第15話「片付けられない女」

「こんにちは」

比較的高めの明るい声で挨拶をしたその女性は、日曜の午後にやってきた。微笑みを浮かべた愛嬌のある顔で、第一印象は好感が持てた。上下を白で統一した服装は清潔感が感じられ、零美が見た感じでは、彼女の悩みが何なのか想像が出来なかった。

「予約してくださった太田さつき様ですね。お待ちしていました」
「太田です。よろしくお願いします」

軽くお辞儀をした後、軽い足取りで席に着いた。

「コーヒーと紅茶、どちらがよろしいでしょうか?」
「じゃあ、コーヒーで。あっ、ホットでお願いします」

コーヒーの中でもホットを選択する辺り、コーヒー党の零美の心をくすぐった。ホットコーヒーが好きな人に悪い人はいない、と言うのが零美のモットーである。

「今日のご相談は、どのような内容でしょうか?」
「自分の性格が知りたいのですが……」
「わかりました。それでは、その紙にお名前と生年月日を書いていただけますか?」

零美は、コーヒーを淹れながらカウンター越しに言った。彼女は頷き、紙に書き始めた。左手でペンを持った彼女は左利きだ。左利きは、直感的で天才肌とよく言われる一方で、変わっている人が多いとも言われ、零美も周りの左利きを見ながらそう感じていた。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

コーヒーを出されてお辞儀をした彼女は、書き上げた紙を零美に手渡した。零美は、それを基にパソコンで彼女の命式を出し、プリントアウトしたものをテーブルに置いた。

「やっぱり、感受性が強くて芸術家タイプなんですね」
「やっぱり、ですか?」
「いえ、あ、あの、ごめんなさい。太田さんが左利きだったので。左利きでこういう命式の人をよく見るので」
「そうなんですか」

零美の近い人間関係で三人ほど左利きがいるが、彼らの命式が似たような感じだったのを思い出したからだ。

「太田さん、ご兄弟はいらっしゃいますか?」
「三人兄弟です」
「何番目なんですか?」
「一番上が兄で、次が姉、一番下が私です」
「なるほど……」
「えっ?」
「いや、この命式でしかも末っ子と言う事で、結構甘え上手じゃないかなあと思いまして」
「甘え上手ですか? 自分ではそんなに思わないんですけども」
「確かに。そうですよね。ご本人はそう思わないんですけど、周りの人は実はそう見ているんです」
「そうなんですか?」

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もっと端的に言えば、子どもっぽくていたずら好き、失敗しても許されると思っている。甘え上手と言うよりも、責任を取ろうとせずに甘えている。しかし、こんなにはっきりと言ってしまうと傷ついてしまうので、どこまでもオブラートに包んで言ったのだ。

彼女は、とても傷つきやすいナイーブな神経の持ち主である。打たれ弱いために、自分を傷つけようとする者に対しては攻撃的になるか、あるいは心を閉ざしてしまう。その辺を考えながら、言葉を選んで伝えなければならない、とても疲れるタイプなのだ。

「芸術家タイプの人って、やる気になった時の集中力はすごいんですが、やる気になるまでが大変なんですね」
「ああ、それわかります。なかなかやる気は起きないです」
「後でやろうって考えるので、どんどん仕事が溜まっていっちゃうと言うか……」
「そうなんですよ。私の一番の悩みが、片付けが出来ない事なんです」
「片付け、ですか」
「はい。もう本当に、嫌になるくらい出来ないんです。これはもう、生まれつきの性格なのかなって思って、先生に聞きに来たんです」

これが彼女の一番の悩みのようだ。しかし、彼女は人のアドバイスを聞くようなタイプではないし、口では悩んでいると言いながら、本気で改善しようとするタイプでもない。そう心の中で思いながら、どう話を持っていこうかと零美は悩んでいた。

「生まれつきの性格ですか、確かにそれはあると思いますよ。整理整頓がきちっとされていないと気が済まない人もいますしね」
「そうなんですかあ」
「太田さんは、ご結婚されているんですか?」
「はい。結婚して四年目です」
「お子さんは?」
「今、お腹の中にいます」
「それはおめでとうございます」
「ありがとうございます。でも、段々と動くのが億劫になってきて。子どもがいない時は、何とか片付けようという気になっていたのですが、これからの事を考えると不安です。一人暮らしの時は片付けられない女でしたから」

零美は「そうでしょう」と心の中で思ったが、口に出す事はしなかった。

「ご主人はどんな人ですかね?」
「主人は、A型で細かい人です。物を溜めこむと言うか、勿体無いと言って捨てない人なので、どんどん物が溜まっていきます」
「じゃあ、整理整頓が大変ですね」
「まあ、あの人の場合は、すぐにどこに置いたか忘れるので、いつも目につく所に置いておきたいらしいです」
「なるほど、そういう事情もありますね」
「私としては、物が少ない方が掃除も楽だし片付けやすいのですが」
「そう考えると、ご主人は、片付いていなくても気にしない人なのではないですか?」
「そうですね。人が来る前に急いで片付ける感じですね。その後、どこにやったか忘れて探しまくるんです」
「ははは。笑ったら悪いけど、面白いですね」

誰かが来る前に急いで片付けて、どこにやったか忘れると言うのは、零美も心当たりがあったので、思わずおかしくなってしまった。

「でもまあ、そういうご主人なら、そんなに悩まなくても良いんじゃないですか? 潔癖症のご主人なら、片付けられないと喧嘩けんかになりそうですけどね」
「そうですね。喧嘩になる事はないです。それはありがたいです」
「じゃあ、これから子育てが大変になるでしょうから、ご主人にも手伝ってもらいながら、少しずつ片付けていってはどうでしょうか?」
「そうですね。そうします」

微笑みをたたえた穏やかな顔でそう言った彼女は、鑑定料を払って帰っていった。彼女はこれからも片付けられそうにないなと思いながら、零美は一人でにやにやしていた。

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