第73話「髪の毛を入手せよ」

 ある日の午後、ゆったりとした時間が流れる中、零美と和美は昼食後の昼寝で夢の中だった。食べた後に眠くなる、それは人間も猫も同じである。その横で、和彦は仕事に没頭していた。

 静かな時こそ集中できる。和美が起きていると、どうしても構ってあげないといけない。まだ五歳児であると同時に、猫なのだから仕方がない。

 でもまあ、和彦にとっては、和美の体験したことを零美から聞いて、創作のネタが増えたことが喜ばしい。小説家は想像力が勝負だ。自分が体験できることには限界がある。

 嘘だろ、そんなことあり得ないという話を考えるのが仕事だ。亡くなった人間が猫に憑依して母親と話をする。それだけでも「嘘だろ」である。

 さらには他の猫の話を聞いて、それを母親に伝えて問題を解決する。時にはいなくなった猫を捜し、迷子になった老婆の自宅を見つけ出す。

 そんなことが自分の身近で起きているのだ。これは小説家にとってたまらなく嬉しいことだった。パソコンに向かいながら、自然と顔がにやけてくる和彦だった。突然、和彦の携帯電話が鳴った。友人の川崎刑事だ。

「もしもし、川崎?」
「おう、加賀美。仕事中じゃなかったか?電話、大丈夫か?」
「いいよ。どうしたの?」
「実はさ、奥さんと娘さんに頼みたいことがあるんだけど……」
「あ、そう。事件のこと?」
「うん。事件というか、まだ事件じゃないけど……」
「あ、そう。じゃあ、直接聞いてみれば」
「うん。今から行くよ」

 そう言って、川崎刑事は電話を切った。三十分後、零美と和美が昼寝から目覚めたので、川崎刑事が来る旨を伝えた。和美は、何を頼まれるのかとわくわくして待っていた。

 川崎刑事がやってきた。和美は「にゃーん」と喜びの声を上げ、川崎刑事に抱きついた。「和美ちゃん、久しぶりー」と頭を撫でてもらい、嬉しそうな顔だ。「ところで、頼み事って何ですか?」と零美が尋ねた。

「実は、ある有名女優に覚せい剤使用疑惑がありましてね」
「有名女優?」
「この人です」

Sponsered Link



 川崎刑事は携帯を取り出し、画像を見せた。それは、美人女優で有名な進藤琴絵だった。三十八歳の彼女は、映画やドラマで活躍している実力派女優であり、離婚再婚を繰り返す恋多き女性としても有名だ。

「これは一課の仕事ではないんですが、個人的に気になっていまして」
「個人的に?」
「実は……僕は彼女のファンなんです」

 頭をかいて照れ笑いをする川崎刑事。

「なるほど。それで、和美は何をお手伝いしたら良いのですか?」
「今度、彼女がドラマ撮影をする時に、僕と一緒にテレビ局に行ってほしいんです」
「テレビ局に?」

 テレビ局と聞いて、和美は嬉しそうに小躍りした。

「お母さん、私行きたい、テレビ局!」
「行きたい?」
「うん!」

 零美は、和美が行きたいと言っていると川崎刑事に伝えた。「良かった」と川崎刑事は胸を撫で下ろした。

「でも、どうやってテレビ局に入るんですか?」
「それは、捜査の一環という感じで……」

 これは事件に関わることではない。ただの、川崎刑事のプライベートな興味に付き合うだけだ。進藤琴絵は、和美が好きな刑事ドラマに出ているということもあり、和美も乗り気なのだから、まあいっか、と零美は思った。

「お礼もさせていただきますから」と言って、川崎刑事は上機嫌で帰っていった。和彦もまた、小説のネタになると面白いなと、密かに期待していた。

 それから二週間後、その日はやってきた。迎えにきた川崎刑事に連れられて、和美はテレビ局に向かった。警備員に「極秘の捜査です」と言って警察手帳を見せた川崎刑事は、難なく潜入に成功した。

 途中、ドラマの撮影現場などがあった。知っている俳優たちがたくさんいた。川崎刑事に「声を上げないでね」と言われていた和美は、興奮を抑えながら見入っていた。

 その後、目的のメイク室にやってきた。和美の仕事は、進藤琴絵が使ったヘアブラシを回収し、別のものと交換すること。

 すると偶然にも、進藤琴絵がメイク室から出てきた。中に誰もいないことを確認し、回収に成功。外で待っていた川崎刑事と共に、急いでその場から撤収した。

 テレビ局を出て、「やったね!」と喜ぶ川崎刑事と和美。和美はその後、お礼の高級キャットフードを買ってもらって家路に着いた。

 その後、ブラシについていた毛髪の鑑定結果が出た。覚せい剤の成分は検出されず、進藤琴絵の疑惑は晴れた。

 テレビを観ながら「この人、テレビ局で見たよ!」と嬉しそうに話す和美。とりあえず、和美の好きなドラマは今のところ安泰である。

『雨の中の女 神野 守 短編集 第1巻』amazonで販売中!

https://www.amazon.co.jp/dp/B07FYRKPL2/

Sponsered Link



投稿日:2019年1月24日 更新日:

執筆者:

以下からメールが送れます。↓
お気軽にメールをどうぞ!

こちらから無料メール鑑定申し込みができます。お気軽にどうぞ!
お申込みの際は、お名前・生年月日(生まれた時刻がわかる方は時刻も)・生まれた場所(東京都など)を明記してください。
ご自身のこと、または気になる方との相性などを簡単にポイント鑑定いたします。何が知りたいかを明記の上、上記までメールを送ってください。
更に詳しく知りたい方には有料メール鑑定(1件5000円・相性など2人の場合は7000円)も出来ます。

最新の記事をツイッターでお知らせしています
神野守(@kamino_mamoru)





  • 1現在の記事:
  • 54200総閲覧数:
  • 39今日の閲覧数:
  • 182昨日の閲覧数:
  • 1168先週の閲覧数:
  • 3785月別閲覧数:
  • 29784総訪問者数:
  • 34今日の訪問者数:
  • 112昨日の訪問者数:
  • 846先週の訪問者数:
  • 2719月別訪問者数:
  • 116一日あたりの訪問者数:
  • 1現在オンライン中の人数:
  • 2018年8月14日カウント開始日: