第76話「恋人と喧嘩ばかりの男」

「昨日予約した者ですけど……」
か細い声にやっと気がついた零美が入り口に行ってみると、ドアの前には背の高い男が立っていた。二十代後半だろうか、縦に長く全体的に細い。首が細く顔も小さい。スラックスのサイズが大きいのか、だぼだぼに見える。

「あっ、ご予約の宮田壮一さんですよね?」

「はい」と小さく頷き、申し訳なさそうに肩をすぼめた。「どうぞ」と誘導して席に着かせる。「コーヒーはお好きですか?」「はい」「ブラックで?」「はい」とやり取りを交わし、カウンターで豆を挽いた。

その間にも、所在無さげにきょろきょろと店内を見回している。それまでの様子から、彼の命式を何となく頭の中で想像しながら、カップにコーヒーを注いだ。

「どうぞ」と彼の前に置くと「ありがとうございます」と頭を下げ、両手でカップを持って飲み始めた。その際、両脇を締めてぴたっと体に密着させている。

二人の他に誰もいなくて広々とした空間なのに、それを使う権利もないかのように振る舞う彼の慎ましさが微笑ましかった。これは零美の思いなのだが、厳しい女性に言わせれば「もっと堂々としなさい」と叱られるかもしれない。

「宮田さんのお悩みは何ですか?」

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コーヒーを少しずつ啜っていた彼は、急に話しかけられて慌てたのか、「あっ」と声を漏らして中身をこぼしそうになった。「大丈夫ですか?」と言うと「はい、大丈夫です」とまた小さくお辞儀をした。

「すいませんね、ゆっくり召し上がってくださいね」と言われると黙って頷き、また少し啜った後にカップをテーブルに置いた。そしてバッグからハンカチを取り出すと、丁寧に口を拭いてから話を始めた。

「あの、ですね。今日伺ったのは、彼女との相性を観ていただきたくて……」
「はい、わかりました。ではこちらに、お二人のお名前と生年月日をお願いします」

彼はペンを持つと、自分の名前と彼女の名前、二人の生年月日を書いた。それを受け取ってパソコンで命式を出し、プリントアウトしたものをテーブルに置いた。

「はは――、なるほどですね」

彼の命式は、先ほど頭の中で想像した通りで大体当たっていた。女性的な性質が強く、几帳面で細かい。自己主張はしたくないといった感じだった。

一方の彼女は、自我が強く男勝りで、自分が正しいと思っているので、相手を思い通りに操りたいと思っている。「なかなか大変だな」と心の中で思った。

「二人の関係性としてはですね、あなたが彼女を助けてあげたい、いろいろとしてあげたいと思っています。それに対し苦にも感じず、彼女も何の負担も感じていません」
「そうですね、確かに僕は、尽くしてあげたいと思うほうです」

「彼女はどっちかと言うと、女王様って感じですね」

その表現がつぼを得たようで、彼は思わず吹き出しそうになって口を押さえた。そして口を押さえたまま「女王様、女王様……」と小さく呟いていた。

「この人と付き合うのは大変じゃないですか?」
零美の言葉に、彼は目を見開いた。彼の悩みそのものだったからだ。

「いや、あの、本っ当にですね、大変なんですよ、彼女は」
思わず声が上ずる。

「顔はね、アイドル並みに可愛いんですよ。でもですね、男を男と思わないって言うか、会えば必ず喧嘩になっちゃうんですよね」
そう言って彼は、腕組みをしてソファーの背もたれに体を預けた。

「彼女は強い人ですからねえ。絶対に謝らないでしょ?」
「はい。ごめんなさいを聞いた事がないです」
腕を組んだまま下を向く。口を一文字に結んで強く噛み締めた。

「そういう人だからしょうがないですよね」
「もう変わりようがないですか?」

上目遣いに尋ねる彼に、零美は引導を渡すかのようにこう言った。
「残念ながら、諦めてください」

その言葉を聞いて、組んでいた両腕を天に振り上げた彼は「マジですか――?」と言った。「すいませんねえ」と笑うと「いえいえ、先生が謝る事じゃありませんよ」と首を振った。

「どうします、もう別れますか?」
「えっ?」
思わぬ言葉に驚きの声を出した。

「いや、どう考えても彼女はこのままでしょうし、あなたが傷つくような言葉をずけずけ言いますよ」
「そう! そうなんですよねえ。どうしてあんなに口が悪いのか、呆れてしまいますよ」

「でも、可愛いから別れたくない?」
「う――ん」

再び腕を組み直し、目を瞑って考え始めた。しばらくそのまま動かなかったが、諦めたようにこう言った。

「とりあえず、もうちょっと我慢して付き合います」
「頑張ってください」

零美の言葉に黙って微笑んだ彼は、「ありがとうございました」と言って帰っていった。彼の背中を見送りながら、M気質の彼なら、意外とうまくやっていきそうな予感がした。

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