第58話「伝説の詐欺師に弟子入りの男」

 ある日の午後、水沢大洋は、三人の男たちと共に都内のビルの一室にいた。伝説の詐欺師と呼ばれる加治屋泰造の呼びかけで集まったのは、板谷幸吉と橋口元雄、そして水沢大洋の三人だった。

 板谷も橋口も水沢も、詐欺を生業としていたが、彼らが伝説の詐欺師として尊敬していたのが加治屋だった。加治屋は三人の男たちにこう言った。

「俺ももう年をとった。この辺で引退しようと思っている。それで、お前たち三人の中から、俺の後継者を選ぼうと思う。そいつには、俺の詐欺師としての全てを継承してもらう」

 「おー!」三人が色めき立った。今まで数十億を騙し取ってきたと言われる、加治屋の全てを継承出来る。それは彼らにとって、夢のような話だったのだ。

「後継者になれるのは、俺が出すテストに合格した奴、そいつ一人だけだ。後の二人は、残念だが諦めてもらいたい」

 集まった三人の男たちは、自分こそ後継者に相応しいと誰もが思っている。まさか自分が選ばれないなど、微塵も考えてはいなかった。

「まず、このテストに参加するにあたって条件がある。それは、参加費が一人百万円だ。それが用意出来ない者は、今すぐ帰ってくれ」

 百万円と聞いて、三人は顔を見合わせた。しかし、誰一人帰る者はいなかった。百万円で伝説の詐欺師の後継者になれるなら安いものだ。皆そう考えていた。

「テストに合格した者は、この三人分の参加費三百万円をやろう。どうだ、やる気になるだろ?」

 加治屋の言葉に、三人は揃って頷いた。すると加治屋は三人に、それぞれ大きな封筒を渡した。封筒の中には、三人の男の顔写真とプロフィールが書かれてあった。

「この三人の中から一人だけ選んで、百万円を騙し取ってもらいたい。三人ともそれなりの資産家だから、百万円ぐらい軽いもんだろ?」

 つまり、後継者に選ばれれば、騙し取った百万円に三百万円が足されて四百万円になる。こんな簡単な仕事で四百万円なら、やらない手はない。三人はそう思った。

「それからな、三人の中で一人だけ、騙しやすい奴を入れておいた。後の二人は騙すのは簡単じゃないが、そいつは簡単に騙せるぞ。お前たちにはそれぞれ、他の二人とは別の男を選んでもらう。つまり、俺が選んだ騙しやすい奴に当たった奴が、一番有利になるな。どうだ、面白いだろう?」

 これはもう、四百万円はもらったも同じだ。三人はそう考えていた。

 三日後に、参加費百万円を持ってここに再び集まる。その時に、騙すターゲットを申告して決める。それぞれが同じ日に、同時に詐欺を決行する。その日の午後九時までに騙した証拠とお金を持ってここに戻ってくること。それが条件だった。

 ビルを出た水沢は、既に勝負に勝つための秘策を思いついていた。歩きながら電話をかけた水沢が向かった先は、たまたま知人から噂を聞いていた零美の店だった。

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「電話した水沢です」
「お待ちしていました。どうぞ」

 席に着いた水沢は、コーヒーを持ってきた零美に話を切り出した。

「先生の噂を聞きました。すごく当たるって評判です」
「ありがとうございます」
「実は私、警備業を仕事にしているのですが、人手不足と効率化のために、依頼人の選別をしたいと思っているのです」
「はい」

 水沢は、横に置いていた封筒の中から、三人の顔写真つきプロフィールを出して零美に見せた。

「この三人の警護を任されていまして。皆さん財産家なものですから、財産に関する警護も任されているのですが。一番脇が甘いと言うか、騙されやすい人は誰かと言う事を教えていただきたいのです。その人に重点的に人数をかけたいものですから」

 水沢は、尤もらしい理由をつけて、零美に一番騙されやすい男を選んでもらうつもりなのだ。零美は三人の命式を出し、それらをじっと見ながら考えた。

「でしたら、この室田益男さんですかね。この人は、人が好過ぎて誰でも信じやすいので、騙されやすくて心配ですね。この人にたくさん警護をつけてあげてほしいです」
「あっ、そうですか! わかりました。早速そうします。ありがとうございました」

 水沢は、深々とお辞儀をして店を出た。思い通りに事が進み、勝利を確信した水沢は、嬉しさを隠しながら飛び跳ねるように帰っていった。

 そして三日後、水沢を含めた三人の男たちは、約束通り百万円を加治屋に渡した。そして、誰をターゲットにするかでは、何も揉めることなく、水沢は室田益男を選ぶことに成功した。

 零美に教えてもらった通り、一番騙されやすい室田を選択出来た時点で、水沢は勝利を確信したが、嬉しさを噛み殺して平静を装った。

 そしていよいよ、後継者の椅子をかけて詐欺を行なう日がやってきた。水沢は室田の屋敷を訪れ、室田との面会を申し出たが、いくつものビジネスを展開する室田はとても忙しかった。随分と待たされた結果、夕方の少しの時間に室田と話をすることが出来た。

 今までの詐欺師としての実力を存分に果たした結果、水沢は見事に百万円の現金を手にする事が出来た。時刻を見ると、午後の八時になろうとしていた。

 水沢は急いでタクシーに乗り、約束のビルへ到着した。時計を見ると午後九時少し前。「やった!」水沢は急いで加治屋の待つ部屋に向かった。

 ドアを開けると、中は真っ暗だった。水沢が電気を点けると、そこには誰もいなかった。机の上を見ると、白い封筒が置いてある。その封筒を手にとり、中に入っていた便箋を読んでみた。そこには、達筆な字でこう書かれてあった。

「おめでとう。君はテストに合格した。君が騙した百万円は君のものだ。ただ、参加費三百万円は私がもらう。これが私のやり方だ。私はこれで引退する。君は私の後継者として、これからも頑張ってくれたまえ」

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投稿日:2019年1月9日 更新日:

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