第92話「母が同級生と結婚した男」

平日の夕方、深刻な顔をしてやってきたのは若い男性だった。「初めてなんですけども……」と何とも頼りなさそうに入り口に立っていた。「鑑定のご依頼ですか?」と零美が尋ねると「はい」と答えて頭を下げた。

髪をショートにした中肉中背で、年齢は二十代半ばだろうか。整った顔立ちで、恋の悩みなど無縁のようなのだが、見るからに深刻そうな問題を抱えているようだった。とりあえず席に着かせ、コーヒーを用意する。

仕事の帰りだろうか、薄いクリーム色の作業着を着ている。そんなには汚れていないようだが、気を遣ってソファーに浅く腰掛けている。彫りの深い顔は、両親のどちらかに西洋人の血が入っているのではと連想させた。

両肘をテーブルについて下を向き、黙ったままじっとしている。「どうぞ」とコーヒーを勧めると、「どうも」と呟くような小さな声を発してお辞儀をした。零美は自分のコーヒーを一口飲んだ後、「どうされましたか?」と話しかけた。

「実は、母の事が気になるんです」
「お母さんですか」
「はい。母は、最初の結婚で僕を産んでから、今まで4回結婚しているんですけど、今の夫は僕の高校の同級生なんです」
「えっ?」
「驚かれるのは当然だと思います。僕も最初はびっくりしました」
「じゃあ、同級生が義理のお父さんに?」
「はい」
「かなりの年齢差がありますよね?」
「まあ……」

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それまで顔を上げて話していた彼が、沈んだように下を向いてしまった。別に彼を責めているわけではないのだが、実の母親の所業を恥じているのだろう。いくら自由恋愛とは言え、息子の気持ちは考えなかったのかと、彼に対する同情を禁じ得ない。

「お母さんに対する腹立たしさがあると言う事ですかね?」
「まあ、それはもう諦めているので、今更どうこうはないんですけど、最近の様子がおかしいので……」
「おかしいと言うと?」
「また別の男と付き合いだしたんです」
「ええっ?」

思わず大きな声で驚いてしまった。これはもう、何と表現したら良いのかわからなかった。全くの他人でさえこんなにも憤るのに、実の息子である彼はどんな思いなのだろう。

「さすがに誰が聞いても呆れてしまいますよね」
「確かに」
「でも、僕が気になるのはそこじゃないんです」
「まだあるんですか?」

さすがにもう、お腹いっぱいだった。これ以上、彼の話を消化する自信がない。内心ではそう思っても、自分を頼ってきてくれた事に対して責任を持たなければという思いがあり、最後まで話を聞こうと腹をくくった。

「新しい男が出来て以来、同級生に対するDVがひどいんです」
「お母さんがDVですか?」
「はい。この前、街のホームセンターで同級生に偶然会ったんですけど、顔が腫れていました」
「お母さんに殴られて?」
「はい」
「警察へは行かれたんですか?」
「僕も警察に行こうって言ったんですけど、警察沙汰にはしたくないって言って……」
「そうですか」

そして彼は、カバンの中から写真を取り出して、「これが母と同級生です」と言って零美に渡した。そこに写っていたのは、二十歳くらいの若い男性と、四十歳前後の女性だった。

「かなり気の強そうなお顔をされてますね、お母さんは」
「はい。男になんか負けるかって感じで、口は悪いし最悪です。彼はよくうちに遊びに来ていたので、いつの間にか母親に手懐けられたのでしょう」
「お母さんは、男心の隙を突くのが上手いのでしょうね」

彼は突然「先生!」と身を乗り出した。一瞬驚いたが、平静を装って「はい」と答えた。

「母は何か悪い事をしそうですか?」
「悪い事ですか?」
「はい。保険金殺人とか……」
「保険金……ですか?」
「はい。この前会った時に、生命保険に入らされたって聞いたんで、もしかしたらお金目当てに殺そうと思っているんじゃないかと思って」
「ええっ?」

彼の目は真剣だった。決して冗談で言っているようには思えない。そして再び写真を見てみると、たんなる彼の思い過ごしとは言えない波動を感じるのだ。

しかし、だからと言って、まだ何もしていない人を犯人扱いする事は出来ない。怪しいからと危険人物のように言ってしまうのは、人権侵害だと言われてもおかしくない。

事件が起こってからでは遅いのであるが、警察とてどうする事も出来ないだろう。ただの占い師の立場である零美は、当たり障りのない事を言う他はないと考えた。

「そこまで考えているかどうかは、この写真だけでは判断できませんねえ」
「……そうですか」

彼は、期待していた答えが返ってこなかったのでがっかりしたようだった。そして一応の納得をして、鑑定料を払って帰っていった。

店内に残った零美は、天井を見つめながらしばらく考えを巡らせていた。何と言えば正解だったのか。相談者の帰り際の表情を見るたびに、もっと別の言い方はなかったのかと反省するのだった。

そしてこの日から数か月後、あの写真の女性を再び見る事になった。それは夕方のニュースだった。

被害者は二十六歳の男性。自宅で亡くなっているのを、同級生で男性の妻の息子が発見した。死因は、紐状のようなもので頸部圧迫による窒息死。逮捕されたのは、被害者の妻と、彼女と交際中の男だった。彼の予感は的中したのだ。

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