第3話「買い物依存症の女」

会社帰りにやってきたその女性は、カリスマモデルかと思うほどの高身長で美人だった。黒髪を胸の辺りまで伸ばし、長いまつ毛に切れ長の目は、妖しい色気を漂わせていた。

「遅くなりまして申し訳ございません」
「大丈夫ですよ。問題ありません。ご予約の永島加奈様ですね」
「はい。今日はよろしくお願いします」

軽くお辞儀をすると、手入れの行き届いた長い髪が綺麗に舞った。白いブラウスに水色の膝下丈スカートが、若々しさと清潔感を表現していた。

「こちらへどうぞ」とテーブル席へ案内すると、赤いハイヒールの高い音が店内に響いた。長い足で奏でるその音は、一定のリズムを刻んで心地良く耳に届いた。

「お飲み物は、コーヒー、紅茶などありますが……」
「先生のお勧めはどちらですか?」
「私はコーヒー党なので」
「では、私もコーヒーをお願いします」
「ホットとアイスですと、どちらを?」
「私はホットで」
「私もホットです。では少々お待ちくださいませ」

コーヒー好きで、しかもホットが良いと言う、それだけで、零美の評価は高得点だった。年齢は二十代後半で、おそらく零美よりも二つくらい年下だろう。お洒落な服やバッグなどは高級品に見える。大企業に勤めるキャリアウーマンだろうかと想像してみた。

ホットコーヒーを差し出すと、「ありがとうございます」と笑顔でお辞儀をした。派手さと妖艶さを併せ持つ彼女に相応しい、有田焼の華美なコーヒーカップを用意した。

零美の拘りは、人物のキャラクターとコーヒーカップを合わせる事にある。そのために、時に高級なカップを買ったりするのだった。

「永島さんのお悩みは何でしょうか?」
「はい、実は私、欲しいものがあるとすぐに買いたくなってしまうんです。これはもう、持って生まれた性格なのかなと思いまして」
「なるほど。それでは、こちらにお名前と生年月日を書いていただけますか?」
「はい」

長い髪が紙に垂れて邪魔になっても、気にする様子もなく、左手にペンを持って書きあげた。零美はそれを基に命式を割り出し、プリントアウトしたものをテーブルに置いた。

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「まず特徴的なのは、芸術性が高いと言う事ですね」
「そうですか。ありがとうございます」
「服のセンスを見ても素敵ですものね」
「あは、先生がお上手で恥ずかしいです」

左手を口に添えて微笑んだ仕草が可愛らしい。

「さらには、頭の回転が早く、流行を察知する能力が高いようです」
「そう言われれば、流行のチェックは欠かしませんし、見るとすぐに欲しくなります」
「では、かなり出費も多いわけですね」
「はい。カードで買うので、どんどん残高が膨れ上がっています」
「お給料も良いのではありませんか?」
「同年代の友人たちよりは良いのですが、使い方が激しいので全く残りません」
「もうそろそろヤバい感じですか?」
「はい」
「頭が良いので、限界を超える事はないように思うのですが」
「自分でも、もうこれ以上は無理と思って我慢しているのですが、街を歩いている人が素敵な服を着ているのを見ると、もううずうずしてくるんですよね」

感情表現が豊かな彼女は、苦しそうな表情をして、自分の心境を表していた。両手を震わせながら、禁断症状が出ているかのような仕草をした。

「おそらく、永島さんの場合は、自己評価の低さが原因だと思うのです」
「自己評価の低さ、とは?」
「理想が高いので、その地点に到達していない自分を許せない」
「はい」
「他の人が幸せそうで、綺麗で高額な服を着ている人が輝いて見える」
「はい」
「綺麗で高額な服を着れば、自分も輝いて見えるのではないか、幸せになれるのではないか」
「はい」
「周りの人が自分をどう見ているか、どう評価しているかが、永島さんの幸せに比例しているのです」
「比例しているとは?」
「他人の評価で、幸福感が上がったり下がったりするんですね」
「なるほど」
「永島さんの価値観としては、綺麗で高額な服を着ている人は幸せ、という考えが根底にあるのです」
「あははは、確かにそうです。よくおわかりです。さすがです、先生」

それまでおしとやかにしていた彼女が、全てを言い当てられて緊張が解けたのか、急に素が出たようだ。高らかな笑い声が、鐘の音のように店内に響いた。

彼女はそれまで、服装だけでなく、言動までも綺麗にしようと努めてきた。それはそれで、向上心が感じられる素晴らしい取り組みである。しかし、その動機の根底に、自己肯定感の低さがある事を、零美は見抜いていたのだ。

「周りの人の評価で自分の価値を決定すると言うのは、とっても疲れると思うんですよ」
「はい」
「人の評価を気にしなくなると、もっと楽に生きられると思いますよ」
「そうですね。そうなりたいです」
「毎日、鏡を見ながら、自分に向かって綺麗だねって言ってあげるのはどうですか?」
「自分でですか?」
「そうです。誰も言ってくれませんから」
「確かに、誰も言ってくれませんね。ははは」
「だから、自分で自分に言ってあげましょう。綺麗だね、頑張ってるねって」
「なるほど。わかりました。そうします」

きっと彼女は、幼少期に否定されたトラウマがあって、自分を肯定出来なくなってしまったのだ。彼女の素の良さを伝えてあげる人がいなかったに違いない。

それでも、来た時よりも、帰り際の彼女の笑顔が、とっても良い笑顔に感じられた。零美は、彼女の人生がより良いものになるだろうと確信した。

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