第86話「ママ友との付き合いに悩む女」

平日の午前中に来たその女性は、申し訳なさそうに立っていた。前日に予約をしているので堂々と入ってきて良いのだが、その態度に自己肯定感の低さが感じられる。実業団のバレーボール選手としてでも通用しそうな体格を、胸の大きなフリルがお洒落な白いブラウスと黒のスカートで包んでいた。

「稲盛美奈子さんですよね」と尋ねると「……はい」と小さな声で返事をしてお辞儀をした。身長が標準よりも高いのがコンプレックスなのか、猫背になるのが癖のようだ。

彼女をテーブル席に案内する。席に着いてからもどこか落ち着かない。「コーヒーはお好きですか」と尋ねると恥ずかしそうに「はい」と答えた。コーヒーが好きと聞いて気を良くした零美は、とっておきの豆を挽いた。

淹れたてのコーヒーにチョコレートを添えて彼女に出すと「ありがとうございます」と嬉しそうに笑った。少し緊張と警戒が解けたようだ。

「今日のご相談は?」という問いかけに「自分の性格について、少し……」と答えた。紙とペンを渡して名前と生年月日を書いてもらい、それを基に命式を出す。そしてプリントアウトしたものをテーブルに置いた。

「稲盛さんは、頭の中でいろいろな事を考える人ですね」
「はい」
「どちらかと言うと、マイナス思考と言いますか……」
「はい」
「人間関係が得意ではありませんね」
「はい」
「やはり悩みは、人間関係についてでしょうか?」

命式と、ここまでの彼女の所作を見た感じで、一番大変そうな問題の核心を突いた。ピンポイントで言い当てられた彼女は、少し安堵したのか、重い口を少しずつ開いた。

「今年から子どもが、幼稚園に通っているんです」
「はい」
「子どもは毎日元気に通っているので、問題はないんですけど……」
「それは良かったです」

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「でも、私は人見知りなので、なかなかママ達の輪に入っていけないんです」
「私も人見知りなので、その気持ちはよくわかります」
「だけど子どもの事を思ったら、ママ達との関係を悪くしたくないんですよ。子どもがいじめに遭うようになると困りますから」
「なるほど」
「でも、昔から人付き合いが苦手で、人とうまく接する事が出来ないんです」

親にとって、自分の事よりも子どもの事が大事なのだ。どんなに自分が嫌な事でも、子どものためなら我慢出来る。しかし人間である以上、得意不得意があり、出来る事と出来ない事がある。

人間関係を築くのが上手な人は、彼女のように相談に来る事はない。そういう人は大概、社会性にあたる星が強い。個よりも全体を優先すべきと考える人である。日本人はほとんどの人が帰属意識が強い。どこかの集団に属する事によって安心を得る。

一方で、その和を乱そうとする人に対しては許せないという意識が強い。村社会は厳然たる上下関係が構築され、その中でのルールが存在する。それを破ろうとする者には制裁が与えられる。所謂いわゆる「村八分」である。

村八分は、そこに所属するものが結束して交際を断つ事であり、集団行動主義の日本においては代表的ないじめだ。誰でも孤立を防ぐために、嫌々ながらもその集団でのルールに従っている。ママ友グループ内にも上下関係があり、ルールが存在するのだ。

彼女の場合は、社会性の星が不足しているため、普通の人が簡単に出来る事が、彼女にとっては何倍もの努力が必要になる。これは、人間関係が簡単な人にとっては理解しがたい事なのだが、人間の個体が千差万別である以上、そういう人が一定数存在するのは当然な事だ。

「稲盛さんは感受性が強すぎて、神経が敏感すぎる人なんです」
「はい」
「誰よりも敏感に喜怒哀楽を感じているんですよね」
「はい」
「また、共感能力が高くて、その人の気持ちがす―っと入ってきちゃう」
「はい」
「人の善意や悪意を、自分の中に取り込んでしまいます」
「はい」
「だから、人が多いところが苦手なんですよね、集団が」
「……」
「みんないろいろな感情を持っていて、それが針のように突き刺さってくるんですよね」
「……」
「だから辛いんです。だから苦しいんです」
「……」

下を向いていた彼女は、体を震わせていた。そして、急いでバッグの中からハンカチを取り出すと、濡れた瞳に当てて嗚咽を始めた。

こんなにも、自分の気持ちをわかってもらった事が今までなかった。初めて自分の気持ちを代弁してもらって、心の中が激しく動いていた。零美の言葉はそんなに多くはないのだが、彼女は敏感にその心を感じ取っていた。魂と魂で会話していたのだ。

「人間には相性があって、合う人と合わない人が必ずいます。苦手な人とは、最低限度の付き合いで良いのではないでしょうか。気の合う人も必ずいるでしょうから」
「はい」
「きっと、お子さん同士が仲良くなれば、自然と親同士も仲良くなれますよ」
「はい」
「まずは、自分の味方になってくれる人を探しましょう。そういう人が必ずいますから」
「はい」
「少なくても、私は稲盛さんの味方ですよ。寂しい時はいつでも来てください」
「ありがとうございます」

彼女の顔が少し明るくなった。少し解放されたのか、帰る頃には笑顔が多くなっていた。零美自身友だちは少ないが、彼女となら良い友だちになれる気がした。

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