第97話「玉の輿婚を狙う女」

「こんにちは」
平日の昼間にやってきたその女性は、上下黒のワンピースドレスを着て、太いロッドで巻いたダウンヘアが大人の色香を漂わせていた。大きな瞳が特徴的で、異国の血が混じっているのか、エキゾチックな顔立ちの美女だった。

「ご予約の澤田真奈美様ですね。お待ちしておりました」
「お邪魔いたします」

礼儀正しくお辞儀をした後、黒いハイヒールで高い音を立てながら歩く。上背はゆうに百七十を超えるだろうか。上から糸で吊られた操り人形のように、背筋を伸ばして歩くその様は、レッドカーペットを進むハリウッド女優のようにも見えた。

「こちらへどうぞ」
「失礼します」

長い足を器用に折り畳んで、白テーブルの下へと滑り込ませ、肩に掛けたブランド物のバッグを脇に置き、少し口角を上げて魅惑的な笑みを浮かべた。自分の美しさを自覚し、どうすればそれが武器になるかを熟知しているように零美には感じられた。

「お飲み物はいかがでしょう? コーヒーや紅茶など……」
「では、紅茶をいただきましょうか」
「かしこまりました」

彼女の雰囲気に合わせて、エレガントな装飾のティーカップを選んだ。その人に相応しいカップを準備する事も、おもてなしの重要な要素だと零美は考えている。せっかくこの店を訪れてくれたのだから、少しでも良い気持ちになって帰ってもらいたいのだ。

紅茶と共にチョコレートを添えて彼女に出すと、「嬉しい、私チョコレートが大好きなんです」と言って、少女のような笑顔になった。見た目は落ち着いた淑女だが、実年齢はまだ若いのだろうか。それとも、精神年齢が若いのかも知れない。

「澤田さんの気になる事はなんでしょうか?」
「実は私、気になる男性が二人いらっしゃるのですが、どちらを選べば良いのか迷っておりまして、先生のご意見を聞きに参りました」
「わかりました。では、こちらの紙に、あなたと気になるお二人のお名前、そして生年月日をそれぞれ書いていただけますか?」
「わかりました」

そう言って、高そうなブランド物のバッグから、黒い手帳を取り出した。小さな手帳なのだが、細かい字でびっしりと書かれている。几帳面で計画的な性格が見て取れる。

その中から、二人の名前と生年月日を見つけ、紙に書いた。その内容から、三人の命式を割り出し、プリントアウトしたものをテーブルに並べて置いた。

「このお二人は、どのようなご関係なんですか?」
「店の常連さんですよ」
「お店と言いますと?」
「銀座のクラブです」
「そうしますと、澤田さんはホステスさんですか?」
「はい」

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銀座のクラブでホステス、そう言われていろいろと合点がいった。若いのに、言葉遣いや立ち居振る舞いなどが洗練されているのは、仕事で普段から、社会的立場の高い人たちと接しているからなのだ。

そういうお客たちと会話をするために、普段から新聞やニュースなどで時事ネタを収集するなど、銀座のホステスたちは努力している話を聞いた事がある。

「こちらの中森さんは、とある企業の社長さん。こちらの川中さんは、とある総合病院の跡取りで内科医です」
「そうなんですね」
「どちらと結婚したら良いのでしょう?」
「そうですねえ……」

零美は、男性二人の命式をじっと見つめた。最初に受けるインスピレーションが大事なのだ。

「中森さんは体育会系で、人間関係が上手です。川中さんは、知的で頭は良いですが、人間関係は苦手な気がします」
「なるほど。確かに、中森さんは積極的ですし、川中さんは物静かな方です」
「澤田さんとしては、特に相手に望むものは何でしょうか?」
「経済力が第一ですね」
「目指すは玉の輿婚、ですか?」
「はい」

彼女は小首を傾げて笑った。その目的のために、日々努力しているのだ。持ち前の美貌を磨き、いつの日か、社長夫人か院長夫人になる事を目指しているのである。

「澤田さんは、束縛が嫌いですよね?」
「はい。出来るだけ自由に生きたいです」
「相手に対しても束縛はしたくない? たとえば浮気なんかも」
「そうですね。家庭さえ壊さなければ、どれだけ遊んでもらっても構いません」
「その分、自分も遊びたい?」
「まあ、そんな所です」

彼女はそう言って、意味深な笑みを浮かべた。

「中森さんは、相手をコントロールしたいと思っています。そう考えると、澤田さんとしては息苦しくなるでしょうね」
「なるほど」
「川中さんは実は、束縛されたくない、自由に生きたい人なんですよ」
「そうなんですか?」
「はい。ですから、一緒に居ても楽なのは川中さんでしょうね」
「確かに、見た目からも、中森さんは暑苦しさを感じますが、川中さんは高原のような涼しさを感じますもんね」

高原のような涼しさ、なかなか詩的な表現である。彼女の命式からも、文学的素質が認められる。そう考えると、商売人の妻よりも、医師の妻の方が合っているようにも思えた。

「総合的に考えますと、川中さんがお勧めではないかなと思います」
「私も、先生のおっしゃる通り、川中さんが良いように思います」

方向性が決まった事で、彼女の微笑みに余裕が感じられた。何度もお礼を言って帰っていった彼女は、川中さんにターゲットを絞っていく事だろう。院長夫人という言葉の響きもなかなか良いではないかと、零美は静かにほくそ笑んでいた。

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