第1話「お節介な女」

日曜の午後にやってきたその女性は、見るからにふくよかな体型をしていた。坂道で転がせば転がっていくのではないか、そんな失礼な表現が頭に浮かび、零美は自分を恥じた。

「昨日お電話しました、坂上泉です」
「お待ちしておりました。さあ、こちらへどうぞ」

アジアンテイストの変形ワンピースを着て、ピンクの薄底スニーカーで歩く姿は、どことなくペンギンに似て可愛らしい。自分の母親ほどの年配女性に対して可愛らしいとは、なんて失礼なんだろうと自分で思っていた。

もう既に額が汗ばんでいる彼女には、黙ってアイスコーヒーを用意した。「すいません」と言って軽く会釈をした後、喉を鳴らしながら勢いよく飲んで、あっと言う間に半分以下になった。今日は気温が上がって、ここにくるまでに喉が渇いていたのだろう。アイスにして正解だった。

「坂上さんの気になる事は何でしょうか?」
「自分の性格ですかね」
「では、こちらの紙に、お名前と生年月日を書いてもらえませんか?」
「はい」

彼女が書いた生年月日を基に、命式を割り出してプリントアウトした。それを見ながら鑑定を開始する。

「坂上さんは、太陽のようなカラッとした明るさがありますね」
「えっ、そうですか?」

明るいと言われた事が嬉しかったようだ。本人も、長所として自覚している感じだった。

「争いを好まず、人を笑わせたり喜ばせたりするのがお好きですね」
「はあ、確かにそうです。競争って好きじゃないですね。みんな仲良くが好きです。みんなが笑顔だと私も嬉しいです」

そう言って笑った。もともとが穏やかな顔で、美形ではないのだが、誰からも好かれる顔立ちをしている。

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「相手の事を思って言った言葉や行動が、上手く伝わらないで誤解される事も多いように思います」
「ああ、それはよくあります。自分でもお節介だなあって思いますから。つい口出ししちゃって、気を悪くされる事もあります。それが欠点だなあって自覚しています」
「難しいですよね。こちらが良かれと思っていても、相手にとってはお節介になってしまうんですよね」
「そうなんですよ。善意でつい、そうしないでこうしたらって言っちゃうんですけど、言われた人はカチンと来るんでしょうね」
「特に、お子さんとかそうじゃないですか?」
「はい。娘なんかとはよくケンカになります。自分が失敗してきた事と同じような道を進みそうなので、つい口を出してしまうんですけど、それが頭に来るんでしょうね。私も子どもの頃はそうでした」
「坂上さんのお母さんもお節介だったって事ですか?」
「はい。親に似たんでしょうね」

そう言って、深い溜息をついた。よほど嫌な目に遭ってきたのかも知れない。

「坂上さんは時に、言葉がきついと思われるかも知れません。感受性の鋭い人にとって、言葉は凶器にもなりますから」
「なるほど。知らず知らずのうちに、人を傷つけてきたのかも知れませんね」
「坂上さんは、すごく能力が高いので、割と何でも出来てしまう所があるんですよね。それで、周りの人がとろく見えてしまう場合もあります。どうしてこんな簡単な事が出来ないのかなって」
「それはありますね。でも、それはあまり口に出さないようにしています。ケンカになってしまうので」
「そうですよね。でも、口には出さなくても、周りの人は敏感に感じているんですよ。坂上さんがそう思っている事を」
「えっ? そうなんですか?」
「はい。態度や雰囲気なんかでですね。この人には敵わないなって思わせてしまっています」
「そうですか……」
「それが、嫉妬や妬みになってしまうんですよね」
「私は何も、悪い事はしていないつもりですけど」
「相手が勝手に嫉妬するんですよ。だから困っちゃうんです」
「えー? そんな……」

開いた口が塞がらないと言った感じで、口を開けたまま動きが止まっていた。彼女には理解出来ない事だった。全く自分に非はなくても、時に誰かの恨みを買ってしまうのだ。これは、命式を観ていると、恵まれた家系に生まれた人に多い。

何の努力もしなくても恵まれている人に対して、人々は妬んだり嫉妬したりする。これを先祖の因縁と言うべきかどうかは、零美にはよくわからなかった。しかし、現実世界で起こる事柄なので、当事者にとっては困った問題だ。

「ですから、余計なお節介をして、相手に恨まれないようにしないといけませんね」
「そうですね。余計な事して恨まれて、後ろから刺された日には大変ですから。ははは」

明るく大きな笑い声が店内に響いた。基本的に、自分は正しいと思っている彼女は、自分の身にそんな事が起きるとは、微塵も思っていなかった。彼女の言う通り、誰かの恨みを買わなければいいなと願っていた。

しかし、その日から数週間後の事、零美の悪い予感は的中してしまった。些細なトラブルから、知人女性に刺されてしまったのだ。幸いにも、命に別状はなかったのだが、彼女はかなりのショックを受けたようだった。その知らせを聞いた零美は、この不条理な世界に心を痛めるばかりだった。

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