第13話「生徒から告白された男」

「こんばんは」

平日の夕方にやってきたのは、灰色のスーツを着た男性だった。彼の名前は奥野誠で、先日電話で今日の鑑定予約を取っていた。

「お電話でご予約の奥野誠さんですね。お待ちしておりました」
「どうも、今日はよろしくお願いします」

深いお辞儀の後に、背筋をピンと伸ばした姿から、生真面目で几帳面な人柄が感じられた。テーブル席へと案内すると、ホットコーヒーを用意するために入ったカウンターの中から声をかけた。

「今日はどのようなご相談ですか?」
「恋愛に関する事なんですけども……」
「それではそこの紙に、ご自分と相手の方の、お名前と生年月日を書いていただけますか?」
「わかりました」

淹れたてのコーヒーを出された彼は、「ありがとうございます」と言って軽くお辞儀をした。零美は、彼が書いた紙を受け取ってパソコンに入力したのだが、三十一歳の彼の相手は十八歳だった。十三歳差に少し驚きを感じながらも、二人の命式を出して彼の前に置いた。

「えーっと、お二人の関係を聞いてもよろしいですか?」
「はい。実は私、女子高の教師なんですが……」
「はい」
「先日、生徒から告白されまして……」
「告白?」
「はい。先生が好きだと」
「へー、すごいですね。世の男性からしてみたら、羨ましがられる話じゃないですか」
「ええ、まあ。でもですよ、三十過ぎたおっさんが、十八歳の女の子……しかも自分の担任の子と付き合うなんて。世間の人からしたら、それはもう犯罪じゃないですか」
「まあ、多分そう思われるでしょう」
「そこなんですよ」
「じゃあ、悩まずに断ったらどうでしょう?」
「えっ? まあ、そうなんですけども……。無下に断るのも可哀想な気がして……」
「では、やんわりと、彼女を出来るだけ傷つけないように断ったら?」
「そうですねえ……。でも、何かこう……」

彼の、奥歯に物が挟まったような返答を訝しく思った零美は、思い切って尋ねてみた。

「彼女はもしかしたら、結構な美人ではありませんか?」
「……」

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彼は黙って頷いた。頭では、生徒と教師の恋愛はいけない事だとわかっていても、男としての本能が判断を鈍らせているのだった。

「もしかして……写真、あります?」
「はい」

彼はスマートフォンを取り出して、零美に彼女の画像を見せた。

「これは、奥野さんが撮ったんですか?」
「いえ、彼女が送ってきたんです」

そこに写っていたのは、髪を茶色にして、大きな瞳をつけまつげでさらに目立たせ、唇にはやたら赤い口紅を塗って、妖しい笑みを浮かべた女の子だった。確かに、街ですれ違ったなら、男なら振り返りたくなる美女だ。

この写真を見た途端、零美の中で、疑わしかった仮説に対する確信が強められていった。そして、彼女の命式に目をやり、その確信をさらに深めた。

「彼女は、頭の回転が早い子ですね」
「普段の素行は良くありませんが、勉強は出来る子です」
「自分が上にいないと気が済まない性質なので、どうしたら人をコントロール出来るかを常に考えているんですよね」
「そうなんですか」

彼は真面目なのだが、人の本質を見抜く事が出来ないなあと零美は思った。教師は、生徒の本質を見抜く力が必要である。例え素行が悪い子でも、それには理由があり、その理由を理解してあげない限り、彼らの更生は難しい。

ただ闇雲に信じていても、人を正しく導くのは難しい。相手の本質を理解した上で、信じてあげるべきなのである。自分を見抜いている相手には、人は誰でも畏敬の念を抱くものだ。

「彼女は、グループのリーダー的存在ですよね」
「まあ、確かに。良くない子たちの集まりですが、彼女がリーダーである事は間違いないです」
「ですよね」
「はい。なので、彼女が私に告白してくるなんて信じられなかったんです。こんな三十過ぎのおっさんを。でも、一生懸命指導してきたつもりなので、その心が通じたのかなとも思っちゃったりして。ははは」

つくづく能天気だなと零美は思った。危機意識が欠如している。彼女は明らかに、彼をコントロールしようと標的にしているのだ。自分の頭の良さと美貌に、絶対的な自信を持っているからこそ出来る業だ。

そして彼は、自分の誠実さを長所だと自負しているのだが、それを利用しようとする悪い輩がいる事を想像出来ない。彼女にしてみれば、しめしめと罠に掛けやすいタイプなのである。

しかし、彼の理想とする教師像を壊すのは不本意だ。彼女のような生徒は、そう居るものではない。普通に教師生活を送る中で、滅多に出会う事はないだろう。そう考えると、彼の夢を壊さない程度に進言した方が良いだろうと零美は思った。

「彼女は、ほんのいたずら心でやっていますから、本気にしない方が良いですよ」
「えっ? あっ、そう、そうですよね。やっぱりね。ははは」
「やんわりと傷つけないように断るのが、教師としての株を上げる気がします」
「……そうですよね、やっぱり。それが教師としての姿ですよね。わかりました」

彼が少しだけ期待していたのがわかる。彼女は本当は、純粋で良い子だと言ってほしかったのだ。どこまでも生徒を信じてあげたい、素晴らしい先生だ。しかし、そこにつけ込む人間は間違いなく存在するし、彼女はそのタイプなのだ。

複雑な感情のまま帰っていった彼を見送りながら、零美の感情もまた複雑だった。美しい彼女の微笑みに隠された悪意が、胸に刺さって痛かったから……。

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