第87話「姑が原因で離婚したい女」

「電話で予約した伊東愛菜です」
「お待ちしていました。どうぞ」

日曜の午後、その女性は濃紺のワンピースを着て現れた。見るからに、どんよりとした負のオーラを纏っているように感じられた。生気が感じられない、とても疲れた顔をしていた。全身からは、緊急事態のSOSを発しているようだった。

テーブル席に案内して、「ホットココアを飲みませんか?」と尋ねてみた。「ありがとうございます。いただきます」と返事が返ってきた。心が冷え切っているように感じたので、コーヒーよりもココアが最適だろうと思ったからだ。

零美は、相手の負の感情を敏感に察知して、吸収してしまう体質である。吸い取ってもらう方は楽になるのだが、受け持ってしまう方は堪ったものではない。その人が帰った後に、ぐったりと倒れてしまうのが常である。

それはまるで、人間掃除機か人間空気清浄機とでも言うべきだろうか。そんな体質のため、人と関わり合うのが本当は嫌なのだ。それでも零美は、和彦の母に助けてもらいながら乗り越えている。それが自分に与えられた使命だと思っているからだ。

相手に合わせて、自分もホットココアを飲む事にした。とっておきのお菓子を加えてテーブルに持ってきた。コクのあるチョコレートをパイで包み込んだお菓子は、彼女の心をときめかせたようだった。「私、これ大好きなんです」と目を輝かせ、さっきまでの負のオーラが少し減少したように思えた。

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「伊東さんのお悩みは何ですか?」
「実は、夫と離婚しようかと考えているんです」
「何か原因があるんですか?」
「原因は姑です。結婚して二年半前から同居を始めたんですが、もう耐えられないんです」
そう言って、両手で作った握り拳を震わせていた。

「かなりきついお姑さんなんですか?」
「はい。もう心がズタズタです」
「そうですか。では、あなたとご主人様、それとお姑さんの生年月日を書いてもらえませんか」
「はい」

彼女が書いたものを基に三人の命式を出して紙にプリントアウトし、テーブルの上に並べた。そして「なるほどですね……」と呟きながら、彼女の言葉に納得していた。

「どうですか?」
「はい。大変だと思います」
「でしょ」
「このお姑さんはかなり強い人です。自分が絶対正しいと思っているし、自分に逆らう人には容赦しません。逆に、自分を慕ってくる人にはすごく良くしてあげたいんですけどね」
「この人と一緒にいるのって大変ですよね?」
「よく二年半も我慢できたものです。私だったら絶対無理です。これじゃあ、別れても仕方ないですよ」

彼女は何度も頭を上下に振った。ようやく理解してくれる人に出会えた、そんな安堵の表情を見せた。

「先生、ありがとうございます。やっぱり今日、ここに来て良かった」
「えっ?」
「今までいろんな所で占ってもらったんですよ。でも皆、別れないでもうちょっと頑張ってみたらって言うんです。先生だけです、別れてもいいって言ったのは」

身を乗り出して話す彼女の様子から、余程の興奮状態である事が理解出来た。おそらく占い師だけでなく、いろんな人に相談したのであろう。その誰もが、彼女が納得のいく答えをくれなかったのだ。

彼女はもう、夫と別れるという選択肢しか持っていない。彼女もまた、姑と同じように強い女性である。能力もあってプライドも高い。自分が正しいと思っている。別れたいと思っているのに、別れない方が良いと言われても納得出来るはずがない。

頭の良い彼女は、離婚する事は自分が築いてきたキャリアを傷つけるので良い選択ではないと、他人に言われなくても良くわかっている。それで二年半も我慢してきたのだ。零美は正直に思った事を言っただけだ。「よく我慢できましたね」と。

ただでさえ敏感な彼女は、ちょっとした事で傷つきやすい。その彼女が、身を削ってまで耐えてきた事を称賛してあげたい。そして解放してあげたい。彼女の心の痛みが針となって、零美の心に届いてくるのだった。

「ご主人は、お義母さんに溺愛されていらっしゃる?」
「はい。私の気持ちなんか理解しないで、仲良くやってくれって言うばかりです」
「なるほど。確かにご主人は、あなたの苦しみを理解できるような人ではありませんね。残念ながら、精神的にはまだ子どもって感じです」
「ですよね」

そう言って彼女は、大きなため息をついた。年齢で言えば七歳も年上なのに、頼りにならない夫であれば別れたくもなるだろう。

「お子さんはいらっしゃるんですか?」
「いえ、いません」
「伊東さんは、お仕事されていらっしゃるんですか?」
「はい。看護師をしています」
「そうですか。じゃあ、経済的には離婚しても問題ないですね」
「はい」
「お子さんもいらっしゃらないし、まだ二十七歳ですから、離婚されて新しい出発をされたら良いと思いますよ」
「そうですよね。私もそう思います」

彼女は自分の覚悟を決めたようだ。迷いが消えた顔は、未来への希望を見出していた。負のオーラが消えたせいか、零美が感じていた重だるさが消えた。彼女を笑顔で見送りながら「後で倒れなくて済んで良かった」と喜んでいた。

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