第27話「ミュージシャンを愛した女」

幼稚園の園庭で、高梨大也が泣いていた。幼馴染みの加納三奈が「どうしたの?」と尋ねると「いじめられた」と泣きながら答えた。見ると、大也が作った砂の城が、無残な形に崩れていた。

「誰がやったの?」
「修ちゃん……」

三奈は、少し離れた所にいた木崎修吾に向かって突進して突き飛ばした。

「何すんだよ!」
「あんたが悪い!」
「何だと! 生意気だぞ!」
「何よ!」

三奈と修吾はつかみ合いながら言い合いをした。それを見つけたみどり先生が慌てて二人を止めに入った。三奈は興奮を鎮めながら、まだ泣いている大也の側に駆け寄った。

「大也君、もう泣かないで」
「うん。三奈ちゃん、ありがとう」

小学校に入学すると、大也はピアノを習い始めた。隣に住む三奈の部屋にも聞こえてきた。三奈はその音色を聞くのが好きだった。中学校に入ると、大也はギターを弾き始めた。耳で聞いただけで曲を再現出来る大也は、絶対音感の持ち主だった。

感受性が豊かな大也は、些細な事でよく泣いた。そのため、いじめっ子の格好の標的になった。しかし、その大也をいじめっ子から守るのが三奈の役目だった。正義感の強い三奈は、悪い奴は許せない。小学校から柔道をやっているので、どんな相手でも投げ飛ばした。

「三奈ちゃん。新しい曲作ったんだけど、聞いてくれる?」
「うん、今行くから待ってて」

大也からの電話を受け取った三奈は、急いで家を飛び出した。「おじゃましまーす」と言って隣の家に上がり込むと、大也はリビングにあるピアノに向かっていた。大也が曲を作る時は、いつもピアノだった。三奈の姿を確認すると、大也はピアノを弾き出した。

それは切ないメロディーだった。最近、愛犬を亡くしたばかりの三奈にとっては、天国から届くような曲に思えた。

「大也君、これ、歌詞も書いてくれないかな? 私が大体のイメージを教えるから」
「いいよ」

三奈は自分の想いを伝えた。愛すべき存在との別れ、そして今まで喜びを与えてくれた日々への感謝、胸に詰まった想いを大也に話した。大也はそれをメモ書きして、「一週間くらい待って」と言った。三奈は黙って頷いた。

一週間後、大也は三奈に出来上がった歌を披露した。三奈が表現したかった心情が、見事な言葉で綴られていた。

「すごいね、この歌」
「ありがとう」

大也と三奈が初めて作った歌になった。

大学二年生の三奈は、零美の店にやってきた。自分と大也の事を相談に来たのだ。

「こんにちは」
「どうも。加納三奈さんですね。お待ちしていました」

席に着いた三奈に、「どうぞ」と言って零美はコーヒーを出した。三奈は「ありがとうございます」とお辞儀をして一口飲み、「美味しい」と言って微笑んだ。零美は三奈と大也の命式を割り出し、テーブルに並べた。

「先生、大也君って音楽の才能ありますよね?」
「そうですね。芸術的才能はかなりありますよ」
「ですよね。絶対音感の持ち主ですから」
「それに、言葉のセンスも抜群ですよ」
「それは昔から思っていました。すごく良い言葉を見つけてくれるんですよ」
「加納さんも芸術性が高いですよ」
「そうですか? 実は私、歌には自信があるんです」

そう言って三奈は、SNSに投稿した自分の歌を零美に聞かせた。

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「上手いですね」
「そうですか? ありがとうございます」
「後ろでギターを弾いているのが高梨さんですか?」
「はい。今一緒に活動しているんです。どうですか、私たちメジャーになれますか?」

零美に向けた三奈の瞳からは、強い意志が感じられた。

「はい。お二人の相性はとても良いですよ。対人関係が得意な加納さんが、対人関係が苦手な高梨さんを社会に繋げる役割を担っています。いくら才能があっても、成功するためには、いろんな人たちの助けが必要ですからね」
「私もそう思います。大也君には才能があるんです。私が一番のファンなんです。一人でも多くの人に、大也君の作った歌を聴いてもらいたいんです」
「あなたは強運の持ち主ですから、あなたと一緒なら彼は成功できますよ」
「良かったあ」

三奈はホッとして、胸を撫で下ろした。

「あ、あのう、それともう一つ……」
「はい」
「私たち、男女としての相性はどうでしょうか?」
「恋愛、ですね?」
「はい。昔から、私が一方的な片想いをしているんですけどね」
「内面が男性的な加納さんと、内面が女性的な高梨さん。男女は逆転していますが、そういう夫婦はたくさんいます」
「そうなんですか」
「あなたは彼を守ってあげたいし、彼はあなたを喜ばせようと頑張っている。とても素敵なカップルになれますよ」
「でしたら、彼の気持ちも私と同じ、と言う事ですかね?」
「はい。ただ、彼は自分からは言い出せない人ですから、あなたがうまくリードしてあげないといけませんね」
「わかりました」

店を出た三奈は、すぐに大也を呼び出した。駅の構内で待っていた三奈は、改札を抜けた大也の手を引っ張ってきた。

「私ね、さっき有名な占い師の所に行ってきた」
「へー。どうだったの?」
「大也の事、いろいろ聞いてきたよ」
「何て言ってた?」
「大也はさ、メジャーデビューしたい?」
「うん。いつかは大きな会場でコンサートしたいね」
「そしたらさ、私と結婚しなきゃだめだね」
「えっ? 結婚?」
「うん。私はすごい強運の持ち主だから、大也を成功させられるんだって。そのためには、私と結婚しないとだめだって。どうする?」
「どうするって……」
「成功したいの?したくないの?」
「そりゃあしたいさ」
「じゃあ、私と結婚する?」
「……うん」
「私の事、好き?」
「……うん」
「私もだーいすき!」

たくさんの人が行き交う駅の構内で、三奈は大也に抱きついた。

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