第20話「夫の親友を好きになった女」

大勢の人たちで賑わう河川敷、「ひゅーっ」と言う音と共に一斉に顔を上げると、大輪の花火が夜空を彩った。花柄が入った紺の浴衣に、美容院で髪を結い上げてきた白石真澄は、隣で一緒に見ていた柏木純平に向かって言った。

「わあーーー! 綺麗だね」
「そうだね。でも、君の美しさには敵わないよ」
「ええっ? またまた、女の子には誰でもそう言うんでしょ」
「いや、今日が初めてだ。ねえ、一回しか言わないからよく聞いて」
「えっ?」
「僕と結婚してください」
「えっ? 嘘でしょ……」
「僕が嘘なんか言った事あるかい?」
「ううん」
「じゃあ、嘘じゃないよ」

純平は、手に持っていた指輪を見せながらもう一度言った。

「僕と結婚してくれますか?」

真澄は驚いて声が出なかった。この言葉を、何年待ち続けてきた事か。外科医である純平が、アフリカでの医療援助から帰ってきて久しぶりの再会だった。遠く離れて暮らす寂しさに耐え切れず、涙で枕を濡らした事は一度や二度ではなかった。

同じ大学で医学を学び、いつの間にか友人から恋人になり、結婚を意識し始めた頃に「アフリカに行きたい」と言い出した純平。別れるかどうするかと悩んだ挙句、結局待つ事にして、ようやく先週日本に帰ってきたばかりだった。

今までの事が頭の中に思い出されて、いつの間にか真澄の両目は涙で濡れていた。純平の顔をじっと見つめながら、真澄は決心したようにこう言った。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

黙って真澄を抱き寄せる純平の肩越しから見た花火は、涙で滲んでよく見えなかった。

日曜の午後、ドアが開いて「こんにちは」と呼びかける女性の声が店内に響いた。零美は急いで駆け寄り、「お待ちしていました」と頭を下げた。

「ご予約の柏木真澄さんですね。どうぞ」
「よろしくお願いします」

真澄を席に着かせると、零美はコーヒーを淹れた。「どうぞ」とコーヒーカップを差し出すと、「ありがとうございます」と笑顔でお辞儀をした。

「柏木さんのご相談はどのような内容ですか?」
「相性を観てほしいんです」
「では、この紙にお二人の名前と生年月日を書いていただけますか?」

真澄が書いた内容で命式を割り出し、テーブルの上に広げた。

「お二人はどのような関係ですか?」
「この人は、亡くなった夫の親友だった人です」

柏木純平が亡くなってから一年が過ぎた。結婚して二年が経ったある日、突然の交通事故で帰らぬ人となってしまった。一時は後追い自殺を考えた真澄を支えたのは、大学の同期で二人の共通の友人だった佐野紘一だった。

大学時代から、紘一は真澄に対して淡い恋心を抱いていたが、告白する事はなく、片想いは胸に秘めたままだった。純平と真澄が付き合うようになってからも、友情は変わらずに二人を陰で見守り続けてきたのだった。

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真澄は、紘一の思いを薄々感じてはいた。しかし、真面目で平凡な紘一よりも、個性の強い純平に惹かれていった。そしてプロポーズを受けて結婚したのだが、わずか二年で純平はあっけなく死んでしまった。

「彼は、夫が亡くなってから精神的に不安定になった私を、ずっと支え続けてくれました。お互いもう三十六になります。彼がずっと独身なのは、私のせいだと思うんです。彼がまだ私の事を想ってくれているのはわかっています。彼と一緒に生きていきたいんです」
「なるほど」

零美は、二人の命式をじっと見つめた。

「亡くなったご主人の生年月日を教えてもらってもよろしいですか?」
「はい」

真澄に聞いた生年月日をパソコンに打ち込み、純平の命式を出して二人の横に置いた。

「ははー、なるほど……」
「えっ?」

真澄は、一人で感心している零美を不思議そうな顔で見つめた。

「純平さんは紘一さんを助け、紘一さんはあなたを助ける関係になっています」
「そうなんですか?」
「火の生まれの純平さんは、金の生まれのあなたを剋す形ですよね。純平さんはカッと燃えるような熱い性格で、エネルギッシュで影響力のある人でした。あなたは鉄なので、あまりに高温で熱せられると溶けてしまいます」
「はい」
「まあ、あなたにとって純平さんは、自分を苦しめる立場に立っていたわけです」
「はい」
「そのお二人の間に入って仲を取り持ってくれたのが、こちらの紘一さんになるわけです」
「へえー、そうなんですか」

真澄は零美の言葉に何度も頷いた。確かに、紘一がいたから純平と仲良くなった気がする。純平がアフリカに行った時、いつも愚痴を聞いてくれたのが紘一だった。紘一のおかげで、死なずに生きてこれたと感じていた。

「実は、夫が亡くなって、親友の彼と付き合うって言うのはどうなんだろうと悩みました。夫はどんな気持ちで私たちを見つめているのかなって思って。なかなか踏ん切りがつかなかったんです」
「それは大丈夫ですよ。純平さんは喜んでいますから」
「本当ですか?」
「はい。純平さんは、とにかく誰かを喜ばせたい人なんです。それでアフリカにも行きました。今度はあなたを喜ばせたかったけど、それが出来なかった。だから、親友の紘一さんに託したんです」
「そうなんですか……」
「はい。あなたと紘一さんがうまくいくように、純平さんが後押ししてくれたんですよ」
「ええっ?」
「紘一さんはシャイで自分からは言わないだろうから、あなたから結婚を申し込んでくれって純平さんが言ってますよ」
「先生には視えるんですか?」
「いえ、視えないけれど、あなたの胸から聞こえてきます。純平さんの声が」
「そうなんですか……」

真澄は、自分の胸に両手を当てて目を瞑った。純平の優しい笑顔が目に浮かんで自然と涙が零れた。

「あなたと紘一さんはとても良い相性の組み合わせです。純平さんも保証してくれていますから、自信を持ってください」
「はい……。わかりました」

真澄は零美の店を出た後、すぐに紘一に電話した。「会って話がしたい」と。待ち合わせの駅で改札を抜ける紘一を見つけた真澄は、彼に抱きついてこう言った。

「大好き。結婚して」

突然の告白に紘一は一瞬戸惑ったが、真澄の耳元で恥ずかしそうに答えた。

「……いいよ。結婚しよう」

真澄は、「おめでとう」と祝福する純平の声が聞こえたような気がした。

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投稿日:2018年12月2日 更新日:

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