第99話「母親に似るのが怖い女」

土曜の午後に現れたその女性は、ショートボブで茶色の髪に、上下のまつ毛カールで瞳の大きさを強調させ、元々持っている可愛らしさを際立たせていた。上背は平均よりも高いくらいで、短いスカートから覗いている細い足が印象的だ。

「こんにちは」と明るく高い声で挨拶をした後、奥から出てきた零美に向かって、満面の笑みを投げかけていた。

誰からも好印象を持たれるに違いない外見と、無意識に滲み出る天真爛漫さのせいか、悩みを打ち明けるはずのこの店に、とても縁があるようには思えなかった。しかし、表面では笑っていても、心の中では泣いている場合もある。最初から決めつけてしまうのはいけないのだ。

「お客様は、鑑定希望の方ですか?」
「すいません、予約もなしに。今から出来ますか?」
「大丈夫ですよ、こちらへどうぞ」

頭をかきながら肩を丸めて、申し訳なさそうに席に着いた。「コーヒーでもどうですか?」と尋ねられ「あっ、すいません。いただきます」と嬉しそうに声を弾ませた。表情が豊かで、裏表のない性格のようである。

相談者が表情豊かだと、占い師としては楽だ。相手が笑った時に笑い、泣いたときに泣けば良い。共感は、信頼される一番の方法なのだ。一方で、彼女のようなタイプは、人を疑う事を知らない。言葉を額面通りに受け取ってしまうため、占い師の言葉に左右される人も多い。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

コーヒーを差し出すと、軽くお辞儀をして笑った。自然な笑顔を投げかけられると、心がとても温かくなってくる。ある意味、笑顔はどんな武器よりも強力な気がする。零美は、彼女の悩みが一体何なのか、一層気になって仕方がなかった。

「お名前を聞いてもよろしいですか?」
「あっ、ごめんなさい。まだ言ってませんよね。私の名前は田上真琴です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。田上さんのご相談は、どのようなものでしょうか?」
「実はですね、この前、母親の結婚前の写真を見せてもらったんですけど、今と違って随分痩せているんです。今の私くらいに」
「と言う事は、今はそうではないと?」
「はい。ちょっと待ってください」

彼女はそう言って、スマートフォンに収められている画像の中から、一つを選んで「これが現在の写真です」と零美に見せた。

「えっ? これは確かに……」

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言葉の選択に迷うほど、想像以上の体型だった。隣りに写る同年代の友人らしき女性と比べると、二倍くらいの横幅があった。

「昔の写真はないんですか?」
「残念ながら、今はないです」
「そうですか……」

体重の増加と共に、顔面も膨脹したのかも知れないが、一つ一つのパーツは整っているので、若い頃は、彼女のような可愛らしい女性だったのだろうと推測出来る。

「私も、結婚して子どもを産んだら、母みたいになるのでしょうか?」
「……」

これは難しい質問である。一般的に、母親が太っている人は、母親と同じようになる確率は高いように思える。しかし、同じ母親から生まれた姉妹でも、長女と三女は太り、次女は太ってはいないというケースもある。

そう考えると、父親の影響が強いとも考えられる。長女と三女は父方の血筋の影響を受け、次女は母方の影響を受けやすいとも言われている。しかしまた、これに全く当てはまらない場合もあるため、一概にこうだとは言えないのだ。

「田上さんは長女ですか?」
「はい、長女です」
「お父さんは太っていらっしゃるんですか?」
「父は早くに亡くなってよくわかりませんが、そんなに太っていたイメージはないですね」
「そうですか」

モデルや女優など、出産後にも節制して体型を維持している人も多い。つまり、本人の意識次第で、体型を維持する事は不可能ではないのだ。命式で考えると、体に水分を溜めこみやすい体質かどうかは判断出来る。かと言って、やはり本人の努力次第で、太らない体に改善出来ると思われる。

本人が将来、努力するかしないかまで推測する事は難しい。例え生来が怠け者の性質だったとしても、自分の欠点を自覚して気をつけて生きれば、性格は変えられるはずだと信じている。

今までの言動から考えると、彼女はある程度、甘えられる環境で育ってきた事が伺える。厳しく否定されると言うより、両親からの愛情をふんだんに受けてきたにちがいない。初対面の人にも臆せず笑顔でいられる事や、感情を素直に表に出せるのは、親の大きな庇護の下で、安心して過ごしてきたからだろう。

そして彼女は、素直故に、言葉通りに受け取ってしまう危険性がある。人を信じやすいので、その言葉に左右されやすいのだ。洗脳されやすいと言って良いだろう。だからこそ、「母親と同じように太る」などと言いたくはないのだ。零美は、あれこれ思案しながら言葉を模索した結果、意を決して伝える事にした。

「田上さんは長女ですから、どちらかと言うと、お父さんの方の影響を受けると思いますので、お母さんに似ると言う事はないと思いますよ」
「そうですか、良かったー!」

それまでの不安そうな彼女の顔が、雲が晴れたように明るくなった。この瞬間から、彼女の未来は開けていく。理想の体型を維持した自分の姿をイメージしながら生きていくのだ。

それが正しいかどうかが問題なのではない。未来の自分を創り出すのは本人なのである。いかに正しくレッテルを貼ってあげるかが問題なのだ。

満足した彼女は軽やかに立ち上がり、料金を支払って帰っていった。未来を想像しながら、モデルのように歩くその後ろ姿を零美は見ながら、自分の判断は間違っていなかったと誇らしくなった。

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