第53話「SNSで出会った二人」

 とある日曜日、国島和也は東京駅にいた。たくさんの人が行き交う中、ポツンと一人佇んでいた。身長が百八十センチ、体重が百三十四キロの彼が立っているだけでかなり目立つ。

 さらには、丸い顔に黒縁メガネをして、黒いキャップを被って黒いTシャツに黒い半ズボンと、全身黒ずくめというのも特徴的だ。

 おまけに、黒くて大きなリュックを背負っている。これでもかと黒で統一しているのは、出来るだけ目立って見つけてもらおうという彼の考えからだった。

 今日彼は、SNSで知り合った女性と初めて出会う。彼女の名前は杉山香苗。和也のツイートに唯一人だけ反応した女性だった。

「体重が百三十キロ超えの僕と付き合っても良いと言う人、ダイレクトメールください」

 三十五年間生きてきて、今まで女性と付き合ったことがない和也は、最近面白いことに気づいたSNSで、彼女を募集してみようと思い立った。

 期待を胸にツイートしてみたが、その反応は散々なものだった。筆舌に尽くし難いほどの乱暴な言葉の暴力を浴び、ある程度は覚悟していた和也も、さすがに気持ちが落ち込んでしまった。

 ところが、そんなメッセージの中で、一人だけ信じられない反応があった。

「私、太っている人が好きなんです」

 彼女こそ、これから会う予定の杉山香苗なのだ。最初は悪いいたずらかも知れないという不安が強かった。しかし、三十五年間の人生の中で、そんないじめは散々受けてきた。

 今更どんな仕打ちを受けても負けるものか。もし本当に彼女になってくれるなら、それこそ儲けものじゃないか。和也にはもう、怖いものはなかったのだ。

「あの……もしかして国島さん、ですか?」

 ふいに後ろから名前を呼ばれ、「はい」と返事をして振り返った。そこには、身長が百五十センチあるかないかの小さな女性が立っていた。

「えーっと……もしかして、杉山さん、ですか?」
「はい」

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 香苗は大きく頷いた。小首を傾げて笑う彼女は、腰まで伸ばした髪の毛に、大きな瞳が特徴的な可愛らしい女性だった。「うそでしょ?」和也は思わず心の中で呟いた。

 こんな可愛らしい子が、自分の彼女になってくれるはずがない。もしかして、美人局か?もしかして、どこかから怖い男がやってきて、「俺の女に手を出したな。金を出せ」と言われるのか?

 和也は辺りを見回した。それこそ、三百六十度、一周回転して見回したが、それらしき人影は見当たらないようだ。

「どうしたんですか?」
「い、いえ。なんでもありません。じゃあ、行きましょうか」
「はい」

 和也の大きな手を、香苗はさりげなく握って引っ張った。牛に引かれて善光寺参りならぬ、善光寺に引かれていく牛のように、和也は黙って引かれていった。

 それから三日後、和也は噂で聞いた零美の店にやってきた。席に通されてコーヒーを用意してもらった和也は、対面に座った零美に話を切り出した。

「先生、僕は早死にしそうですか?」
「えっ? どうしたんですか、急に」
「まるで、盆と正月が一緒に来たようで。あるいは、十億円の宝くじに当たってしまったかのようで」
「意味がよくわかりませんが」
「とにかく、あり得ない事が起きたんです」
「あり得ない事?」
「三十五年間彼女がいなかった僕に、つい最近、彼女が出来たんです。しかも、とっても可愛らしい子が。SNSで知り合って、この前の日曜日に初めて会ったんです」

 そう言って和也は、香苗と一緒に撮ったツーショット写真を見せた。

「あら、可愛らしい女の子ですね」
「でしょ? これは本当に現実ですか? 狐か狸に化かされているとかないですか?」
「うーん……。狐や狸が本当に化かすかどうかはわかりませんが、この人は本物の人間だと思います」
「そうですか……」

 本当は嬉しいはずなのに、和也は浮かない顔をしていた。あまりに悲惨な人生を送ってきた彼には、単純に人が信じられないのだ。

「先生、この人はどうして、僕なんかと付き合っても良いなんて言うんでしょうか?」
「そうですねえ……。とりあえず、二人の相性を観てみましょうか?」

 零美は和也から二人の生年月日を聞き、それぞれの命式を出してテーブルに並べた。

「この人は、嘘つくような人には思えませんね。正直な方だと思います」
「そうですか。じゃあ、デブが好きだって言うのも本当ですかね?」
「多分、本当なんでしょうね。会ってみてどうでした?」
「僕と話をしても、全然嫌がる様子はありませんでした」
「じゃあ、問題なかったんじゃないですか」
「これから二人はどうなりますか? 結婚までいきそうですか?」
「そうですねえ……」

 零美は腕組みをして、二人の命式をじっと見つめた。しばらく考えた後、笑って答えた。

「きっと、結婚までいきそうな気がします。たぶん……」

 零美にはそんなに確信はなかったが、希望的観測も混じっていた。占いは、当たるも八卦当たらぬも八卦である。どうせなら、ハッピーエンドが良いではないか。

「……良かった」

 和也は胸を撫で下ろした。今まで多くの人に痛めつけられた和也は、もう誰も信じるものかと思っていたのだが、この零美の言葉だけは信じようと思った。いや、信じたいのだ。

 この日から一年後、再び和也は東京駅にいた。あの日と同じく、たくさんの人が行き交っていた。ただ、一年前と違っていたのは、不安は全くないということだった。

「お待たせしました」

 和也の肩をポンと叩いたのは、大きなスーツケースを手にした香苗だった。

「じゃあ、行こう」

 仙台から出てきた香苗は、今日から和也と暮らすことになる。二人の物語は、ハッピーエンドになった。

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投稿日:2019年1月4日 更新日:

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