第93話「先輩にいじめられる男」

「こんばんは」と張りのある声で挨拶したのは、髪を整髪料で固め、灰色の上下の背広に紫色のネクタイを締めた青年だった。
「看板を拝見して寄らせて頂きました。お時間少しよろしいでしょうか?」

何かの営業かと訝しがる零美の表情を見て「営業ではありませんよ。鑑定希望です」と言って笑った。鋭い眼力を弱め、白い歯を見せて微笑む彼の意図を理解した零美は「どうぞ中へお入りください」と誘導した。

「失礼します」と深々と頭を下げた後、長い足で前に進んだ。席に着く前に手渡された名刺を見ると、電話や事務用機械の会社の営業社員となっていた。営業目的だろうと見抜いてはいたが、鑑定希望という言葉に付き合う事にした。

「ではこちらに、お客様のお名前と生年月日、もしわかれば生まれた時刻と出生地を書いていただけますか?」
「はい」
「ご相談内容はどのような事でしょうか?」
「はい、会社の先輩の事なんですけども……」
「では、その方の生年月日はわかりますか?」
「はい」
「では、その先輩の名前と生年月日もお願いします」

「わかりました」と笑顔で答え、ペンを持って書きだした。その間にカウンターでコーヒーを準備した。

「書きました」と差し出された紙を受け取り、パソコンで二人の命式を出した。それをプリントアウトしてテーブルに置いた。

「どうぞ」とコーヒーを出すと「いただきます」と言って口をつけた。営業マンが外回りの空き時間に、喫茶店でコーヒーを飲んでいるかのような光景だった。

彼の名前は外山雄大で、年齢は二十五歳。先輩は、名前が五十嵐光也で年齢は二十九歳。二人の命式を比べて、大体の関係性が想像出来た。

「お二人の相性が気になる、という事でしょうか?」
「はい。どうも先輩は僕の事が気に入らないみたいなんです」
「何か意地悪されたり?」
「同じ部署なんですけど、他の同僚に比べて僕にだけ対応が冷たいんですよ。面倒な事は必ず僕に押しつけるし、ちょっとミスすると鬼の首を取ったように騒ぎ立てるしで。いちいち刺のある言い方をするんですよね」

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そう言って、コーヒーを口に運んでぐいっと飲んだ。見るからに完璧そうな好青年の彼が、唯一コントロール出来ないのがこの先輩なのだろう。そんな苛立ちが感じられた。

「この先輩はあなたに嫉妬しています」
「嫉妬ですか?」
「はい」
「僕に?」
「そうです」
「それは何でですかね? 営業成績だってそんなに変わらないですけどね。結婚して子どももいるし、幸せそうですけど」

彼は、納得がいかないといった表情をしていた。

「外山さんは、自分は運が良い方だと思いますか?」
「運ですか?」
「そうです」
「そうですねえ。そう聞かれれば、運が良い方だとは思いますかねえ」
「でしょ」
「えっ?」
「外山さんは実際、運が良い人なんです」
「そうなんですか」
「はい。楽観的思考の持ち主で、人生何とかなるさと思っていますよね?」
「まあ、ははは」
「それは根拠のない自信、ですよね」
「そう言われれば、その自信はどっから来るのってよく言われます」
「そこです!」

そう言って零美は、右手の人差し指を立てるポーズをした。大事な所を強調したい時によくする仕草だった。

「外山さんは人より恵まれた人なんです」
「そうなんですか?」
「はい。まず、自分が運が良いと思える人って、そんなにいないんですよ」
「へー? それは知りませんでした」
「実家も経済的には恵まれていらっしゃるのではないですか?」
「そう言われれば、そんなに貧乏じゃないですね」
「外山さんに悪気はないんですけどね、苦労しないで生きてきたっていう波動を発しているんです」
「そうなんですか?」
「それが先輩にとっては許せないんですよ」
「えー? でも、先輩には何の関係もない気がしますけど」

これまでの受け答えから、普段から彼は、あまり深く考えないで話したり行動したりするであろう事が想像出来た。これじゃあ、先輩が嫉妬しても不思議じゃないなあと零美は思った。

「先輩は、あなたと逆で悲観的思考の持ち主なんですよ」
「へー、そうなんですか」
「先輩は、あまり笑わない人じゃないですか?」
「そう言われれば、あまり笑っている所は見た事がないです。いつもイライラしているイメージが強いです」
「でしょうね。あなたは太陽のようにカラッと明るいですが、先輩は水のように冷たい雰囲気なんです。火と水だから正反対になりますね」
「なるほど。それでわかりました。先輩と合わない理由が」

火と水と言う比喩に納得出来たようで、彼の表情が急に明るくなった。

「この先輩はマイナス思考で、何でも他人のせいにしがちです。だから、外山さんだけを特別に嫌っているわけじゃなくて、他にも嫉妬している人はたくさんいると思います。ちょっと可哀想な人だなあと思えば良いのではないでしょうか」

零美の言葉に「そうですよね」と同調して笑った。彼は先輩との仲を改善しようとは思っていない。ただ、先輩の意地悪の理由が知りたかっただけなのだ。納得のいく答えをもらい、彼は満足して帰っていった。帰り際に、自社商品の売り込みも忘れなかった。

彼のこれからの人生については心配しないのだが、彼の先輩のこれからが気になって仕方がない零美だった。

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