第80話「職場の三人が気になる女」

「三人の男性を観てもらいたいんです」
昨夜の電話でそう言った彼女が、夕方に店を訪ねてきた。ブラウスとスカートは上下とも深緑、髪は肩までの落ち着いた雰囲気の女性だった。化粧の濃さが三十代後半を思わせた。

「長谷川友美さんですね?」
「はい」
「お待ちしていました」
彼女をテーブル席に導き、コーヒーの準備をする。カウンター越しに「その紙にお名前と生年月日を書いてもらえませんか」と声を掛けた。

「え―っと、自分と観てもらいたい人、全部ですよね?」
「そうです。三人の男性ですよね」
「はい」

彼女は、自分と三人の男性の名前と生年月日を書いた。零美はコーヒーの作成と同時並行でパソコンに入力し、四人分の命式を出してテーブルに並べた。その後、コーヒーカップを二つ持って席に着いた。

「長谷川さんは独身ですか?」
「はい」
彼女の年齢は三十五歳だった。五十二歳、四十三歳、二十三歳の男性たちとの相性が気になるのだろうか。

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「この方たちはどんな関係ですか?」
「会社の部長と課長、それに新人の男の子です」
「と言う事は、長谷川さんと三人の相性を観るって事ですかね?」

この質問に、彼女は違和感を感じたらしい。感情が顔に出やすいようで、間違いを訂正してほしいといった感じで言ってきた。

「部長と課長との相性なんてとんでもない。この二人は既婚者のくせに、私をいやらしい目で見るんですよ」
「あっ、そうなんですか」
「ちょくちょく肩や背中を触ってきますし、あれはセクハラですよね?」
「見てないんで、私には何とも……」

すいませんといった感じで頭を下げた。セクハラ被害は、当事者がセクハラだと感じればセクハラだと言えるのだろう。彼女に言わせれば、脂ぎった中年男性に触られるのはセクハラだが、若いイケメンに触られるのはセクハラとは言わないのだろう。

「部長と課長との相性なんかはどうでもいいんです。ただ、どうして私をそういう目で見るのかなと、私になにか男を惹きつけるものがあるのかなと思ってですね」

お世辞にも美人とは言い難い容姿であるが、肉厚な体型が親近感を抱かせるのでは、と思ってしまったのは、中年男性はいやらしいと決めつけたかのような言い回しに苛ついたからだった。しかし、そんな失礼な事は口が裂けても言えない。

「なるほど、わかりました。では、もう一人の若い人は?」
「彼はですね、今年入社したばかりの新人です。私が教育係になっているんですが、なんか最近、私を異性として見ている気がするんですよね」

「え―っと、お二人の年齢差は十二歳、ちょうど一回りですね」
「そうなんです。いくら私が魅力的だからって言ってもねえ、離れすぎでしょ?」

そう言いながら、瞬きを繰り返して目をパチパチさせるのは、同意してほしいという甘えの表れだろうか。

「でもまあ、私も独身だし、もし彼が付き合いたいなら付き合ってもいいかなって思って」
「つまり、この二人は何故、長谷川さんに惹きつけられるのかと言う事と、彼と長谷川さんの相性を知りたいって事ですね?」
「まあ、そう言う事です」
「わかりました」

彼女の命式の横に、三人の命式を並べて考えてみた。彼女の求めている答えはわかっている。石橋部長と金谷課長の事はどうでもいい。ただ、年下の青野くんとの相性を知りたいのだ。

でも、青野くんだけを観てもらうのは恥ずかしいので、ついでに二人の上司を追加した、それだけの話だ。何とも回りくどい話なのだが、三十五歳の女心をわかってあげるのが同性の占い師の優しさではないか、少しでも喜んで帰ってもらおう、そう思った。

「部長さんと課長さんですが、二人ともとても大らかな性格です。細かい事は気にしない、組織の人間関係が大事なんですね。だから、長谷川さんに対していやらしい感情を持っているとは、私には感じられませんね」
「はあ、そうですか。じゃあ、ただの昭和世代のノリですかね?」

「おそらく。女性の心に気を配るタイプじゃないので、長谷川さんが嫌がっているのは気づいていないでしょうね」
「それは困りますね」

「それはセクハラになりますからやめましょうよって、やんわりと角が立たない言い方で言ったらどうでしょうか」
「それでもやめなかったら?」

「その時は会社に相談してみてはどうでしょう」
「なるほど。わかりました」

この問題は、彼女にとっては別にどうでも良い話だ。本当にセクハラがあるかどうかでさえ疑わしい。問題は、年下の彼の事なのだ。それを最も知りたがっている事を、零美は確信していた。

「そして、こちらの青野さんですが……」
「はい」

急に背筋を伸ばして顎を引いた。さっきまでとは意気込みがまるで違う。三十五歳独身女性の、密やかな恋心を応援したいと言う気持ちはあるが、彼は彼女を恋愛対象としては見ていないと思われる。

実際のところ、彼女の勘違いだと思われるのだが、そのまま伝えるのはバッサリ切り捨てるようで、何とも心苦しいばかりだ。何とか彼女のプライドを尊重しつつ、うまく表現しなければと、零美は頭をフル回転させていた。

「彼はですね」
「はい」
「とても優しい人です」
「確かに」
「優しすぎると言うか」
「はい」
「自己主張しないと言うかですね」
「はい」
「受け身過ぎるんですね」
「受け身過ぎる、とは?」
「良い人過ぎて損をしやすいと言うか、騙されやすいと言うか」
「ははあ―」

大きく頷いて同調するあたり、思い当たる節があるようだ。

「依存しやすいんですね」
「なるほど」
「だから、長谷川さんを頼りにしていると言いますか……」

ここまで言って、彼女は理解したようだった。さすがに内面が男らしいと言うか、さばさばしていると言うか、もうわかったから皆まで言うな、という表情だった。

「つまり、女性として見ているわけではないと、そういう事ですよね?」
「はい、そうです。あくまで頼りになる先輩、という感覚で、仕事が出来る長谷川さんをとても尊敬していると思われますよ」

仕事が出来る、このフレーズが彼女の自尊心をくすぐったようだ。さっきまでの真剣な表情から、少し柔らかい顔になった。

「そうなんだ。先輩として頼りにしてるってわけね。なるほど……」
「長谷川さんのような方には、もっと男らしい方が合うと思いますよ」

「そうね、リーダーシップのある人が好きだから、私」
「ですよね。だから、青野さんは、長谷川さんの恋愛対象じゃないのではないかなかと……」

上目遣いで彼女の反応を見たが、そんなに気分を害しているようでもなかった。「わかりました」と言って帰ったので、満足してはもらえたようだ。

過度な期待を持たせてもいけないが、少しは未来に希望を持たせてあげたい。占い師という仕事の難しさを改めて痛感した零美であった。

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