第14話「娘に嫉妬する母」

「元気ー?」

悪戯っぽい笑顔でドアから顔を覗かせたのは、占いに関係なく遊びにやってくる夏川静香だった。彼女は、零美の高校時代の同級生である夏川麗香の姉で、近所に住んでいる事もあってよく顔を出していた。

「静香さん、久しぶり!」

静香は、零美より三歳上の三十三歳である。妹の麗香は、零美の数少ない友人の一人で、彼女の自宅によく遊びに行っていた事もあり、姉の静香とも仲良くなった。静香は、中学時代の同級生と長い恋愛の末に十九歳で学生結婚し、二十歳で産んだ娘は中学一年生になった。

「今、お客さんはいない?」
「大丈夫ですよ。入ってください。コーヒーでも飲みましょう」
「いただきまーす」

腰まで長い黒髪がよく似合う美人である。週に三回はフィットネスクラブに通うなどして、若い頃の体型を維持している。とても中学生の娘がいる母親とは思えない。若い頃はミスコンの常連で、今でも年齢に似合わない若々しさを保っている。

「どうぞ」
「ありがとう」

平日の午後は、彼女にとって自由になる時間だ。朝は、夫と子どもたちの弁当と朝食を用意し、彼らを送り出した後は、食器の片づけ、洗濯、掃除などをてきぱきとこなす。昼は自分だけなので適当に食べ、夕食の準備を始めるまではゆっくりと過ごす。

ママ友たちと食事会をして楽しくおしゃべりをし、フィットネスクラブやエステ、美容院などで美の手入れをし、更にはショッピングなどでストレスを上手に発散する。良き妻でいるために、美貌を磨く事を怠らず、良き母でいるために、ストレスを溜めない事を心がけているのだ。

そんな彼女の楽しみの一つが、零美に会いに来る事だった。彼女の住むマンションからは、歩いても十分ぐらいの距離に零美の店がある。彼女は霊感があるわけではないが、零美の体験する不思議な世界の話、霊体験の話などが、好奇心を大いに満たしてくれるからだ。

「零美ちゃん。今日はね、ちょっと相談があるの」
「珍しいですね。相談って何ですか?」
「私ね、最近、娘に嫉妬しているの」
「娘さんに嫉妬? 伽耶ちゃんにですか?」
「そう。あの子最近、随分と大人っぽくなっちゃってね」
「そうなんですか。小さい頃のイメージしかないけど、もう中学生ですもんね」
「それがね、ちょっと見てくれる?」

Sponsered Link



彼女はそう言って、スマートフォンの中の画像を選んで零美に見せた。そこには、夏祭りで浴衣を着た夏川伽耶の写真があった。母親似で背の高い伽耶は、年齢よりも大人びて見えた。中学一年生の可愛らしい女の子と言うより、大人の美しい女性に近かった。

同級生の麗香の家で見た、アルバムの中の中学時代の静香にそっくりだった。麗香も姉に似て美人であり、彼女たちの母親もやはり美人だった。そういう血統を受け継いでいる事を考えれば、娘の伽耶が美人でも、特段驚くような事ではなかった。

「確かに、十三歳とは思えない完成度ですね。綺麗です」
「でしょ。母親としては、娘が綺麗になったのは嬉しい事なんだけどね。でも、一人の女性としては、若さと美しさを持つ怖い存在になるわけよ。わかる?」
「……そうなんですか」

美しい娘に嫉妬するなんて、リアル白雪姫のような話だなと零美は思った。若い頃から綺麗だと言われ続けてきた彼女は、例え娘であっても、自分よりも綺麗な存在になってほしくないのかも知れない。

「だって、私はどんどんしわが増えていく一方だし、あの子はどんどん綺麗になっていくわけでしょ」
「まあ、そうなりますね」
「白雪姫の王妃の気持ちがわかるわあ」

やっぱり、リアル白雪姫だった。

「静香さんは充分綺麗ですよ」
「え、そう? 鏡よ鏡よ鏡さん、もっと言って、もっと言って」
「私は鏡じゃありませんけど。でも、本当に綺麗です」
「うーん、ありがとー」

唇を突き出してキスをするような仕草をした。実際、彼女はそんなに深刻に悩むようなタイプではない。娘に嫉妬すると言う話も、半分は本気だろうけれど、半分は冗談なのだろう。まだまだ娘には負けていないという自信は隠せなかった。

「静香さん、今でも相当モテるんじゃないですか?」
「え? そう見える?」
「街を歩いていたら、声を掛けられるのかなあって思って」
「うーん、そんな事ないなあ。多分、気が強そうに見えるからじゃない?」
「ははは」

確かに彼女は気が強い。無口で優しい夫を尻に敷いているのだ。しかし、夫はそれを気にもしない大らかさがあり、傍目から見るよりもうまくいっている夫婦だった。

「ご主人はとっても優しいですもんね」
「そう。私には本当にもったいない男だと思う」
「ご主人の仕事の方は順調ですか?」
「そうね。お陰様で、順調に業績を伸ばしています」
「静香さんがあげまんだからですよ」
「えっ? やっぱり? ははは」

彼女の夫は父親の会社に就職しているのだが、彼の活躍で会社の業績はどんどん上向きのようだ。現在は、三十三歳にして常務取締役になっている。

もともと彼にも財運はあるのだが、彼女の持つ強運によって更に強められていた。将来は次期社長が約束されており、そのお陰で彼女は、普通の主婦よりも悠々自適な生活を送っている。

「ご主人の浮気は大丈夫ですか? 優しいし、モテるんじゃないですか?」
「いいの、浮気ぐらいはね。本気になって家庭さえ壊さなければいいの。彼は彼、私は私で、お互いうまくやっていけばいいのよ」

「お互い」と言う言葉に引っかかった。それは、自分も浮気をすると言う意味なのだろうか?零美は心の中で「そんな馬鹿な事はあるわけない」と自分の考えを否定したのだが、彼女の意味深な微笑みを見ていると、「もしかしたら……」と思えて仕方がなかった。

『雨の中の女 神野 守 短編集 第1巻』amazonで販売中!

https://www.amazon.co.jp/dp/B07FYRKPL2/

Sponsered Link



投稿日:

執筆者:

以下からメールが送れます。↓
お気軽にメールをどうぞ!

こちらから無料メール鑑定申し込みができます。お気軽にどうぞ!
お申込みの際は、お名前・生年月日(生まれた時刻がわかる方は時刻も)・生まれた場所(東京都など)を明記してください。
ご自身のこと、または気になる方との相性などを簡単にポイント鑑定いたします。何が知りたいかを明記の上、上記までメールを送ってください。
更に詳しく知りたい方には有料メール鑑定(1件2000円)も出来ます。

最新の記事をツイッターでお知らせしています
神野守(@kamino_mamoru)





  • 1現在の記事:
  • 39473総閲覧数:
  • 170今日の閲覧数:
  • 171昨日の閲覧数:
  • 1319先週の閲覧数:
  • 1759月別閲覧数:
  • 19855総訪問者数:
  • 110今日の訪問者数:
  • 131昨日の訪問者数:
  • 896先週の訪問者数:
  • 1131月別訪問者数:
  • 112一日あたりの訪問者数:
  • 2現在オンライン中の人数:
  • 2018年8月14日カウント開始日: