第74話「真夜中の訪問者」

 紺の背広姿の秋田進は、愛する妻に「いってらっしゃい」と見送られ、駅に向かって歩いた。髪は短く清潔感があり、温和な感じの彼は、一見すると何かの営業マン風に見える。

 昨夜に目星をつけておいた駅に降り、閑静な住宅街を歩く。街路樹の緑が心地良い。昔ながらの一軒家が立ち並ぶ、上品な街並みだ。

 秋田は、一軒の家のインターホンを押して「ごめんください」と声をかける。応答がない。留守のようだ。前後左右百八十度を見回して、周囲に誰もいないことを確認すると、庭を通って奥へと進んだ。

 勝手口を見つけ、再び周囲を確認した後、手袋を嵌め、鞄から取り出した道具で鍵を開けた。手慣れた手つきである。

 ドアを開けると、「こんにちは」と声をかけた。返事がない。「おじゃまします」と言いながら、そろりそろりと中に入る。

 彼は毎朝、会社に行く振りをして家を出た後、空き巣を繰り返している。そんな生活を三年続けているが、妻はそれを知らない。

 もともと秋田は会社勤めをしていたが、折からの不況で会社は倒産。再就職先が見つかるまで、当面の収入を得るために始めた空き巣が、今はすっかり生業となってしまった。

 秋田のモットーは、住人が盗まれたことを気づかないようにすること。財布の中身を全部ではなく、千円札を数枚抜き取る。決して物は壊さない。

 一日の目標を一万円とし、夕方六時には家に帰宅する。月平均は約二十五万円になり、それをまとめて月末に、自分の口座に入金しておくのだ。

 財布の中から数千円が減ったとしても、誰もあまり気づかない。時には数十万円が入った財布もあり、その時は少し多めに頂いていく。

 少しお金が減っていたとしても、何かに使ったかなと思う程度で、誰も傷つくことはない。秋田はそうやって、自分の行為を正当化していた。

 今日は午前中で、日々のノルマを達成していた。昼食を済ませ、意気揚々と歩いていると、【よろずお悩み解決所】の文字が目に入った。

 いつまでもこんな生活を続けてもいられないと思っていた秋田は、懐具合に余裕があったこともあり、ひとつ占いでもしてもらおうと考えた。

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「ごめんください」と声をかけると、「はーい」という可愛らしい声が返ってきた。そして、目の前に現れた零美を見て、秋田の胸は急に鼓動が激しくなった。

 零美の可憐な容姿は、四十過ぎの秋田の心に衝撃をもたらしたのだ。「か、可愛すぎる……」思わず心の声が出そうになるほど、秋田の好みにぴったりだったのである。

 「どうぞ」と席に案内され、コーヒーまで出された。そして、対面に座って微笑みを浮かべている零美が、まるで天使のように思えたのだ。

「気になることは?」と聞かれて「お金のことですかね」と答えた。聞かれるがまま、名前と生年月日を答え、鑑定が始まった。

 秋田の耳には、零美の声が美しい音楽のように聞こえ、聞いているだけでうっとりとしてくる。「財運ありますよ」など、他にもいろいろ言われたが、全く頭に残らないほど、秋田は零美の顔に見とれていたのだ。

 途中、我慢が出来なくなった秋田は、「トイレを借りて良いですか?」と言ってトイレに向かった。少しだけ尿をひねり出した彼は、そーっとトイレの窓の鍵を開けた後、水を流して外に出た。

「すいません。用事を思い出したもので、この辺で失礼させていただきます」

 そう言って、秋田は鑑定料を支払い、お礼を言って店を出た。その後ろ姿を、奥の部屋から和美がじーっと見つめていた。

 その後秋田は、喫茶店で時間を潰し、夕方六時には自宅に戻った。食事を済ませ、風呂に入った後、妻に「上京した田舎の友人に会ってくる」と言って家を出た。

 秋田が向かったのは、昼間訪れた零美の店だ。秋田は、零美の美しさが忘れられなかった。彼のもう一つの秘密は、好みの女性の下着を盗むことである。

 昼間にトイレに入った時、トイレの窓の鍵を開けておいた。そーっと店の裏に回り、トイレの窓に手をかけると、案の定、鍵は開いたままだった。

 時間は午後十二時を回っている。気づかれないように、そーっと窓から忍び込んだ。そして、トイレのドアを開け、店内に出た。

 店と住居はつながっている。寝室に向かう途中に脱衣所があり、洗濯機の横には、乾燥機で乾燥済みの下着が山積みになっていた。

 その中から、女性ものの下着を物色する。お目当てのものを数点見つけると、ズボンのポケットに忍ばせれば仕事は完了だ。

「さあ、いただきます」と手を伸ばしたその時、暗闇に光るものが見えた。その光るものは、「うーーー」という唸り声をあげ、突然秋田に飛びかかった。

 驚いた秋田はそれを払いのけ、取るものも取らずに、急いでその場を逃げ出した。そして、昼間入ってきた入り口から外へ逃げ出し、大通りでタクシーを捕まえて逃げた。

 物音に驚いて、零美と和彦が起きてきた。店の方に行ってみると、「ふーーー」と興奮した状態の和美がいた。

「どうしたの?」と零美が聞くと「泥棒がいた。でも、私が飛びかかったら、何も盗らずに出て行った」と、得意満面に和美は答えた。

「怖くなかったの?」と聞くと、「全然」と涼しい顔で答える和美だった。

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投稿日:2019年1月25日 更新日:

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