言う女性もいるのではないでしょうか?」
「本当ですか?」

「いや……多分……きっと、いますよ。東京だけで探していちゃだめですよ。もしかしたら北海道にいるのかも知れませんからね」
「北海道ですか?」

「いや、それは例えで……。もしかしたら大阪かも知れないし、あるいは福岡、鹿児島、もしかしたら沖縄にいるかも知れません」
「そう考えると、日本じゃなくて海外にいるのかも知れませんね」

零美は笑って頷いた。このやり取りで、何故か彼は満足したのか、納得して帰っていった。結局彼は何をしに来たのかよくわからなかったが、これもまた占い師の仕事なのだと、零美は自分に言い聞かせていた。

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