第28話「先輩の仇をとりたい女」

「優子ちゃんは夢を諦めないでね」

それが、葛城彩芽が谷村優子に言った最期の言葉だった。優子に電話をかけた後、彩芽はマンションから飛び降りた。

五歳年上の彩芽は、優子の職場の同僚であり、アスリートとしてのライバルでもあった。共に苦しい練習に耐え、オリンピック出場を夢見て頑張ってきた。

彩芽はその実力からオリンピックの有力候補だった。しかし、結果的には代表に選出されず、悲願のオリンピック出場は叶わなかった。

優子にとって彩芽は、目標でもあり憧れでもあった。実の姉妹のように仲が良かった彩芽の自殺は、優子にとって大きなショックを与えた。それでも、亡き彩芽の分まで頑張ろうと、優子は必死に練習に打ち込んできた。

ある日曜の午後、前日に予約をとっていた優子は、零美の店にやってきた。ドアを開けて「こんにちは」と呼びかけると、奥から零美が出てきた。

「お電話頂いた谷村優子さんですね。お待ちしていました」

辺りを見回した優子は、誰もいない事を確認して急いで中に入った。帽子と大きなサングラス、さらにはマスクまでして顔を隠していた優子は、それらを全部取って零美にお辞儀をした。

「すいません。事情があってこんな格好で来ました」
「そうなんですか。とにかくこちらへどうぞ」

席に着いてもまだ優子は緊張していた。零美が「コーヒーでも飲みませんか?」と声をかけると、「ありがとうございます」と頭を下げた。

優子のただならぬ様子を見て、零美までも緊張してきた。そして二人分のコーヒーを用意して、優子の斜め前に座った。

「どうぞ」
「ありがとうございます」
「何か深刻な悩み事があるようですね」
「はい。実は私、とんでもない事に巻き込まれていまして……」
「とんでもない事とは?」
「ある一人の女性の自殺が関係しているんです」
「ええっ?」

優子の話し方から、何か大きな事件が絡んでいる気がした。

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「自殺って、自殺するように追い込まれたって事ですか?」
「結果的には、そうなると思います」
「その人は有名な人、ですか?」
「ある競技のオリンピック代表候補だった人です」
「そんな人が、どうして自殺なんて?」
「協会幹部が監督をしているチームへの移籍を断ったために、代表に選ばれなかったからです」
「そんな、そんな事があるんですか?」
「その幹部は絶対的な力を持っているので」
「と言う事は、その人のチームに所属しない限り、どんなに実力があっても代表選手になれないって事ですか?」
「まあ、そういう事になります」

スポーツの世界をよく知らない零美にとっては信じられない事だった。

「それで、どうしてあなたが巻き込まれてしまったんですか?」
「実は私も、その競技でオリンピック出場を目指していまして」
「そうなんですか」
「はい。それで今回、その幹部から電話が来たんです」
「電話が?」
「はい。会って話がしたいと」
「会ったんですか?」
「はい。会いました」
「何と言われたんですか?」
「葛城彩芽のようになりたくなければ、うちのチームに移籍しろと」
「葛城彩芽?」
「さっき言った、自殺した選手です」
「ええっ?」

その言葉は、自殺に追い込んだのは自分だと言っているようなものではないか。この幹部の恐ろしさを、零美はまじまじと感じていた。

「実は、その彼女が夢に出てきたんです」
「夢に?」
「はい。私の無念を晴らしてほしいと」
「そうなんですか……」
「それで、さっきの会話を録音しました」
「録音? 証拠を残したわけですね?」
「はい」
「それは今どこに?」
「安全な場所に託してあります」
「それで変装して来られたんですか」
「はい。命の危険もあるかもと思いまして」

彼女をそこまで用心深くさせるその協会は、どれだけ闇が深いのだろう。バックに暴力団との繋がりでもあるのだろうか。零美は彼女の身が心配になってきた。

「弁護士さんや警察にも話はしたんですか?」
「はい」
「くれぐれも、気をつけてくださいね」
「はい。ところで先生」
「はい」
「先生は亡くなった人と交信できると聞きましたが、先輩とも交信出来ますか?」
「はい。もうそこにいらっしゃいます」
「えっ? 本当ですか?」
「はい。あなたを見て、微笑んでいらっしゃいます」
「……」

彼女は下を向いて泣いていた。先輩の無念を晴らす事が出来た。告発しようと決心したのは、先輩が勇気をくれたからだった。その先輩が側に来て喜んでいる。彼女は先輩の名前を呼びながら、大声で泣いた。

後日、彼女はテレビで会見を行なった。まだ若い彼女の勇気ある告発に、日本中が驚いた。そして、録音された音声もマスコミを通じて明らかになり、協会幹部は日本中から糾弾された。

ある日曜の午後、優子は彩芽の墓参りに来ていた。仇をとった事を報告し、彼女の墓前に誓った。

「先輩、私、必ずオリンピックに行きます。天国から見ていてください」

優子が見上げると、雨上がりの空に虹がかかっていた。彩芽がエールを送ってくれたようで、優子は嬉しかった。

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投稿日:2018年12月10日 更新日:

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