第21話「整形した女」

夕方の中学校のグラウンドで、一人黙々と走り幅跳びの練習をこなす石塚雅人。その様子を遠目で見ていたのは、同じクラスの西原里美だった。

「ねえ、好きだったら告っちゃえば?」
「えー? そんな事出来ないよ」
「どうして? 好きなんでしょ?」
「私なんかダメだよ。私なんかに告白されたら、雅人君が迷惑だよ」

里美は、一緒に見ていた親友の石野和枝に、自分がどれだけダメな人間かを延々と説明した。顔、体型、性格、勉強、どれをとっても自慢出来るものがない。自分は底辺の人間なのだ。だから、こうやって遠くから見ているしかないんだ、と里美は力説した。

「里美の顔は、あんたが言うほど悪くないよ」
「嫌だ。この野暮ったい一重が嫌なの」

半年前、傘を忘れた里美に「俺、家が近いから」と言って傘を渡した後、ずぶ濡れで走っていった雅人。あの日から、里美は恋に落ちた。無口で目立たないけど、誰にでも優しい雅人の事を、いつも目で追いかけてきた。

結局、卒業するまで自分の気持ちを伝えられず、別々の高校になってしまった。大人になった今でも、雅人の事が忘れられない。そんな里美に届いた一枚の葉書。それは、中学卒業してから十年目の同窓会の案内だった。それを見て、里美はある決意をした。

「こんにちは」

平日の夕方、里美は零美の店にやってきた。「はーい」と零美が出迎えると、里美はニコッと笑って「予約しています西原里美です」と言った。「お待ちしていました。どうぞ」と零美に促されて、指定された席に座った。

「コーヒーでもいかがですか?」
「いただきます」
「今日は相性を知りたいと言う事ですよね?」
「はい」

零美がコーヒーを淹れている間に、紙に自分と相手の名前と生年月日を書いた。そして「どうぞ」とコーヒーを運んできた零美に「これです」と紙を渡した。零美はそのデータを基に、二人の命式を割り出してテーブルに並べた。その命式を観ながら、零美は説明を始めた。

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「こちらの石塚さんは男性ですが、内面は女性的ですね」
「と言いますと?」
「細かい事に気がついて、心遣いが出来る優しい人です」
「確かに。そう思います」
「西原さんの方が、女性だけど内面は男っぽいですね」
「ははは、その通りです」
「負けず嫌い、ですよね?」
「はい」
「負けるとわかっている勝負はしないタイプ、と言いますか……」
「ああ、それはわかります。そうなんですよ。恥をかきたくないんでしょうね」
「西原さんに合う人は、どちらかと言うと優しくて、女性的な気配りの出来る人が良いですよ。そう考えると、この石塚さんは良いと思いますね」
「そうですよね。この人、良いですよね?」
「はい。お二人はどのような関係なんですか?」
「中学の同級生で、私の初恋の人です」
「そうなんですかあ」
「先生の言う通り、断られるとわかっていたので、中学時代は告白しませんでした。でも、今は自信があるんです」
「自信があるって、どうしてですか?」
「私、整形しました」
「えっ? どこをしたんですか?」
「目です。一重をぱっちり二重にしました」
「目だけ?」
「はい」
「もしかして、昔の写真ってありますか?」
「あります」

里美は、手術する前の写真を零美に見せた。

「確かに。目だけなのに、印象が全然違いますね」
「はい。今度の同窓会で彼に告白するために、思い切って整形しました。当時の私は、おとなしくて引っ込み思案な女の子でした。顔にコンプレックスがあって、こんな自分を好きになってくれるわけないって思っていたんです。でも、今だったら好きですって言える気がするんです」
「そうですか。きっとうまくいきますよ。応援しています」
「ありがとうございます」

里美は、大きな瞳を輝かせて笑った。目が一重から二重に変わっただけで、人はこんなに変われるものなのか。長い間コンプレックスだったものから解放されて、理想の自分になれた事が、自信につながったのだろう。整形した事よりも、それによって気持ちが変わった事が大きいのだ、と零美は思った。

袖が透けた黒いワンピースに身を包んだ里美は、雅人と二人でお洒落なホテルラウンジに来てカクテルを飲んでいた。同窓会で再会した後、里美から雅人を誘ってここに来ていたのだ。

「久しぶりに西原さんに会ったら、随分綺麗になっていたんで驚いちゃった」
「えっ? そう? ありがとう。石塚君も相変わらず、格好良いよ」
「そうかい? なんか照れるなあ」

雅人は恥ずかしそうに頭をかいた。

「あの……、西原さんは……、結婚とかは……」
「まだ独身。そういう石塚君は?」
「僕も独身。あの……、付き合っている人とか、いるんじゃ、ない?」
「ううん。いないの。そういう石塚君は?」
「いや、あの、僕なんか、全然女の子にモテた事ないし……」

顔を真っ赤にして、雅人は下を向いた。

「あのね」
「えっ?」

雅人は顔を上げて、里美の顔を見た。里美の大きな瞳が潤んでいるように見えた。

「どうしたの?」
「あのね……」

十年分の思いが込み上げてきて、うまく言葉に出来ない。溢れそうになる涙を堪えながら、里美は必死に気持ちを伝えようとしていた。

「うん」
「ずっとね……、ずっとね……」
「……」
「雅人君の事が好きでした」
「えっ?」

思い切って告白した後、両手で顔を覆って俯いた里美。バッグからハンカチを取り出して、溢れる涙を拭っていた。雅人は、隣で女の子が泣いているという初めてのシチュエーションに戸惑っていたが、意を決して、里美の肩を抱きよせて言った。

「えーっと……。えー、あのー……。僕も、中学校の頃から好きでした」
「……えっ?」

予想もしていなかった言葉に、里美は驚いて顔を上げた。涙で滲んでよく見えなかったが、雅人の笑顔は十年前と同じだった。

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