第64話「資産家殺人事件」

 ある日の午後、和美は零美の膝の上で、テレビのワイドショーを見ていた。丁度、先月起こった資産家の殺人事件が取り上げられていた。それは、都内に住む老夫婦が強盗に襲われ、夫の佐々木喜久蔵が殺され、妻の小枝子も軽傷を負った事件だった。

 事件から一か月経っても、警察は犯人の手掛かりさえ掴めない状況だった。すると突然、テレビを見ていた和美が「にゃん(お母さん)」と零美に話しかけた。

「どうしたの、和美?」
「あの家の猫に会いたい。あの猫に聞けば犯人がわかると思う」

 テレビに映っていた猫とは、退院して自宅に戻った妻の小枝子が抱きかかえていた、白い猫のことだった。

「あの猫、絶対犯人を見たと思う。行こう、あの家に」
「えーーーー? 和美が行くの?」
「ん? どうした?」

 零美が驚いて大きな声を出したものだから、傍にいた和彦が反応した。和彦には、和美の猫語は理解出来ない。ただ鳴いているようにしか聞こえないのだ。

 しかし、事件現場に行くためには、警視庁の川崎刑事に頼まなければならない。そのためには、川崎刑事の友人である和彦に、和美のことを説明しなければいけない。零美はそう思った。

「あのね、和彦さん。あなたにお話しなければいけないことがあります」

 改まって話し出した零美に、和彦は少し動揺した。なんだ? 離婚でも切り出されるのか? どうしよう。瞬時にいろいろと考えを巡らせながらも、和彦は姿勢を正して「はい」と答えた。

「こちらの猫の和美は……」と言ってしばらく間が空いた後、意を決して話を続けた。

「ただの猫ではありません」
「ただの猫ではない? じゃあ、どんな猫なの?」
「三年前に亡くなった和美の霊が入っています」
「えっ?」

 まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている和彦だった。しかし、すぐに理解したようだ。

「なるほど。そういうこともあるよね」
「大丈夫? 本当にわかっているの?」
「うーん。実はよくわからないけれど、零美が言うんだったら、そう言うこともあるんだろうなって」

 さすがに、今まで何度も、視えない霊と対峙してきただけのことはある。少しぐらいのことでは驚かなくなったようだ。

「私も猫とは話は出来ないけれど、和美とだったら話は出来るの」
「なるほど。そうなのか」

 零美が和美を離すと、和美は和彦の方に行った。和彦は和美を抱き上げた。

「でも良かった。こうしてまた、和美と会えたんだからね」
「にゃー(お父さん)」

 和美は和彦の胸に顔を埋めて甘えた。

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「それでね、和美が、この前殺された資産家の家に行きたいって言うのよ」
「どうして?」
「その家の猫と話をして犯人を聞き出すんだって」
「そうか。それは警察も助かるね。じゃあ、川崎に電話してみよう」
「川崎さんにも言うの? 和美のこと」
「うーん、あいつも結構、君と関わっているからね。案外受けいれてくれる気がするけど」

 和彦はそう言って、川崎に電話をかけた。和美のことを説明すると、そういうこともあり得るかもね、とあっさりと受け入れ、事件現場に行くことを許諾してくれた。

 零美と和美が教えてもらった住所を訪ねていくと、家の前で川崎刑事が待っていた。

「零美さん、ご苦労様です。こちらが和美ちゃんですか? よろしく和美ちゃん」

 川崎刑事は、キャリーバッグの中の和美に挨拶をした。和美は生前、川崎刑事には何度か会っていた。「にゃーん(川崎さん、こんにちは)」と挨拶したが、川崎には和美の言葉はわからなかった。

 妻の小枝子に対しては、川崎刑事が零美のことを捜査関係者だと説明してくれた。「この度はお気の毒でした」と挨拶をすると、小枝子が黙ってお辞儀をした。小枝子の足元には、テレビで見た白い猫がいた。

 零美が静かにキャリーバッグを下ろすと、和美は中から白い猫に話しかけた。

『こんにちは。私の名前は和美って言うの。あなたのお名前は?』
『……ミシェル』
『ミシェル、良いお名前ね。今日はあなたに聞きたいことがあってきたのよ』
『聞きたいことって……なに?』
『この家のご主人を殺した犯人は、誰?』
『……』
『お願い、教えて』
『……ちょっと来て』

 ミシェルが犯人を教えてくれることを零美に伝えた和美は、キャリーバッグを開けてもらい、ミシェルの後をついていった。

 奥の部屋に入ると、テーブルの上にあった写真立てを指差し、『真ん中の男』と言った。それは、両親と映っていた息子の邦夫だった。

『邦夫が刺した』

 ミシェルの目は憎悪でいっぱいだった。和美は『ありがとう』と言い、素早く零美の元へ行った。

「にゃん(お母さん)」

 零美は和美を抱き上げて外に出た。誰もいないところで、零美は和美と話した。

「和美、犯人はわかった?」
「うん、わかった。犯人は息子の邦夫だって」
「息子? じゃあお母さんは、息子をかばって黙ってたのね」
「うん。だけど、ミッシェルはお父さんが大好きだったから、邦夫を許せないって」
「ミシェル?」
「あの白い猫の名前」
「ああ……」

 零美は、和美から聞いた内容を川崎刑事に伝えた。彼はすぐに邦夫の捜索を手配。ほどなくして邦夫は見つかり、犯行を自供した。動機は金銭問題。働かずに金を無心するばかりの息子と父親が言い争って刺してしまった。

 母親は止めに入った時に怪我を負った。息子をかばうために、強盗に見せかけたのも母親だった。こうして、事件は解決した。

 川崎刑事は零美と和美に感謝し、お礼に最高級のキャットフードをプレゼントした。和美はそれをお腹いっぱい平らげ、満足そうに零美の腕の中で眠った。

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投稿日:2019年1月15日 更新日:

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