第96話「アイドルと結婚したい男」

「占いしてもらっていいですか?」
その男性は、体は横に大きく丸い顔に黒縁メガネ、赤い野球帽から見える長い髪、中に荷物が詰まったリュックサックを背負って現れた。何の予約もないのだが、有無も言わせない圧力を感じた零美は、恐る恐る「どうぞ」と中に招き入れた。

平日の昼間にやってきた男性。一眼レフカメラを肩にかけている。その容姿から、一目でアイドルの熱狂的ファンだと理解できたが、こんなに間近で見るのは初めてだった。いろいろなタイプの人がやってくるこの店だが、初対面でのインパクトの破壊力は、今までの中で随一と思われる。

既に汗ばんでいる事から「アイスコーヒーでもいかがですか?」と尋ねると、「いただきます」と即答した。これでホットなど出してしまったらどうなるのだろう。そんないたずら心は奥にしまい、手早くアイスコーヒーをつくって出した。彼はそれを美味しそうに、喉を鳴らしながら飲んだ。

「ところで、今日のご相談はどのようなものでしょうか?」と聞かれると、彼は持ってきたリュックサックを漁り、手帳を出してきた。

「生年月日で占いをするんですよね?」
「はい」
「では、僕を含めて三人を観てもらえませんか?」
「よろしいですよ。ではこの紙に名前と生年月日をそれぞれ書いてください」
「わかりました」

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彼が書いた内容から、三人の命式を出した。女性一人に男性二人だった。女性の名前は福島沙織、年齢は二十三歳。男性の名前は、彼が水野卓夫で二十九歳、もう一人は柏木圭太で二十五歳だった。

「えーっと、こちらの福島さんはどのような方ですか?」
「彼女はアイドルですけど、知りませんか?」

テレビでよく見るアイドルならわかったかも知れないが、名前を聞いても全くわからなかった。知っていて当然と言う、何とも棘のある言い方に苛立ちを覚えたが、大ファンであろう彼にとっては「推しの彼女」の知名度は一大事なのだから仕方がない。

「では、こちらの柏木さんは?」
「この男は……彼女と付き合っていると噂になっている俳優です……」
「ああ……」

なるほど、彼にとっては恋敵なのか。それはさぞかし気が気ではない事だろう。この二人の相性が気になって仕方がない、といった所なのだ。アイドルが誰と交際しようが、普通の人なら気にならないのだが、熱烈なファンにとっては一大事だ。

今のアイドルは、「いつでも会える」「手が届きそう」というフレーズが飛び交い、もしかしたら自分でも付き合えるのではないか、という期待感がある。それほどアイドルが溢れているわけだが、それだけに、アイドルの価値が下がってしまったようだ。

何はともあれ、彼は本気で彼女と付き合いたいのだろう。彼女にしてみれば、彼の存在など、記憶の片隅にもないかも知れないのに。そう考えると、可笑しくてつい笑ってしまいそうになるのだが、それは失礼だから我慢しよう、と零美は思った。

「と言う事は、気になるのは、彼女と彼の相性って事ですかね?」
「まあ、そうです。僕は、柏木なんかより僕の方が彼女に相応しいと思っているんです。だから、僕と彼女の相性も観てほしいんです」

彼の目は自信に溢れていた。噂の彼よりも自分の方が彼女に相応しい男なのだと、純粋に信じているのだ。その思い込みの強さは、彼の命式に表れていた。思い込みが強いというのは、それが良く働く時もあるが、行き過ぎるとストーカーになる恐れがあるので注意が必要だ。

とりあえず、彼の気を悪くしないような表現をしなければならない。自分の鑑定の仕方で、もし何か事件が起こってしまうのではないか、それだけは絶対に防がなくてはならない、零美はそんな危惧を抱いていた。それ故に、彼に伝える言葉が見つからない。しばらく黙って、三人の命式をじっと見つめた。

「彼女は、外見は女性らしいのですが、内面は限りなく男性的です」
「はい」

「女性の幸せと言えば、男性を支えて良妻賢母と言われる形が理想だと思います。例えば、女社長と言う言葉と社長夫人と言う言葉では、どちらの響きが良いと思いますか?」
「そうですね、女社長と言うと、何か男勝りって感じで近寄りがたいです。逆に社長夫人だったら、女性の憧れって気がしますね」

「ですよね。水野さんは、ヒラリー・クリントンの言葉をご存知ですか?」
「ヒラリーって、元アメリカ大統領だったクリントンの奥さんですよね」

「はい。クリントン夫妻がドライブで立ち寄ったガソリンスタンドのオーナーが、ヒラリーさんの昔のボーイフレンドでした。するとクリントン元大統領が、僕と結婚しないで彼と結婚していたら、今頃は田舎のガソリンスタンドのおカミさんだったねと言いました。それに対してヒラリーさんは、もし私が彼と結婚していたら、彼が大統領になっていたわと言ったんです」
「へー、すごい自信ですね」

「でもどうですか、そんな奥さんだったら」
「いやあ、僕は苦手です。男を見下してますよね」

彼は右手を顔の前で左右に振り、拒否の意思を示した。

「実は、福島さんも、ヒラリーさんに似ているんですよ」
「ええっ?」
「家庭よりも仕事での成功を選ぶ。男性を立てるというより、自分が目立ちたい、そういう人なんです」
「……」

言葉を失ってしまい、目が宙を泳いでいる。かなり動揺しているのが見てとれた。彼女に対する幻想が崩れていったようで、少し可哀想な気もした。ちょっと彼女を悪く言い過ぎたかも知れないが、そういう要素は多分に持っていた。

現実的になる可能性の低いアイドルとの淡い恋愛よりも、可能性の高い恋愛を目指してほしい、少し元気をなくして帰る彼の後姿を見送りながら、零美はそう思っていた。

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