第33話「妻に不倫がバレた男」

日曜の朝、閑静な住宅街のマンション。その一室である松本将司の自宅は、妻の美奈代の怒号と娘の華の泣き声で大荒れだった。将司の必死な言い訳にも聞く耳を持たない美奈代は、荷物をまとめて五歳の娘と実家に帰ってしまった。

きっかけは、美奈代の友人である三田かなえからの電話だった。
「あんたの旦那、若い女の部屋に入り浸っているよ」

かなえの住むマンションから、将司の浮気相手である織田裕子のアパートが見える。かなえは、平日の昼間に将司が裕子の部屋に入るのを何度も目撃していた。浮気に違いないと思ったかなえは、証拠を写真に撮って美奈代に送っていたのだ。

営業の仕事をしている将司は、夜の店で出会った裕子に、妻の愚痴を話しているうちに親しくなり、男女の関係になってしまった。昼間の方が妻にバレにくいだろうと思っていたのだが、運悪く、美奈代の友人が近くに住んでいたのだった。

美奈代はとにかく男勝りの性格。正義感が強くて悪は許せない。潔癖症で綺麗好き、将司が部屋で煙草を吸うのは許さなかった。そんな美奈代との生活にストレスが溜まっていた将司が、つい心を許してしまって深い関係になったのが裕子だったのである。

妻も娘も居ない一人きりの部屋で、これからどうしようかと将司は考えていた。そしてふと、会社の女の子の言葉を思い出し、電話をかけてみた。

「あのう、知人から話を聞いたんですが、ちょっと妻との事で相談したいんです。今日はこれから時間はありますか」
「よろしいですよ。どうぞいらしてください」
「では、午後二時頃に伺います」

将司は零美の店にやってきた。ドアを開けて「失礼します」と声をかけると「どうぞ。お入りください」と零美が出迎えた。

想像していたより美人の出迎えに、一気に緊張してしまった将司は、少しだけ赤くなった顔を気にしながら席に着いた。ホットコーヒーを二つ持った零美も席に着いて「今日はどうされましたか?」と将司に尋ねた。

「いやあ、困った事が起きまして」
「困った事ってどんな事ですか?」
「妻が娘を連れて家を出てしまったんです」
「あら、どうして? 喧嘩ですか?」
「はい」
「原因は?」

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喧嘩の原因を聞かれて、将司の口が止まった。不倫がバレて妻が激怒したなんて、こんな美人に知られるのは辛い。しかし、本当の事を言わないと始まらない。恥ずかしそうに頭をかきながら、将司は正直に話した。

「お恥ずかしいんですが……不倫がバレまして……」
「不倫、ですか」
「はい」

零美に、不倫男だと軽蔑されたのではないか。初めて会った美人にそう思われるのが辛かった。

「それは大変ですね。では、あなたと奥様の命式を観てみましょう。お二人の生年月日を教えてください」

意外にもさらっと流してくれたので、将司はほっとした。零美は二人の命式を割り出し、プリントアウトしてテーブルに並べた。

「なるほど。奥様は強い女性ですね」
「はい」
「感情的になりやすいです」
「そうなんです」
「喧嘩はいつなさったんですか?」
「今朝です」
「ええっ?」

驚くのも無理はないと将司は思った。不倫がバレて妻に逃げられた男が、その足で占いに来るなんて、そうそういないだろう。そう思いながら、自分でも心の中で笑っていた。

「妻は正義感の強い人なんです。真面目で曲がった事が嫌い。潔癖症で綺麗好き。私なんかはずぼらなものですから、しょっちゅう怒られてばかりです」
「奥様は、自分が絶対正しいと思っている人です。自分に厳しい人なのですが、それを周りにも要求するものですから、傍にいる人は大変ですよね」

将司は、「大変ですよね」と言ってくれた零美の言葉が信じられなかった。不倫の事を責められると覚悟していたからだ。

「こういう奥様だったら、松本さんじゃなくても浮気したくなりますよね」
「ええっ? そ、そうですか……」

浮気や不倫は決して許されるものではない。世間一般の多くの人は、不倫を許さないだろう。零美が不倫を肯定しているわけではない事は、将司もよくわかっている。でも、自分の弱い気持ちを理解してもらった事が嬉しかったのだ。

「で、でも、不倫は良くないですよね?」
「確かに、それで家庭を壊すのはいけないと思います」
「先生、どうしたら妻は許してくれますかねえ?」
「うーん、そうですねえ。許してもらえる確率は、かなり低いと思われます」
「……そうですよね」

美奈代の性格からして、どんなに謝っても許してくれるとは思えなかった。それでも、零美なら何かしらの方法を教えてくれるのでは、と言う淡い期待を持っていた。しかし、難しいものは難しいのだ。

「でも、何度も何度も真摯に謝れば、もしかしたら許してもらえるかも知れません。奥様は、自分の非を素直に認めて頼ってくる人を無下に出来ない人ですから」
「わかりました。許してもらえるまで謝り続けます」

その日の夜、将司は、千葉にある美奈代の実家を訪ねた。土下座をして謝ったが、美奈代の両親からはひどく叱られた。美奈代は最初、会ってさえもくれなかった。それでも、将司は毎晩通い続け、謝り続けた。

そして通い続けて十日目の夜、将司が玄関を開けると、美奈代と娘の華が立っていた。華は将司に「パパ―」と言いながら飛びついてきた。そして美奈代が、重い口を開いた。

「本当に信じていいの?」
「えっ?」
「もうあんな事は二度としないって、本当に信じていいの?」
「もうしません。本当です。信じてください」

そう言って頭を下げた将司に、美奈代はこう言った。

「じゃあ、帰る」

将司は荷物を車に詰め込み、三人は東京の自宅へ帰っていった。

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投稿日:2018年12月15日 更新日:

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