第49話「産みの親に会いたい青年」

零美の店には、いろいろな事情を抱えた人がやってくる。人生の岐路を迎えた時に、どちらを選択する事がよりベストなのかアドバイスを受けたいのだ。今日やってきた彼もまた、人生の岐路に立たされていた。

「こんばんは」と声がして、零美が奥から駆けつけると、身長が百八十は優に越える青年が入ってきた。

「いらっしゃい。杉山博史くんね。お待ちしていました」と言って彼を席に着かせると、「杉山くんは誰に紹介されたって言ってたっけ? えーっと……」と尋ねた。
「あっ、戸山です。戸山太陽って大学生が、以前にこちらに来たと思うんですけど……」

若い男性が来るのは滅多にないので、戸山太陽の事はよく覚えていた。

「はいはい、彼も背が大きかったわね。バレー部だったっけ?」
「はい。大学は別ですが、高校時代に同じバレー部だったんです」
「大きいわね。身長はどのくらい?」
「百八十九です」
「へー、すごい!」

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立っても見上げるほどだが、座っても大きい。縦に長く横はあまり広がっていないので、そんなに威圧感はないが、エラが張った顔には緊張感が滲み出ていた。

「杉山くんは、どんな悩みがあるのかしら?」

「実は……」と言って、少し間が空いた後に話を始めた。

「僕は養子で、今の両親は育ての親なんです。産みの親の事情で乳児院に預けられました……」
「そうだったの……」

婿養子など、結婚を機に養子になった人の話は聞いた事があったが、親の事情で乳児院に預けられ、特別養子縁組で養父母に引き取られた人の話を聞くのは初めてだった。養子になった経験のない零美には、養子となった彼の気持ちをどれだけ理解してあげられるか自信がなかった。

「今まで、いろいろ大変な事もあったんじゃない?」
「はい。一番大変だったのは、自分が養子だと聞かされた時でした」
「それは何歳の時だったの?」
「六歳の頃でした。母から突然、産んでくれたお母さんが別にいる事を聞かされて……。養子の意味はよく理解できず、母親が違うという事だけ理解できました。育ての母が泣いている姿を見て、自分も悲しくなって泣いてしまいました」
「まだ小さいものね。理解できなくて当たり前だわ」
「はい。養子の場合、自分が養子だと言う事を伝える真実の告知のタイミングが大変なんだそうです。成長して自分で戸籍を見ればわかる事ですから。自分で知るよりも小さい頃に教えられた方が受け容いれられやすいと……」
「そう……。養子って言われてショックだったんじゃない!?」
「はい、ショックでした。それまで親だと思っていた人たちが、その時から親として見れなくなるって言うか……。しばらくは親から距離をとって、あまり話もしないで自分の部屋に閉じこもっていました」
「そうだったの……。今まで辛い事も多かったでしょうね」
「小学校四年生になると、十歳で二十歳の半分だから、二分の一成人式って言うのがあるんですよね。それで、生まれた時から十歳までの写真を紙に貼らないといけないんです。一、二歳の写真は乳児院で入手できたんですが、零歳の写真が無かったんです。どうしようかと悩んで、それで思いついたのが、ネットにアップされている赤ちゃんの写真を加工して、ちょっとピンボケさせて使いました。道徳の教科書に、血のつながっているものを家族と言う定義があって、うちは血がつながっていないから家族じゃないって思うようになりました」

二分の一成人式に対しては、やるべき・やめるべきと議論が分かれている。子どもが親に対して、今まで育ててくれてありがとうと伝える場であるが、離婚や死別で片親だったり、仕事で出席できない親もいる。また、虐待を受けているなど、ありがとうと言えない子どもにとっては、ただ苦痛でしかない行事なのだ。

「思春期は大変だったでしょう!?」
「はい。結構荒れていました。でも、親がそっと見守ってくれていたので、何とか乗り越える事ができました」
「じゃあ、今は育てのご両親の事はどう思っているの?」
「本当に感謝しています。施設で育つより、ちゃんとした家庭で愛情を受けながら育つ方が絶対にいいと思うんで……」
「そうよね……。その通りだわ」

零美の言葉の後、少し考えた彼は、本題を思い切って口にする事にした。

「あの……。今日ここに来たのはですね……。実は相談があって来たんです」
「あら!? どんな事?」
「実は、産みの母親が会いたがっているって連絡が来て……。それでどうしようかと悩んでいるんです……」
「……」

テレビでよく聞く話だ。零美には何とアドバイスすれば良いのかはわからなかったが、彼が会いたがっている事は波動で感じられた。

「杉山くんは、会いたいんじゃない!?」
「……」
「会いたいけど、育てのご両親に遠慮しているのかしら?」
「いえ、今の両親は、僕が会いたいなら会ったらいいって言っているんです。でも……」
「あなたの気持ちの整理がつかないのね?」
「……はい」
「産みのお母さんを許せるかどうかって事かしら?」
「……」

彼の複雑な気持ちが伝わってくる。そんな彼を勇気づけようと、零美ははっきりとした口調で伝えた。

「大丈夫、あなたと産みのお母さんが、笑顔で対面している姿が視えるわ。産みのお母さんから話を聞いて、事情があった事を理解したあなたが、彼女の事を許している姿が視えるの。だからきっと大丈夫!」

零美の言葉に勇気をもらい、彼は産みの母親に会う決心を固めた。晴れやかな笑顔で帰っていく彼を見送りながら、零美の両目には涙が滲んでいた。

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