第25話「先輩を好きになった女」

同期の同僚たちが帰宅していく中、水上美奈代は残業していた。入社一年目の美奈代は、まだまだ仕事に慣れず、残っている社員たちは皆、自分よりも随分と先輩ばかり。美奈代の心は寂しかった。

「水上さん、良かったら、これどうぞ」
「えっ、良いんですか? ありがとうございます」

美奈代の教育係である高田義徳が、缶コーヒーを机に置いた。美奈代よりも六歳年上の高田は、人当たりが良く仕事も出来る優秀な社員だった。女性社員からも人気が高く、美奈代にとっては憧れの先輩だ。

「僕も手伝うよ。早く終わらせて、ご飯食べに行かない?」
「えっ? あっ、はい。わかりました」

突然の食事の誘いに、美奈代は驚いた。誰もが憧れる高田が自分を誘ってくれるなんて、想像もしていなかったからだ。斜め右の席で仕事をしている高田を意識しながら、早く終わらせようと、俄然やる気になった。

美奈代は、電話で約束した午後六時より五分早く店に着いた。ドアを開けて「こんばんは」と声をかけると、奥から「はーい」と声が聞こえた。駆け足でやってきた零美に「予約しました水上です」と挨拶をして頭を下げた。

「お待ちしていました。どうぞお入りください」

気の弱い美奈代は、怖そうな人が出てきたらどうしようと心配していたが、優しい眼差しで温かく迎えてくれた零美を見て、一気に心を開いた。

「水上さんは、コーヒーお好きですか?」
「はい。大好きです」
「一目見てそうだと思いましたよ。私のお勧めの豆を用意しますね」
「ありがとうございます」

一緒に暮らす父と母の影響で、美奈代もコーヒー党になっていた。零美には、同じコーヒー党が発する微弱な波動が感じられたのだろう。美奈代もまた、零美がコーヒー好きだと言う共通点があって嬉しかった。

美奈代に合わせてカップを選んだ零美は、いつものようにチョコレートを添えて彼女に出した。

「私、チョコレートも大好きなんです」
「そうだと思いました」

初めて会う人に対し、緊張で胸がドキドキの美奈代。零美の言葉は、彼女にとって、自分の事を知ってくれていると言う安心感を与える言葉だった。

「水上さんの気になる事は何でしょうか?」
「あっ、はい。実は、会社の先輩で気になる人がいるんです」
「と言う事は、その人との相性、ですかね?」
「はい……」

顔を赤らめて、恥ずかしそうに返事をした。

「ではこの紙に、あなたと気になる方のお名前、生年月日を書いていただけますか?」
「わかりました」

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美奈代が書いたものを基に、二人の命式を導き出してプリントアウトしたものをテーブルに並べた。

「彼は、カラッと明るい方ですね」
「はい」
「楽天的で前向きな方です」
「そうです。すごく尊敬しています」

そう言って美奈代は、大きな目をキラキラと輝かせた。好きな人を褒められるのは単純に嬉しい。美奈代は、感情が表に出やすいタイプだった。

「彼は火の生まれ、あなたは土の生まれ、火は燃えた灰となって土の栄養分となりますから、彼はあなたを助け興し、強めてくれる関係です」
「はい」
「彼はあなたを助けてあげたいと自然に思いますし、あなたは彼に助けられる事が心地良いのです」
「えー、そうなんですか?」

驚きと嬉しさで声が裏返った。憧れの先輩が、自分の事を助けたいと思ってくれるなんて、まるで夢のような話だった。

「私、先輩の事が好きなんです」
「はい」
「でも、勇気がなくて思いを伝えられません」
「そう? どうしてかなあ。自分に自信がありませんか?」
「はい」
「自分の事は嫌いですか?」
「はい」
「自分の事を好きになった方が良いですよ」
「そうなんですか?」
「はい。自分の事が嫌いな人と接すると、あっ、この人は私の事が嫌いなんだっていうメッセージが送られてしまうそうなんですよ」
「えー? それは困ります」
「ですよね。だから、まずは自分の事を好きになりましょう」
「でも、私なんか背が低いし、頭が悪いし、弱虫だし……」
「そう? 小さい方が可愛いって思う男性は多いですよ。それに、男性の方が頭が良い方が、男性のプライドが保てるでしょ?」
「はい」
「気が強い女性より、弱い人の方が男性は守ってあげたいって思うものですよ」
「……なるほど」

美奈代は本当になるほどと思った。彼女は、思ってもいない事を言える程器用ではない。とても正直な人間なのだ。

「あなたと彼は、とっても相性が良いと思いますよ」
「えー? 本当ですか?」
「はい。本当です」
「それは嬉しいです」
「もしかしたら、そのうち、付き合ってくれって言われるかも知れませんよ」
「本当ですか?」

思わず身を乗り出した。本当にそうなったら嬉しい。素直にそう思ったのだ。

「彼は、相手の喜ぶ姿を見るのが自分の喜びになる人ですから、ゴロニャーンって甘えてみたらどうですか? 彼は甘えてくる女性が好きなんですよ」
「そうですか。うまく出来るかわかりませんが、努力してみます」
「上手くいくと良いですね」
「はい」

零美のアドバイスを意識しながら一か月が経ったある日、美奈代は、高田と仕事で銀座に来ていた。会社には戻らず、そのまま直帰で良しと言われた高田は、美奈代にこう言った。

「水上さん、この後少し、時間ある?」
「えっ? はい、大丈夫です」
「じゃあ、ちょっとデートしようよ」
「えっ? デ、デートですか?」
「うん。実は前から、水上さんの事が好きだったんだ。良かったら付き合ってほしいんだけど、ダメかな?」

高田は恥ずかしそうに頭をかいた。美奈代は、突然の高田の告白に驚いたが、もじもじしながらこう言った。

「私も好きでした。よろしくお願いします」

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