第12話「取り柄が無い女」

「あのう……。ちょっと良いですかあ?」

日曜日の午後、どこか遠慮気味で、消え入りそうな小さな声が、少しだけ開いたドアの外から聞こえてきた。その微かな声を聞き逃さなかった零美は、その声とは対照的に「はーい!」と大きな声で答えた。

入り口の前には、ヘアゴムで長い髪を束ねた小柄な女の子が立っていた。緊張した顔でもじもじしていたので「どうしましたか?」と声をかけた。

「あの……。う、占いをお願いしたくて……」
「まあ、可愛いお客さんね。出来ますよ、どうぞ」
「し、失礼、します……」

遠慮気味に足を踏み入れ、恐る恐る歩きながら、誘導された席へ座った。きょろきょろと店内を見回して落ち着かない。零美はカウンターでカルピスを作り、氷を二個ずつ入れたグラスを持って、彼女の斜め前に座った。

「どうぞ」
「あ、ありがとうございます。すいません」

深々とお辞儀をしたので、テーブルに頭がつきそうになった。

「お名前を聞いて良いですか?」
「あっ、はい。私の名前は遠藤那奈です。よろしくお願いします」

再び深々とお辞儀をした。

「遠藤さんは学生さんですか?」
「はい。高校二年生です」
「占いはお好きですか?」
「はい。結構好きです。テレビでやっているのを見て気にしたりします」

少し笑みがこぼれた。初めての場所で初めての鑑定を受ける、それだけで、高校生の女の子にとっては勇気の要る事だ。それでも、占いに関心を持ってここに来たと言う事は、何かしらの悩みを抱えているはず。

家や学校では、親や先生から厳しい言葉をかけられているように感じられた。愛されている、受け入れられていると言う安心感があれば、それは態度に表れるものなのだが、彼女の場合は、人の視線に怯え、拒絶されないように「良い子」を演じているようだった。

零美はいつも、相談者の味方になる事を第一に考えている。誰もがその人の考えを否定したとしても、自分だけは肯定してあげよう。その思いだけは常に持ち続けている。

「占いってね、本当の自分を知るためのものなの」
「本当の自分ですか?」
「そう。自分の事って、意外とみんな誤解しているのよね」
「誤解……」
「遠藤さんは自分の事を好きかしら、それとも嫌いかしら」
「好きか嫌いかって聞かれれば、嫌いな方です」

想像していた通りの答えが返ってきた。

「そうなの。じゃあ、どうして嫌いなのかなあ」
「私、何の取柄もない女なんです」
「取り柄?」
「よく母親にも言われます。お前は何の取柄もないなあって。勉強が出来るわけでもないし、運動も得意じゃない。自分でも、私は何も出来ないなあって思います」
「……そうなのかあ……」

零美は深い溜息をついた。子どもにとって、親は最大の理解者であるべきだ。例え誰も信じてくれなくても、親だけは信じてあげるべきではないのか。今は亡き娘の和美を思い出しながら、零美の心に悔しさが込み上げてきた。

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「お母さんは、あなたに対する期待が大きすぎるみたいね。自分の人生に満足していないから、あなたを自分の身代わりとしているのかも知れないわ」
「そうなんですか……」
「人は短所ばかりが目につくと、長所が見えなくなってしまうの。占いは、見えなかった自分の長所を見つけるためのものなのよ」
「へえー、そうなんですか」
「そう。だからとりあえず、あなたの命式を観てみましょう。この紙に、名前と生年月日を書いていただけますか?」
「はい」

彼女の書いたものを基に、命式を出してプリントアウトした。

「これがあなたの命式です」
「命式?」
「四柱推命では、生まれた年、生まれた月、生まれた日、生まれた時刻が四つの柱になっていて、この四つの柱に八つの文字が割り当てられるの。これがあなたの命式になります」
「はい」
「あなたは木の生まれで、木と言っても、大木と言うより可憐な草花のような人ね。でも、自我のエネルギーが弱いから、周りの人に助けてもらわないと生きていけないわ」
「そうなんですか……」
「そう。自我が弱い人は、人の影響を受けやすいの。花って、適度な太陽と水、それに十分な栄養が備わった良質の土壌があれば、綺麗に咲く事が出来るでしょ」
「はい」
「あなたもそうなの。良い言葉をかけてもらって、適度な期待をかけてもらえば、きっと素敵な花を咲かせられるわ」
「そうですかあ!」

素敵な花を咲かせると言った言葉が心に響いたようだ。十七歳の彼女は、これからどんな花だって咲かせられる。

「あなたは感受性が鋭くて、いろいろとアイディアが浮かんでくるように思うんだけど、どうかしら?」
「うーん、そうですかねえ。わかんないです」
「遠藤さんは、好きなものってないのかな?」
「好きなものと言えば……、料理が好きです」
「えっ? 料理が出来るの?」
「うちは母子家庭だから、母が帰りが遅い時は、私が弟や妹のためにご飯を作るんです」
「そうなんだあ。偉いなあ。うん、本当に偉い!」
「ええっ? それほどでもありませんよお。褒められると恥ずかしいです。へへへ」

自分が得意な事を褒められて嬉しかったようだ。彼女の笑顔が自然に見えた。

「まず、高校生で料理が出来るなんてすごいよ、本当に。それはあなたが自信を持って良い事よ。それはすごい取柄だわ」
「ありがとうございます」
「それと、お母さんの代わりに下の子たちの面倒を見るなんて、すごい! お母さんはすごく助かっています。それを当たり前の事だと思う所があなたの長所よ」
「そうなんですかあ。へへへ。嬉しいです」
「将来は、なりたい職業はあるの?」
「あ、あの、調理師になりたいなあと思って。調理師学校に行って、料理の事をもっと勉強したいんです」
「そう。それはすごく合っていると思う。きっと成功するはずよ」
「ありがとうございます!」

彼女が帰る頃には、おどおどした表情はどこかに消えてしまい、夢と希望に満ちた顔になっていた。彼女はこれからもきっと、素晴らしい料理を作るに違いない。一度食べてみたいなあ、と零美は思った。

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