第7話「友だちが少ない少女」

「こんにちは。お邪魔します」

土曜の午後、その少女はやってきた。前日に鑑定依頼の電話をかけてきた彼女の名前は荒川瑞希、高校二年生の十七歳だ。髪は肩ぐらいまであり、赤縁のメガネの奥に見える奥二重で切れ長の目が、知的な雰囲気を醸し出していた。

「いらっしゃいませ。お待ちしていました」
「初めまして。荒川です。よろしくお願いします」

礼儀正しいお辞儀が、高校生らしくて好感が持てた。白いブラウスに紺色のスカートが似合う、どこにでもいる女子高生だった。

席に案内しながら「カルピスでもいかが?」と尋ねると、立ち止まって「ありがとうございます」と頭を下げた。お中元でもらっていたカルピスがあったので、彼女にはカルピスが似合うだろうと思ったのだ。

彼女をソファーに座らせ、カウンターでカルピスを用意した。食後のコーヒーを飲んだ後だった零美は、彼女に付き合ってカルピスを飲む事にした。零美が両手で持ったグラスに入っている二個ずつの氷が、ぶつかり合って音を立て、店内に響いた。

「どうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」

少し慣れて緊張が解けたのか、お辞儀をした後の顔には笑みがこぼれていた。知的さを印象付けている赤縁メガネを外せば、きっと可愛らしい女の子になるのに、と零美は思った。

「荒川さんの悩みは何ですか?」
「私、友だちが少ないんです」
「友だちねえ……。私も友だち少ないんですよ」
「えっ? そうなんですか?」
「今はあまり気にならなくなったけど、確かに子どもの頃って、友だちがいるかどうかは大変な問題ですよね」
「はい」
「では、あなたのお名前と生年月日をこの紙に書いていただけますか?」
「はい」

左利きの彼女は、左手でペンを持って書き始めた。想像していたより字が上手くなかった。それを基に彼女の命式を割り出し、プリントアウトしてテーブルに置いた。

「荒川さんは、何をするにしてもまず、じっくりと考えるタイプですね」
「はい」
「計画を立ててから物事に取り掛かるから失敗も少ない。勉強にしても、まず目標を立ててから、そのためにはどうするかを考える。男性的な脳ですね」
「そうですか。ははは」

大きな口を開けて笑う事はしない。そのため、表情筋があまり使われていないのだろう。もっと表情が豊かになれば、友だちも増えるかも知れない、と零美は思った。

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「今は高校二年生ですね」
「はい」
「進路は決まっているんですか?」
「はい。東京大学を目指しています」
「えっ? 東大ですか?」
「はい」
「すごいですねー」
「いえ、それほどでも」

堂々と受け答えをしている姿に、相当の自信が見て取れた。

「将来は何になりたいんですか?」
「特に決まってはいないのですが、当面は東京大学に入る事が目標です」
「なるほど。周りも東大を目指している人が多いんですか?」
「私ぐらいです」
「そうですか……。じゃあ、周りから浮いている感じ?」
「まあ。ふふふ」

今の状況を冷静に分析して楽しんでいるようだ。特に友だちが少なくて困っているようには見えないのだが、彼女なりの理由があるのだろう。

「友だちが少ないと困る事でもあるんですか?」
「そうですねえ。世間一般的に、友だちが多い方が有利な気がするんです」
「まあ、少ないよりも多い方が、何かと有利かも知れませんね。でも、人間関係が増えれば増えるほど、いろいろと面倒な事も出てきますよ」
「はい」
「グループの中でも序列が作られるでしょうし、そうなるとイジメに発展する可能性もあります」
「はい」
「それに、学校を卒業したら会う回数も減って、付き合いも少なくなっていくでしょう」
「はい」
「大学に入れば、そこで新たな友だちが出来るでしょうし、就職したらまた、そこでの新たな友だちが出来ます」
「はい」
「今だって、小学校や中学校の同級生に会う機会も少ないでしょ?」
「はい」
「だったら、今の学校での人間関係は、そこだけの事ですから、そんなに深く付き合う必要はないと思うんですよ」
「はい」
「挨拶したりの最低限度の付き合いで、構わないんじゃないかしら」
「はい」
「塾へは行ってるんですか?」
「はい」
「塾でも友だちがいるでしょ?」
「はい。でも、そんなに深い関係じゃありませんけど」
「まあ、目指すところが同じだったら、ライバルになるわけだしね」
「はい」
「今荒川さんは、友だちが少なくて困る事はあるんですか?」
「いえ、特には」
「だったら、そんなに気にしなくても良いのではないでしょうか」
「はい」
「友だちって、無理に作るものじゃないような気がするんです」
「無理に?」
「そう。自然に出来るんじゃないかなあって」
「確かに」
「何か趣味が同じだったり、気が合うなあって思ってたら、いつの間にか友だちになってた。そんな感じじゃないかしらね」
「なるほど」
「私も友だち少ないけど、そんなに困ってませんよ」
「そうなんですか、ふふふ」
「お店に一回でも来てくれた人は、もう友だちって思っていますけどね」
「そうなんですね」
「私にしてみれば、今日ここに来てくれた時点で、荒川さんはもう友だちですよ。よろしくね」
「わあ、ありがとうございます!」

三十歳と十七歳、一回り以上も年齢差があるが、友だちになるのに年齢は関係ない。こちらこそよろしくね、と零美は微笑んだ。

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