第63話「飼い猫が伝えたかった祖母の愛」

 平日の午後、主を失った家の居間で、梶木里美は一人佇んでいた。大学進学でこの家を離れた里美にとって、半年ぶりの帰宅だった。

 ついこの前まで、この家には祖母の姫子が住んでいた。幼い頃に両親を亡くした里美にとって、姫子は親代わりの存在だったが、もう里美が頼る家族は誰もいない。

 ただ、人はいないが、人ではない家族はいた。里美の足元で甘えている猫のクロだ。里美が拾ってきたのだが、姫子が面倒を見ていた。

 里美はクロを抱き上げて、「クロ、これからは私と一緒に住もうね」と言った。クロは「にゃーん」と答え、嬉しそうに里美の胸に顔を埋めた。

 里美は、アパートを引き払ってこの家に住むことにした。大学までは遠くなるが、アパートではクロを飼うことは出来なかったのだ。

 久しぶりに帰ってきてみると、こんなにも広かったのかと驚いてしまった。死期を悟っていたのか、姫子は不要なものを整理していた。築数十年の古い家なのだが、綺麗好きの姫子がまめに掃除をしていたおかげで、それほど古さを感じることはなかった。

 一人でぼーっとしていた里美は、携帯電話を取り出して電話をかけた。以前から気になっていた占い師である、零美の店に行ってみようと思いついたからだ。

 一時間後、里美は零美の店に着いた。手にはクロを入れたキャリーバッグを持っていた。「こんにちは」と声をかけると「はーい。お待ちしていました」と零美が出てきた。

 席に案内してコーヒーを用意した零美は、キャリーバッグから見えているクロに向かって言った。

「可愛い猫ちゃんですね。名前は何て言うんですか?」
「クロです」
「黒猫だからクロですか? うちの猫も黒猫なんですよ」

 零美が「和美!」と呼ぶと、和美が「にゃーん」と鳴いてやってきた。零美は和美を抱き上げて、膝の上に乗せた。

「可愛い! 名前は和美ちゃんですか?」
「そうです」

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 和美は「にゃん」と鳴いた。本人は「こんにちは」と言ったつもりだった。

「梶木さんの相談事はなんですか?」
「実は、先生の噂を聞いたんですけど」
「はい」
「猫と話は出来ますか?」
「えっ?」
「この子が何か言いたそうにしているんですけど、私にはわからなくて」

 猫と話は出来るかと聞かれてどきっとした。和美の場合は、人間だった和美が乗り移っているから話が出来るのであって、そうでない猫と話が出来るとは思えなかった。

 里美はクロをキャリーバッグから出し、胸で抱きかかえた。零美はじっとクロを見つめるが、やはりよくわからない。

 すると、和美が「にゃん(お母さん)」と呼んだ。零美は和美に顔を近づけて「どうしたの?」と聞いた。和美は「にゃーん(私が話を聞いてあげるよ)」と答えた。そしてクロに猫語で話しかけた。

 クロも和美に猫語で答え、しばらく二匹の会話が続いた後、和美は零美に「にゃん(わかったよ)」と言い、クロの話を通訳した。そして零美は、それを里美に話し始めた。

「わかりましたよ、クロの言いたいことが」
「えっ? 本当ですか?」
「クロは、お祖母ちゃんの遺言を言いたかったんです」
「お祖母ちゃんの遺言?」
「クロは、一生懸命に畳を引っ搔いていませんでしたか?」
「はい、確かに。そうです。畳を引っ搔いていました」
「畳の下に、お祖母ちゃんの遺言があります。さあ、今から見に行きましょう」

 そう言って、零美は立ち上がった。急かされるように里美も立ち上がり、二人と二匹は里美の家に向かった。

 里美の家に着くと、姫子がいつも座っていた居間に行った。見ると、畳に猫の引っ搔き傷があった。零美は「この畳を取ってみましょう」と里美に言った。里美はマイナスドライバーを用意し、畳の縁に引っ掛けて持ち上げた。そして、二人でせーので畳を引き上げた。

「ああーーーー!」と里美は声を上げ、「すごい……」と零美は呟いた。畳の下には、ぎっしりと一万円札が敷き詰められていた。そして、茶封筒が二つあり、一つは預金通帳と印鑑が入っていた。

 預金通帳を開いてみた里美は、再び「ああーーーー!」と叫んだ。残高は一千万円だった。また、もう一つの封筒には、里美を受取人にした保険証券が入っており、死亡時の受け取りは一千万円だった。そして、敷き詰められた現金も、同様に一千万円あった。

「お祖母ちゃんは、あなたに遺していったんですね。ここまで貯めるのは、大変だったと思いますよ。愛ですね」

 下を向いたまま動かない里美の目からは、大粒の涙が落ちた。

「実は私、お金のことが一番の悩みだったんです……。大学も辞めないといけないかなって思ってたんですけど……」

 里美はクロを抱き上げ、頬擦りをした。

「お祖母ちゃん、クロ、ありがとう」

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投稿日:2019年1月14日 更新日:

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