第43話「儲け話に誘われる男」

 緒方光則は、塚本幸雄に呼ばれてファミレスにやってきた。幸雄は中学時代の同級生で、会うのは二十年ぶりだった。幸雄は、一番奥の席でコーヒーを飲んでいた。

「待たせて悪かったね」
「いや、そんなに待ってなかったから大丈夫だよ」

 見ると、幸雄はケーキセットを頼んでおり、ケーキは既に食べ終わっていた。普段はあまり甘いものは食べない光則だったが、ドリンクバーの単品よりもケーキセットの方が値段的にお得感がある。「たまにはケーキもいいか」と思い、ケーキセットを頼んだ。

「話って、何さ?」
「ああ、良い話があるんだ」

 良い話がある、と聞いて光則は、「またか」と思った。この世に良い話なんてあるはずがない。これが、様々な良い話に乗ってきた光則の結論だった。

「どうせ、ネットワークビジネスだろ?」
「いや、これはそう言うのとは違うんだよ」
「じゃあ、何?」
「俺は上手く話せないから、説明会に行ってもらいたいんだよ。もちろん、俺も一緒に行くからさ」

 この説明会に誘われるパターンを、光則は何度も経験してきた。そこには、少しでもお金を儲けたいと思って客が集まってくる。そして、成功者の体験談にみんなが歓喜する。

もしかしたら、自分も成功出来るかも知れないと、頭の中で思い描く。しかしそれは、淡い幻想に過ぎない。光則はこういう話に何度も乗っかり、結局は上手くいかなかった。

「商品を次々と紹介していくやつでしょ? 人が増えればリベートが増えるって言う……」
「いや、そうなんだけどさ。まずは二人だけ見つければ良いんだよ。あとは上の人が、お前の下にくっつけてくれるからさ。大丈夫、お前だったら大丈夫だよ」

 昔の友だちが久しぶりに訪ねてくるのは、大体がこういう話が多い。結婚して子どもが生まれ、どんどん成長するのに給料は上がらない。光則の子どもも十歳になり、周りは塾に行かせている親もいる。

 良い学校に入れる事が、良い大学、良い就職先への近道だ。お金は残せてやれない分、せめて教育にだけはお金を使ってあげたい。どこの親でも考える事だろう。光則も同じだった。

 本業の他に副業をしている友人もいる。インターネットのブログ収入で稼いでいる友人もいる。光則も何かしなければと思っていたところへ、幸雄が話を持ってきたのだ。

「この商品は、まだあまり知られてなくて……。東大の教授も推薦しているすごい商品なんだよ……」

 幸雄が一生懸命に説明してくれるが、光則の耳には右から左だった。その一生懸命さが羨ましくもあり、もしかしたら凄い商品なのかと一瞬思ったりもする。

「なあ、今度一緒に、説明会に行ってくれよ」

 ほとんど聞いていなかったが、幸雄の熱意だけは伝わった。

「わかった。ちょっと考えて返事するわ」

 とりあえず考えてみると言って、その場は退散した。帰り際、幸雄が笑いながら手を振ってきたので、光則も軽く右手を挙げた。

Sponsered Link



 次の日、光則は、気になっていた零美の店を訪れる事にした。職場の同僚が話しているのを小耳に挟み、占い好きな光則は前から行ってみたいと思っていた。

「こんばんは」
「ご予約の緒方光則様ですね。お待ちしていました。どうぞ」

 噂通りの美人占い師に、光則は緊張してきた。霊感はないが、光則も感受性が鋭い。零美に会って、バチバチバチという衝撃が感じられた。

 期待と緊張が入り混じりながら席に着くと、「コーヒーでもいかがですか?」と聞かれたので「ありがとうございます」と会釈をした。

 コーヒーを淹れる零美の波動が、カウンター越しに伝わってきた。光則は今まで、何人かの霊感の強い人に会ってきたが、その中でも一番穏やかな人のように思えた。

 二つのコーヒーカップを持ってきた零美に、再び軽くお辞儀をした。

「今日はどのようなご相談ですか?」
「あっ、えーっと……」

 コーヒーを飲もうとしてふいに質問されたので、なかなか言葉が出てこなかった。優しく見つめる零美に愛想笑いをしながら、気を落ちつけて話を始めた。

「実はあのー、二十年ぶりに訪ねてきた友人の言う事を信じて良いものかと思いまして……」
「その方の生年月日はわかりますか?」
「いえ、わかりません」
「では、写真などはありますか?」
「いえ、写真もありません」

 生年月日もわからず写真もない。何の情報もないのに判断しろと言うのは酷な話だ。光則は、ただただ申し訳ない思いだった。

「では、あなたの直感ではどうですか?」
「えっ? 僕の直感ですか?」
「はい。あなたは非常に感受性の強い方です。直感が非常に優れています。あなたが直感で感じたのは、良いでしょうか、それとも悪いでしょうか?」

 すごい、ただただすごいと思った。一目見ただけで、自分の素性を当てられた。確かに、直感では嫌だなと感じていた。

「僕が感じたのは、嫌だなあ、という事でした」
「でしたら、信じない方がよろしいと思います」
「そうなんですか?」
「はい。ご自分の直感を信じられた方がよろしいです」

 この人が自信を持ってそう言うのだから、間違いはないのだろう、光則はそう思った。

「わかりました。先生の言う通りにします」

 光則は、深くお辞儀をして店を出た。そして、歩きながら幸雄に電話をした。

「幸雄? 悪いけどさ、今回の話はやっぱりやめとくわ」

 光則は、折角誘ってくれたのに悪いなあ、と思いながらも断った。すると幸雄はこう返した。

「そうか。やっぱりお前は断ると思ったよ。実はさ、もっと良い話があるんだよ……」

『雨の中の女 神野 守 短編集 第1巻』amazonで販売中!

https://www.amazon.co.jp/dp/B07FYRKPL2/

Sponsered Link



投稿日:2018年12月25日 更新日:

執筆者:

Sponsered Link




以下からメールが送れます。↓
お気軽にメールをどうぞ!

こちらから無料メール鑑定申し込みができます。お気軽にどうぞ!
お申込みの際は、お名前・生年月日(生まれた時刻がわかる方は時刻も)・生まれた場所(東京都など)を明記してください。
ご自身のこと、または気になる方との相性などを簡単にポイント鑑定いたします。何が知りたいかを明記の上、上記までメールを送ってください。
更に詳しく知りたい方には有料メール鑑定(1件5000円・相性など2人の場合は7000円)も出来ます。

最新の記事をツイッターでお知らせしています
神野守(@kamino_mamoru)


  • 5現在の記事:
  • 65379総閲覧数:
  • 75今日の閲覧数:
  • 68昨日の閲覧数:
  • 706先週の閲覧数:
  • 2780月別閲覧数:
  • 37789総訪問者数:
  • 51今日の訪問者数:
  • 49昨日の訪問者数:
  • 459先週の訪問者数:
  • 1474月別訪問者数:
  • 58一日あたりの訪問者数:
  • 1現在オンライン中の人数:
  • 2018年8月14日カウント開始日: